4-88. 改造されたから戦うことになった(1/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
扉の先は複雑だった。床も壁も天井も似たような金属や機械に覆われ、変わり映えのしない無機質な通路が無数の十字路によって網目のように広がっている。
キルバギリーは無言のまま、たまにサラフェの方をちらっと見つつ、低空飛行状態で右へ左へと方向の切り替えを混ぜ込みながら突き進んでいく。
サラフェは既に帰り道を見失っていた。ムツキの音声通信魔法【コール】も使えるか確認していないため、最悪の場合、自力でなんとか脱出しなければいけないと彼女は理解している。
しかし、彼女は帰りのことよりも今のことで手いっぱいだった。
「待って! 待ってよ! キルバギリー!」
「…………」
2人きりだと思ったからか、サラフェから普段出すことのあまりない少し弱ったような声がこぼれる。普段のキルバギリーならば、サラフェの方を振り返るだろうが、今の彼女は特に反応することも速度を落とすこともない。
サラフェは少しの寂しさとともに必ずキルバギリーを元に戻すと決意する。
「……ここです」
「ここは……あの施設と同じ雰囲気の部屋ですね」
キルバギリーが辿り着き、サラフェが追いついた先にあったのは彼女たちが出会った研究施設の最奥の部屋にそっくりな場所だった。
部屋自体は大きいものの、様々な装置が壁際にたくさん並べられているためにどこか狭苦しさや圧迫感を感じられる部屋だった。1つの壁一面には大きなディスプレイがいくつも設置されていているものの、出会った研究施設と異なり、監視カメラの映像が映し出されておらずに真っ暗なままだ。
このことから、この部屋はわざわざ思い出の場所に似せただけの場所だとサラフェでも気付いた。
「取り計らいなのか、はたまた、ただの嫌がらせか。いずれにしても趣味が悪いですね」
サラフェはそう呟いて、レブテメスプの顔が思い浮かびあがったようで、彼への嫌悪感が怒りを伴って蘇ってくる。
「さて、では、レブテメスプ様が仰っていたように、ここで私と戦ってください」
キルバギリーはサラフェの表情から怒りを読み取り、それを忘れさせるかのようにさっさと話を進めようとする。サラフェからすると、彼女のその行動は紛れもなく以前からの彼女と同様である。
「……決着の方法はなんでしょう?」
「相手を戦闘不能、もしくは、戦意喪失させた方が勝ちです。ただし、私はこの戦闘であなたを死に追いやるほどの力が使えないことを先に宣言しておきます」
「それはありがたいですね」
サラフェは引っ掛かる。緩さと言うべきか温さというべきか、ゲームだとレブテメスプが称しているためか、どこか彼が本気でキルバギリーを取り戻そうとしているのかが見えてこないからだ。
「レブテメスプ様から聞いています。あなたは私との適性が高いパートナーだったと。しかし、レブテメスプ様が戻ってきた今、パートナーは不要です」
キルバギリーが灰色の瞳を真っ直ぐにサラフェへと向けてそう言い放つと、サラフェは同じように青色の瞳を見つめ返していた。
ただし、サラフェの瞳は少し滲んでいる。記憶を失ったとはいえキルバギリーの口から不要という言葉を聞かされることになり、これまでの思い出が不意に懐かしさを伴って溢れ出てきたからだ。
「……記憶が」
「?」
「記憶が戻ってからもそう言うのであれば、サラフェは止めません。ムツキさんも説得します。きっとあなたの気持ちを汲んでくれます」
「……ムツキ。一時的にマスター権限を持っていた方ですね。記憶がないので詳細は分かりかねますが、決して悪い生活を強いられていなかったようですね」
「……そうですね」
サラフェは再び引っ掛かる。レブテメスプが新たな記憶を植え付けたにしては、こちらに都合が悪くないのは何故か。レブテメスプの真意が見えてこない。
「ですが、記憶とはいずれ消え去っていくもの。過去は過去のものとして切り捨ててなければいけません。今、そして、この先の未来永劫、レブテメスプ様の下で役割を果たすまでです」
「今のキルバギリーの答えは分かりました。あえて言いますが、記憶は風化して消え去るものだけではないです。ましてや、強制的に消されて終わりにするものでもありません。記憶の中でも想い出というものは、いつまでも大切に覚え続けられて、自分の心を強くするものです。これより先は思い出してから考えてください」
サラフェは刀を鞘から抜き放つ。刀身は受けた光を反射し、その後、2人をそれぞれ映し出した。
キルバギリーは普段隠している武装を全てさらけ出す。さらにはレブテメスプが新調したのだろう。サラフェが見たことのない大型の武装までお披露目されている。
「では、始めましょう、サラフェ」
「ええ、始めましょう、キルバギリー」
2人の掛け合いの後、サラフェは姿勢を低くして駆け出した。
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