4-Ex18. 残ったから話が始まった(2/2)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ミクズはメイリを横にして寝かせ、すっくと立ちあがる。彼女はすべてが終わったようなとても満足げな様子で嬉しそうな表情を浮かべていた。
「え? ミクずん? 眠るって本当に寝るって意味?」
ユウの問いに、ミクズは先ほどとは異なるニコッとした笑みを露わにしてから扇子で顔の下半分を隠した。
「……コイハも起きておるしな。ようやくコイハにこの身体を返してやれるのじゃ」
「もう現れないつもりか?」
ナジュミネの問いに、ミクズは静かに目を閉じた後、しばらくして首を横に振った。
「それなんじゃが……最初はそう思っとったのじゃがな。コイハと話をする時間があって話し合ってみたら、我が存在している限りは、たまに顔を出してもいいとのことじゃ」
「じゃあ、ミクズにもまた会えるのかしら?」
「そういうことじゃな。なので、これをコイハに渡しておくのじゃ」
ミクズが着物の袖から取り出したのは、目を閉じたミクズの顔を模している仮面だった。ただの仮面、モノであるはずのそれから、まるで生物かのように精気を感じられ、女の子たちは不思議な顔で見つめる。
「面?」
「我の精神の一部をこちらに移しておくのじゃ。コイハがこれを顔の前に、つまり、被ったときにコイハの中の我と面の中の我が合わさって、コイハと主人格を交代するようにするのじゃよ。最長で1日経ったら自動で面が現れて、強制的にコイハに戻る仕掛け付きじゃ」
ミクズはこういったこともできると言いたげな得意顔をナジュミネに向ける。
「時間制限……そんなことまでするのか?」
「……楽しいといつまでも居たくなるじゃろ? それはコイハに悪いのじゃ。ちなみに、コイハと我とでは、日常面ではほとんど変わらんのじゃが、戦闘面では大きく異なる」
「あら、そうなの?」
リゥパがミクズのその言葉に不思議そうな顔をして聞き返し、ミクズは彼女の方を見ながら、狐火をポポンといくつも出し始める。
「ああ、コイハは強化魔法が得意だから周りを支援するとき、我は【狐火】と【変化の術】、その応用が得意だから敵を惑わすとき、それぞれが状況に応じて現れるようにするのじゃ」
「ふむ」
ナジュミネはコイハの場合とミクズの場合での戦術や戦略を頭の中で考え始める。2人がスイッチできるという利点も考慮し、戦術の幅が広がるようでニヤリと笑みを浮かべた。
「ミクずん、夜は?」
「は? 夜?」
ナジュミネの隣にいたユウが思い出したかのように、話を変える。夜という単語を聞いて、ナジュミネもまた会話に参加する。
「たしかにそうだな。ミクズも旦那様と夜をともにしたいなら、順番に組み入れる必要があるな」
「そこまで考えてくれるのはありがたいのじゃが、それは今度でもいいじゃろ。正直、この数日でくたくたじゃよ」
ミクズは手を自分の肩に当ててトントンと軽く叩く。
「そういえば、改めて礼を言う。メイリの試練を手伝ってくれてありがとう」
「まあ、好きでやったことでもあるからよいのじゃ。それでお咎めなしにしてもらえるとありがたいのじゃがな」
「ああ、お仕置きか。そうだったな。すっかり忘れていたな……旦那様に任せるか」
ナジュミネが意地悪そうな笑みを浮かべ、ムツキを話に出してきた。ムツキ、お仕置き、という組み合わせがミクズの身体をビビクッと震わせる。
「や、やめい! これはコイハの身体なんじゃぞ!」
「はっはっは。冗談だ」
「心臓に悪い冗談はやめてほしいのじゃ……それじゃな」
ミクズは口を尖らせつつ、扇子を開き、顔を誰にも見られないように覆う。すると、ミクズの仮面がすっと扇子の下から落ちるように出てきた。
すかさず、キャッチしたのはコイハだった。尻尾は1つで白く、着物から出ている部分も狐のようになる。
「……なんか、俺のせいでとんでもないことになってしまった。すまないっ!」
コイハは開口一番、全員に深々と頭を下げて謝る。彼女は自分のボーナス試練である結婚式によって、いろいろなことが起こり過ぎたことで心を痛めていた。
ユウ、ナジュミネ、リゥパは首を横に振る。
「おかえり、かな? ううん。別にコイはんも誰も悪くないよ」
「そうそう、そういうのは言いっこなしよ」
「そういうことだ。今は旦那様の帰りを待てばいいさ。コイハ、よく戻ってきてくれたな」
「……ありがとう」
コイハがうるっとしながら、鼻をこすっていると、ボーっとしていたメイリがピクリと反応した。
「あ、コイハだ……」
「メイリ、とりあえず、部屋でゆっくり休むか。疲れたろ?」
「うん……ダーリンの帰りを一緒に待ってくれると嬉しいな」
メイリはコイハに連れられて、自室でゆっくりと休んだ。
最後までお読みいただきありがとうございました!




