4-89. 改造されたから戦うことになった(2/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
部屋は通常で考えれば広いが、戦うために動ける空間となるとそれほど広くない。その中をサラフェとキルバギリーがそれぞれの方法で縦横無尽に駆け巡る。サラフェは壁や天井を駆使して動き回り、キルバギリーは常に低空飛行で飛び回った。
サラフェの刀が弧を描こうとすると、キルバギリーは前腕の手首近くからブレードを出してその弧を歪ませる。次に、キルバギリーがお返しとばかりに逆の腕からもブレードを出して身体を捻りながら振り回すと、サラフェは隠し持っていた小刀を逆手で持って受け止めようとした。
しかし、サラフェはキルバギリーの攻撃を受け止めきれないと悟ったのか、ブレードの軌道を自分から逸らしつつ身を捩ってなんとか避けきり、その捩った勢いのままにキルバギリーが次に仕掛けようとしたレーザー銃の銃身を蹴り上げた。
照射されるレーザーが、壁際にあったお飾り装置を袈裟斬りのように斜めに断ち切った。
重く鈍い金属音が部屋に響く。
「やはり、【バリア】が働いていないですね。女の子どうしだからか、レブテメスプが何かしたのか」
サラフェは独り言ちる。
彼女はムツキの【バリア】を感じるも、キルバギリーの攻撃を止められていないことに気付いたのだ。彼女には理由が分からないものの、【バリア】を頼れないことだけを認識できたのでよしとした。
これはある意味、助かったともいえる。
サラフェもキルバギリーもムツキの【バリア】に守られていたとしたら、この勝負は絶対に決着がつかない泥仕合になっていた可能性が高い。もしくは、2人でなんとか【バリア】を解除する方法から考えなきゃいけないという周りから見れば訳の分からないことになっていた。
「ところで、ご自慢の魔砲は使わないんですか?」
サラフェはキルバギリーに皮肉気味にそう問いかける。
キルバギリーには翼を模した6つの魔砲があり、飛行状態で機動力を上げるためのブースターとして使うこともあれば、機動力を犠牲にして魔砲を使用することもある。
キルバギリーはその言葉に特に何を思うわけでもなく冷静な様子で口を開き始める。
「よくよく考えると魔砲を含む多くの武装は、サラフェを死に至らしめる可能性があるために使用できませんでした」
「……なるほど。それはありがたいハンディをもらいましたね」
サラフェはキルバギリーにほとんど勝てない、勝てる見込みがない。近接戦闘であれば、サラフェにも分があるものの、魔力の総量やキルバギリーの魔砲などの武装を考えると総合力で圧倒的な差がある。
そのため、キルバギリーが強力な武器を使用できないことは、サラフェにとってようやく同じ立ち位置に立てる条件だった。
「どんなハンディであろうと、私は負けません」
今度はキルバギリーから仕掛ける。彼女は翼を模した魔砲を2つだけ投擲槍のように変化させて自身と別の動きをさせつつサラフェに襲い掛からせた。
サラフェは四方八方から突進してくる2つの槍を気にしつつ、キルバギリーのブレード攻撃を避けなければならず、必死に青い瞳と手足を動かし続ける。
「【ウォーターフォール】」
サラフェがキルバギリーとの間に【ウォーターフォール】を放つ。上から下へと落ちていく水は、槍の1つを床に叩きつけてから水の流れのままに部屋の端へと追いやる。槍はブースター部分が水にぬれてしばらく動きそうもない。
その代償として、サラフェは魔法を放った後の硬直による隙をキルバギリーに見せることになった。
「隙あり! くっ!」
キルバギリーは隙のできたサラフェに向かって攻撃を仕掛けようとしたが、死角に忍ばせておいたもう1つの槍がサラフェの予め放っておいた刀に突き刺されて床に張り付き、キルバギリー自身も高速で落ちてきた小刀を思わず大きな動きで後ろへと避けてしまう。
「ええ、想定済みですよ」
サラフェは槍が突き刺さったままの刀をすぐさま手に取って大振りで振り回す。突き刺さっていた槍の側面部がそのままキルバギリーにぶつけられる。
「さすが、サラフェ。伊達にツインテールを振り回して周りにぶつけていませんね」
「別に振り回してぶつけるのが得意なわけじゃ……って、今」
「なんでしょう?」
一瞬、いつものキルバギリーが戻ってきたような感覚に、サラフェは驚いた。キルバギリーは自身の言葉に疑問を持っておらず、サラフェの驚きを理解できていない。
「気付かないほどに自然だった? 完全に消しきれてないのかも……ならば、なおのこと必ず記憶を戻してあげます」
サラフェは力強い言葉を発するとともに刀を強く握りしめた。
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