4-85. 最強だから罠が意味をなさなかった
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ムツキはレブテメスプの要塞の入り口で敵地を睨み付けながら、バシッと決めポーズを取る。その横でサラフェが自分のツインテールの毛先を弄りながら、彼を不思議そうな目で見つめていた。
「……レブテメスプ……絶対にキルバギリーを取り戻すからな!」
「すごいですね……先ほどサラフェに下着まで穿かせてもらった人のポーズやセリフだとはとても思えないです」
サラフェ本人は嫌みのつもりがなく、ムツキの切り替えの早さに感心していた。しかし、言い方が悪く誤解を招いた結果、彼はポーズをすぐさまに取りやめ、彼女に向かって深々とお辞儀をする。
「……大人に戻れたこともあって、ちょっと調子に乗っていました」
「あ、ごめんなさい。誤解しないでくださいね……本当にすごいと思っています。それに、嬉しい気持ちは分かりますよ」
「あ、そうだ」
「えっ?」
先ほどの言い方が悪かったことに気付き、サラフェもムツキに謝った。お互いの雰囲気が良くなったところで、彼は何かを思い出したかのように彼女にそっと近づいて、少し屈みながら優しく抱きしめ始める。
「な、何をしているのですか!?」
サラフェは突然のことに顔を真っ赤にして、鼓動もいつもの数段ほど早くしている。
以前なら突き飛ばしてでも離れようとしていたが、今の彼女はそういう素振りすら見せず、ただなされるがままに抱きしめられていた。
「感謝の表現だ。迷惑を掛けたからな」
「……どういたしまして。ここまでしなくても伝わりますから」
サラフェがようやく落ち着き始めたのか、目をゆっくりと閉じて、優しい声色でムツキにそのような言葉を掛ける。
その2人の時間に痺れを切らし始めた試練くんがついに口を開いた。
「オイ、イチャイチャ、スルノモイイガ、ココガ、ドコカオボエテイルカ?」
試練くんは敵前でイチャイチャできる2人にジト目を送りつつも、その豪胆さに感心しているのか、呆れている程度の様子を示していた。
「そうですね。キルバギリー……必ず」
サラフェがムツキから離れ、入り口の前に立つ。その手にはメモリーチップのようなものが握られている。それはキルバギリーとの思い出があるレブテメスプの研究施設でサラフェが自身の試練の最中に手に入れたものだ。
「ここは前みたいにサラフェが罠の位置を知っているわけじゃないから、慎重に行かないとな」
「ふと思ったのですが、ムツキさんなら罠が効かないとかありませんか?」
サラフェがそもそもムツキなら何があっても大丈夫ではないかと考えるに至った。遠距離から近接、物理から魔法まで、すべての攻撃を受けることがほぼない彼が罠にかかる道理などないと彼女は考えている。
「あー、どうだろう? でも、たしかにそうだな。試しに俺が先に進んでみるか」
サラフェの意見に納得したムツキが先頭をかってでる。
彼が進み始めた途端に、金属針のようなものが無数に射出される。しかし、彼の【遠距離攻撃無効】によって、その金属針は彼に触れることもなく、彼のアイテムボックスの中へとまとめられてしまう。
その次に出てきたのはレーザー光線の照射だったが、これもまたムツキがまるで自分の前に鏡でも用意しているかのように照射装置の動力源へとレーザーを反射させる。反射されたレーザーにより、照射装置は自壊して動きを止める。
「……罠を避けているというよりも罠が自ら避けていると言っても過言ではないですね」
「おわっ! 【レヴィテーション】!」
ようやくムツキが焦る罠、落とし穴が現れるも、彼が浮遊魔法【レヴィテーション】を唱えたことで事なきを得る。落とし穴の底では無数の金属の針が彼を待ち構えていたが、彼と針が出会うことはなかった。
サラフェは試練くんを抱きかかえながら、彼の後をゆっくりと追っている。
「迫り来る天井か! ……ん? 【バリア】で止められているな」
ムツキが落とし天井に気付き、両手を上にかざすが、彼の手が天井に触れる前に彼の【バリア】が何事もないかのように天井を止めた。
サラフェは彼との身長差のおかげもあって、彼が止めている間にスタスタと歩いて進む。
「大岩じゃなくて大きな鉄球だ! ……これも【バリア】で止められているな」
ムツキが自分の方へと転がってくる大きな鉄球に気付き、鉄球の方へと向き直り手を前にかざす。
しかし、鉄球はやはり落とし天井と同様に彼の【バリア】に阻まれて、その勢いをすべて失ってしまう。さすがに通路の邪魔になると思った彼が鉄球にパンチをすると、鉄球は粉々になって砕けた。
「ほぼ【バリア】が万能ですね。罠泣かせもいいところです」
サラフェはもはや驚きさえもしなかった。
「まあ、罠が問題ないに越したことはない。先へ進もう」
ムツキたちは結局罠に阻まれることなく先へ先へと進んでいった。
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