4-93. 最強だから勝利した
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楽しんでもらえますと幸いです。
「みんな、レブテメスプ様をお守りするのです!」
動きが止まったレブテメスプのフォローをするために盾のワルキューレが号令のように呼び掛けると、ワルキューレたちがムツキへ攻撃を仕掛けていく。
突撃槍を持ったワルキューレの突進は、彼のもう一つの手で簡単に受け止められ、盾を持つワルキューレの方へと投げ飛ばされて両方とも片付いた。
さらに、杖によって威力が増幅された連射魔法と銃火器による一斉掃射が彼へとしばらく撃ち込まれていくも、パッシブスキルが働いていない彼の身体に傷一つさえ付けられなかった。
「レブテメスプ、いつまでも呆けているとやられるぞ?」
「なっ! 呆けてなど……調子に乗るなよ!」
レブテメスプは呆けていたわけではなく出力を上げて、ムツキをハンマーで押し潰そうとしていたが、ムツキに止められていたハンマーがビクとも動かなかったのだ。
「そろそろ押し戻すぞ?」
「おわっ! なんの! ぐうううううっ! うわっ!」
ムツキは次の攻撃が仕掛けられる前に、エニアード・ハーミットのハンマーを勢いよく押し返して体勢を崩させると、レブテメスプがコックピットの中でしりもちをつく。それと同時に体勢を崩したエニアード・ハーミットが近付いてきたので、遠距離攻撃部隊が逃げようとして狼狽えている。
「さて、と」
両手の空いたムツキが仕掛ける。
彼は鎖付き鉄球の鎖を素手で引き千切ると、その鉄球を持って大槌の長い柄にぶつけて、大槌を柄の途中からポキリと折った。
あまりの彼の素早さに呆け気味になっていた双剣のワルキューレから双剣を奪い取って天井へとぶん投げて突き刺す。
次に、鞭を持ったワルキューレを持っていた鞭で手足や身体、口を縛り上げた。
「やはり、多少伸縮性のある方が良さそうだな」
ムツキは1人で何かに納得し、その後、大剣を持ったワルキューレからも大剣を奪い取って、まるで伝説の剣かのように床に深々と突き刺して抜けないようにする。
こうして、レブテメスプもワルキューレたちも大きな傷や痛みを伴うこともなく静かに制圧された。鞭のワルキューレだけは縛られてあられもない姿になっているためか、顔を真っ赤にしてムゴムゴと声にならない声を出している。
「少し勘違いしているようだが、俺は攻撃を無効化できるから最強なわけじゃないんじゃだぞ? 俺は最強だから最強なんだ。俺のパッシブスキルを打ち消したところで、俺の最強は変わらない」
ムツキはパッシブスキルがオマケのようなものと言いきった。
実際、この世界でゲームのようなステータス表示があるとすれば、彼だけが他の生物に比べて桁違いの数値を叩きだしており、まさしく、最強と名乗るのに相応しかった。
「ふっ! たしかに強いが、まだまだこれからさ☆ ワルキューレたち! 究極合体だ!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「むご!」
レブテメスプがそう叫ぶと、ワルキューレたちが呼応するかのように叫ぶ。それを見て、ムツキはまだ何かあるのかと少しうんざりしたような顔になる。
ムツキはサラフェとキルバギリーの方も徐々に気になり始めていた。彼女たちがお互いに本気を出せば、サラフェに勝ち目はほとんどないことを彼も分かっている。そのために彼は手遅れになる前に早く助けに行きたいと思っているが、レブテメスプを放置することも何をしでかすか分からないためにできない。
「あ、コックピットが見えなくなって、顔がかっこよくなった」
やがて、究極合体が終わる。究極合体とは、つまるところ、キルバギリーの外装モード同様に、ワルキューレたちがエニアード・ハーミットの外装として装着されているだけに過ぎない。
たしかに強くなってはいるものの、ムツキと比べると強化量は誤差程度だ。それよりもコックピットが見えなくなり、頭部も合体ロボのようになった方が変化も大きく見えていた。
「完全! 究極! ……スーパー・エニアード・ハーミット(仮)!」
ムツキは思わずコケた。
「……スーパーって、安直だな! というか、(仮)ってなんだ!?」
「名前を決め忘れていたからさ☆ 調整もまだ済んでないしね。次回はもっと強く、それにかっこいい名前で登場するさ☆ さあ、いくぞ!」
スーパー・エニアード・ハーミット(仮)はムツキの前へと超高速で移動し、その豪腕を超高熱になるまで温度を上げてストレートを放った。
だが、その拳は超高熱をものともしないムツキによって、彼の左手だけで容易に押さえ込まれてしまう。
「そんな程度のものに俺が負けるわけないだろう。もう手がないなら、サラフェとの約束もあるから、思いっっっっっきりぶっ飛ばされてくれ!」
ムツキが左手でスーパー・エニアード・ハーミット(仮)の拳を押さえつつ、身体を捻って右手を押さえ込んでいる拳にぶつけた。エニアード・ハーミットの部分、つまり、ワルキューレたちに影響がない本体部分に亀裂が入っていき、その亀裂が全身に達する。
「ぐわあああああっ!」
粉々になったエニアード・ハーミットの中からレブテメスプが放り出されるように身体が宙へと舞った。
「レブテメスプ様!」
「レブテメスプ様!」
「レブテメスプ様!」
「レブテメスプ様!」
「レブテメスプ様!」
「レブテメスプ様!」
「レブテメスプ様!」
「レブテメスプ様!」
「レブテメスプ様!」
ワルキューレたちに直接的なダメージはなかったが、外装モードからすぐに動けずに叫び声を上げることしかできなかった。
「【レヴィテーション】。俺にも【レヴィテーション】。さすがに見た目が子どもだから、大ケガはさせられないな」
とっさにムツキは【レヴィテーション】を唱え、レブテメスプに掛ける。その後、彼は飛び方を知らずに空中を漂うレブテメスプを助けるために自身にも【レヴィテーション】を掛けて回収したのだった。
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