4-81. やりすぎたからお仕置きされた(2/2)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
「あ……」
メイリの身体はムツキの言葉でピンと真っ直ぐになった後、急に弛緩したようになって扉に寄りかかるようなポーズを取った。
彼女の野生の勘が、彼に捕まってはいけない、と最大限に警笛を頭に響かせる。しかし、同時に、捕まるという選択肢のほかない、とも気付いていた。
「ちょ、ちょっと野暮用ってやつだよ」
メイリは逡巡する。逃げられないなら、いっそのこと懐に飛び込んで、泣き落としで回避できないかと。
しかし、それを選択するにはあまりにも遅すぎた。嬉々としてムツキの嫌がることをイタズラとして実行したと豪語までしてしまったのだから、この後にどのような言葉を重ねたとしても容赦などあり得ない。
ムツキは独占欲が強い上に、仕返しをするまで許せないという大人げない部分もある。
「俺よりも優先されることか?」
「ひっ……そ、そんなことない……けど……ダーリンは優しいから」
メイリの呟く誉め言葉は焼け石に水だった。ムツキの瞳が紫色に淡く光っているときは何があっても許されない。
「【バインド】」
「あ! ひ、ひぃ……うっ……ひうっ……あ、あの……いつもよりちょっと、やらしい感じに縛られているのは……どうしてでしょうか?」
ムツキの【バインド】がメイリを縛り上げる。
彼女が珍しく丁寧な言葉でそう問いかけるように、彼の【バインド】はいつもの腹部辺りで腕ごとぐるぐる巻きにする縛り方ではなく、身体が強調されるような縛り方だった。
「前にメイリ、【バインド】も嫌いじゃないって言っていたよな?」
「ど、どうだったかな?」
メイリはいつもの雰囲気のムツキとならこのような縛られ方も状況も大歓迎である。その後に多少痛いことがあっても、優しくしてもらって、楽しんで、気持ち良ければ、彼女は満たされた気持ちになるだろう。
しかし、今の状況ではそのようなことを望むべくもなかった。
「あと、前にも言ったけど、俺にも許せないイタズラや冗談があるって言ったよな?」
「ど、どうだったかな?」
メイリは後悔する。せめて、自責の念に駆られながらもやむなく試練を超えるためにしてしまったと弁解すれば、ムツキもここまで怒ることはなかったと確信している。
基本的に彼は優しい。自分や自分の大切な人を傷付ける行為でなければ、大抵のことは許しているし、仮に傷付ける行為があったとしても、それ相応の罰を受ければすぐにでも水に流してくれる。
ただし、裏を返せば、何かあった際に相応の罰を受けるまでは彼が許さないという意味合いも込められている。
「……そうか。たしかにまだ出会って1年も経ってないからな。メイリはまだ俺のことがよく分かっていないし、俺もまだメイリのことを分かっていないのかもな」
「そ、そうかも!」
「どうだろう? もう少しお互いのことを分かってもらうためのスキンシップが必要だと思うんだ。リゥパもそれで分かってくれたしな」
「リ、リ……ひいいいいっ……み、ミクズ……」
「…………」
メイリは無言のミクズに助けを求める。リゥパの二の舞になってしまうことに怯えすら感じたからだ。
男女の営みに至らない中途半端な快楽に身悶えて、満たされない身体になる。ムツキとリゥパの約束だと、彼が本当に大人に戻るまで続くようだ。ただし、メイリも期限が同じか決まっているわけではない。
「ミクズはどっちの味方だ?」
「わ、我はいつでもお前様の味方じゃ」
ミクズはメイリの言葉に一切触れることなく、ムツキの問いに全力で答えた。
「あ! 裏切り者! 以前の友情を感じるセリフは何だったんだよう!」
「もちろん。友情も大事じゃけど、ハビーのことが何よりも優先なのじゃ!」
メイリは以前自分の使った言葉をそのまま返されて取り付く島がなかった。
「あ……あぁ……んきゅうっ……ふうっ……ごめんね、ダーリン、許して……」
「大丈夫だ。俺も悪魔じゃない。試練を超えるため、ってこともあるし、情状酌量の余地がある」
「だ、ダーリン……」
ムツキの言葉が急に柔らかくなり、彼がいつもの優しい笑みを浮かべているため、メイリの顔はパっと明るくなる。
「だから、リゥパよりちょっと強めくらい? のお仕置きで勘弁するさ。もちろん、【チャーム】も掛けないから安心してくれ。でも、短い時間で済ませるから、【友好度上昇】はかなり上げて、かなり濃密な時間になるけどな」
メイリは目の前で命綱を切られて谷底へ落ちるような感覚に見舞われた。ミクズも自分のことでもないのに固まる。
「……いやあああああっ! 助けてえええええっ! やっぱり、リゥパみたいな感じになるの怖いいいいいっ! というか、それ以上ってどうなるのおおおおおっ!」
「ミクズ、俺を大人に変化してくれ」
「分かったのじゃ。【変化の術】」
「ありがとう。さて、メイリ、楽しい、楽しい、お仕置きの時間だぞ? 大丈夫、痛くはないし、変な所は触らないからな」
「むしろ、なんでそれで、リゥパがあんな感じになるのおおおおっ!? 許してえええええっ! むぐっ……ふーっ……ふむーっ……ふぁ……あっ……んふっ……んっ……」
ムツキはメイリの叫びを止めるかのように自身の唇を彼女の唇に優しく押し当てる。その後、彼は制限の指輪を外して【友好度上昇】のスキルを強めつつ、彼女の耳や背中などを優しく触れながらお仕置きを始めた。
「許せ、メイリ……我はコイハの身が一番大事なのじゃ」
ミクズは尻尾を綺麗に丸め、目を閉じ、耳をぺたんと閉じる。それは、ムツキの【友好度上昇】に当てられて彼女が自分からお仕置きを要求しないように、何も視ず聴かず反応せずを貫くためだった。
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