4-92. 最終手段だから大きかった(2/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
ガシャン、ガチャン、ギュイーン、ガチャガチャといった様々な金属音だけでなく、効果音やBGMがして、変形していくUFOから煙幕が出るわ光が出るわの大騒ぎである。
さらには、どこからともなく別の乗り物のようなものまで登場し、煙幕の中でさらに金属のぶつかり合う音がする。
「え、変形だけじゃなくて、合体もするのか……」
ムツキは前の世界で幼少時代に見ていた合体ロボシリーズを思い出し、どの世界でも似たような思考の人はいるものだと理解する。それと同時に、彼は少しだけワクワクしている自分がいることも気付いた。
やがて、ド派手な演出の中から出てきたのは、全体的にレブテメスプの髪色と同じ黄緑色をした大きな人型兵器だった。
頭の部分には彼の乗っているコックピットが明け透けに見えており、レブテメスプはコックピットの中で立ったままポーズを取っている。
「合体ロボットは男のロマン! 超絶! 究極! 豪腕! 敏腕! エニアード・ハーミット! 爆☆ 誕☆」
「そんなハツラツな動きをするような隠者はいないだろ……あと、敏腕は言葉の系統が少し違うんじゃないか? 変形と言っていたのに合体もするし……」
ムツキはレブテメスプの言葉と操作に合わせてキビキビと動く人型兵器を見ながら、レブテメスプのネーミングセンスに呆れたようにそう呟いた。
「はっはっは。そう細かいことを言うなよ☆ ムツキだって男だから、ロマンの粋を集めたこのエニアード・ハーミットのカッコよさに惚れ惚れしてしまうだろう?」
「あー、まあ」
レブテメスプの問いにムツキは歯切れの悪い様子で曖昧な返事をする。彼には、首より下はともかく、顔がコックピットで操縦者が見えている状態のために正直あまりかっこよく思えなかった。
彼らの近くでは、9人のワルキューレが特に感慨もなさそうな無表情なままで小さく拍手をしていた。
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
「エニアード・ハーミット、かっこいい」
9人のワルキューレは一字一句違わずにタイミングまで同時にそうエニアード・ハーミットを褒め称えた。ただし、今もなお特に感慨もなさそうな無表情なままである。
「はっはっは。やはりこの娘たちは分かっているね☆」
ご機嫌なレブテメスプはコックピットの中でドカッと座り込み、満足そうな表情でムツキを見下ろしている。
「ワルキューレたちに言わせるなよ……えっと、そのエニハミは」
「略すな!」
名前を今一つきちんと覚えられていないムツキがとっさに4文字に省略してしまったので、レブテメスプはすかさずツッコミを入れる。
「まったく……さて、おふざけを聞くのもそろそろ終わりさ! さっそくボクからいくぞ!」
レブテメスプが語気を強めてそう叫ぶと、エニアード・ハーミットの右手の手首より先が腕の中に消えて、代わりに大きいドリルが右腕の先に現れて高速回転を始める。
その後、その巨体は意外にも素早く動く。背中に搭載したブースターが推進力を高めており、エニアード・ハーミットは一瞬にして、ムツキの目の前に現れてドリルを突き出した。
「おっと……俺に攻撃が当たる?」
ムツキは危なげなく避けるも、彼の着ていた服が一部破けてしまう。彼は自分の【バリア】やパッシブスキルが働いていないことに驚いていた。
「ムツキの【バリア】もパッシブスキルも解析済みさ☆ 無効化するための魔力消費は大きいが、すぐにはガス欠にならないぜ☆ 短期決戦で地の果てまでぶっ飛ばしてやる!」
レブテメスプは既にムツキを解析済みであり、彼の堅固な【バリア】やあらゆる攻撃を無効化するパッシブスキルたちを無効化することに成功していた。
さらに、彼はコックピット内のあらゆるボタンやレバー、コントローラーを駆使して、エニアード・ハーミットに最適な指示を与えていた。
伊達に自信満々で最強と呼ばれるムツキに挑んでいるわけではない。
「やっぱり、レブテメスプもなんだかんだで義父ズか」
ムツキは自分の最強を脅かす能力を持つ規格外な義父たち、ナジュミネの父、サラフェのパパの2人を義父ズというカテゴリに入れていた。その中にキルバギリーの生みの親であるレブテメスプも入ると確信した。
「なんだ? ごにょごにょと言っているんじゃ聞こえないぜ? ボクの攻撃だけじゃなくて、ワルキューレにも気を付けろよ?」
レブテメスプの忠告とほぼ同時に、ワルキューレたちがムツキに攻撃を仕掛ける。近距離から遠距離まで様々な攻撃が華麗な連携で繰り出される。
ムツキはキルバギリーに似た彼女たちを傷付ける気にはなれず、すべての攻撃を避けていくが、完全に避けられているわけでもないために衣類が次第にボロボロになっていく。
「おっと、これはちょっと、マズいか?」
「今さら泣いて謝っても許さないぜ☆ さあ、キールは返してもらうぞ!」
レブテメスプが叫ぶ。
エニアード・ハーミットの左手はいつの間にか大きなハンマーになっており、ムツキを真上から叩くかのように勢いよく振り落とした。
ムツキは驚いた様子もなく真っ直ぐにハンマーをただ見上げる。
次の瞬間。
「なにっ!?」
レブテメスプは驚きの声を上げる。
彼の放ったハンマー攻撃がいとも容易くムツキに片手で止められてしまったからだった。
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