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4-84. 戻ったから解けた

約2,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 ムツキは試練くんとサラフェとともに、【レヴィテーション】で地上と平行になるような状態で空を飛びながら、レブテメスプの居場所へと向かっていた。


「サラフェ、大丈夫か?」


「……大丈夫です」


 試練くんはムツキの頭の上であぐらをかいて座っており、サラフェはムツキに抱きしめられつつ抱きしめ返していた。彼が背中に乗るように彼女に伝えたところ、彼女は背中とはいえ男の上に馬乗りになることに抵抗を覚えたようで頑なに断ったのだ。


 彼女は彼の胸の中でその温かさを感じている。ただし、足がぶらつかないように彼の腰に足を絡めているので、傍から見るとまったくロマンチックさがなく、子どもがしがみついているようにしか見えない。


「ムツキ、コッチノホウダゾイ」


「分かった」


 試練くんは大まかな感じで都度ムツキに方向を指示する。ムツキは何も疑うことなく言われた方向へと進んでいった。


 やがて、人族の領地の中でも険しい山々がそびえ立つ場所まで辿り着く。人族の始祖と呼ばれるレブテメスプなら、魔人族の領地よりも人族の領地にいる可能性は十分に高い。しかし、彼らが見渡す限り、建造物はおろか人がいる痕跡すらない。


 ひどく寂しい場所だった。山の天気は変わりやすいと彼らに伝えるかのように、ポツポツと降り始めた雨がすぐさまザアザア降りに変わり、風がどこからともなく強く吹き、果ては稲光まで突如鳴り響く。


「ん? 大丈夫だぞ、サラフェ。雷が怖いなんて、かわいいな」


「かわっ! べ、別に雷が怖いわけでは……っ!」


 ムツキの周りにいれば雨も風も雷も影響がないため、雨風の寒さに震えることも雷の直撃を恐れることも必要などない。


 しかし、サラフェは雷が怖いようで震えている。彼はそんな震える彼女を少し強めに抱き締めながら優しい言葉を掛けていた。強がろうとする彼女も稲光が見えると、無意識に身体が強張ってしまう。


「オ、ココダゾイ」


 試練くんが急にそう告げる。ムツキはゆっくりと地上と平行状態から垂直状態、つまり、空中で立っているような向きへと変わり、サラフェをお姫様抱っこする。


 彼女は少し気恥ずかしかったが、雷がまだゴロゴロと鳴っていることもあり、彼の首に腕を巻き付け、顔を少し竦ませるように丸くなっていた。


「ん? 俺には山肌しか見えないけどな。こんな何もない所に、レブテメスプが……」


「そうですね。ですが、試練くんが言っている通りかもしれません。サラフェには、なんとなくキルバギリーを感じられます」


 サラフェはムツキの言っていることも理解できるが、自分が感じているキルバギリーの気配を信じている。


「ソウイウコトダ。ウソナド、イウモノカ」


「そりゃそうだが、うーん。建物らしい建物はないけどな」


 ムツキは別に試練くんやサラフェを疑っているわけではなく、感知できていない自分がどうすれば感知できるようになるのかについて、思いを巡らせていた。


「ハイイロガミノオンナモ、ツカエテイタハズダガ? ギソウダゾイ!」


「擬装か! だとすると、それをどうやって見破るか。感知系はあまり得意じゃないんだよな……うーん」


「ドウヤラ、ソノシンパイハ、ナイゾイ。アチラカラ、カンゲイシテクレルヨウダゾイ」


 ムツキがウンウンと唸っていると、試練くんが2人の注目を向けさせるためにある方向に指を差す。その指差す先に突如として、金属の表面をむき出しにした建造物が現れる。


 その建造物は以前ムツキとサラフェが彼女の試練で向かったレブテメスプの研究施設と全く雰囲気が異なり、山肌を削り取った上に用意した要塞のような物々しさが建物全体から垣間見える。


「だとすると、招かれざる客ではなくなったようですね」


「待ち構えているわけだな。さて、何が出てくるやら。お茶……なわけないか」


 レブテメスプは最強であるムツキを最大限警戒していた。その彼がわざわざ建造物の擬装を解くことにムツキもサラフェも違和感を覚える。


 罠か、遊びの続きか。


 いずれにしても、すぐにはキルバギリーを取り戻せる感じではないと2人が悟った。


「ムツキさんなら大丈夫ですよね?」


「もちろんだ。キルバギリーは取り戻す」


「頼りにしています」


 サラフェの期待に応えるべく、ムツキは余裕のある笑みを浮かべてこくりと肯いた。


「じゃあ、行く……」


 その時だ。


 ムツキの服が煙のように消えて、彼はまるで始めからそうだったかのように自然と全裸になる。ちょうどミクズがコイハに主人格を交代したタイミングで、衣服の代わりにとっさに身に着けていた狐火が消えてしまったのだ。


「…………」

「…………」

「…………」


 誰もいないような山々の空中に立つように浮かび、風雨に加えて稲光も放たれている中、紫髪の頭の上に人形のようなロボを乗せ、両腕で少し幼げに見える女性をお姫様抱っこする全裸の細マッチョ男がいる。


 どこをどう捉えたとしても異常である。


 このような状況にその場にいる全員が無言、正確には絶句していた。多少の救いがあるのは、誰もいないような場所なので衆目に晒されることがなかったことくらいである。


「えっと……これは……」


「分かっています。ミクズさんが意図的に解いたか、ミクズさんが解かなきゃいけない状態になったか、そもそもムツキさんの服装のことを忘れていたか、ですね」


 全裸のムツキはひとまず、この状況が自分の意志ではないことをサラフェに伝えようとするが、彼女もそれを十分に理解しているために彼が全てを言わずとも縦に頷いた。


「忘れ去られただけであってほしい。ミクズに何かあってほしくはないからな。あと、こんなイジワルをされたと思いたくない……」


「……それはさておき、服はありますか?」


「一応、アイテムボックスの中にある」


 サラフェはホッとする。ムツキが予備の服を持っていなければ、全裸で敵地へと乗り込むか、一旦家に戻るかしなければならないからだ。


「それならよかったです。着せてあげますから、降りましょう」


「ありがとう、すまない」


 その後、ムツキは着脱不可の呪いから自身で服が着られないため、サラフェに下着から何から着せてもらった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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