4-77. 気分を変えたから気付けた(1/2)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキとメイリが房中術を始めて、既に3日ほど経過していた。少しずつ彼女が彼の気の質を理解し、ミクズから見れば、もう十分というところだった。
しかし、十分なはずなのにもう少しが何か足りていないのだ。
「いかん、保てぬ。交代じゃ。しかし、何じゃろうな」
その後、【変化の術】が解けて子どもに戻ったムツキの服を着せているミクズが少し悩んでいる様子でそう呟く。
ミクズから見て、メイリの気の質は既に及第点を超えている。黒狸族のメイリがここまで気を合わせられているのだから、彼女が【変化の術】をムツキに掛けるのは既に容易なはずだった。
しかし、先ほど試してもうんともすんともならない様子だった。
「俺の方で何かできることないか?」
「お前様はきちんと役割をこなしておる。それに本当は嫌なことじゃろうに」
ミクズはムツキを抱き締めて魔力補給をしつつ、彼を慰めるように呟く。
「そんなことはない。前にミクズが言ってくれたように、この姿なら気にならないことが分かった」
ミクズはここで何かを感じ取ったかのように怪訝そうな顔をする。
その何かとはムツキの魔力が安定していることだった。安定していることはすなわち、魔力の強さも安定しており、外部からの影響を受け入れづらいということでもある。
ここで彼女は1つ策を講じた。
「……まあ、別に元に戻らんでも、【変化の術】で女の子の相手をさせてやるのじゃ」
「それは勘弁してくれ……早く元に戻りたいに決まっているだろ……あっ……」
ムツキが何の気なしに放った一言は、試練を達成できておらずにベッドの脇で焦りを見せているメイリの頭に重く圧し掛かってきた。彼女の周りの雰囲気は誰がどう見ても、ズゥゥゥン……といった音を出すかのように重苦しい。
やがて、彼女は彼が今まで見たことのないほどにひどく落ち込んだ様子で彼の方を見る。
「ううっ……ごめん……ボクがダメなばっかりに……」
「メ、メイリを責めているわけじゃないぞ」
ムツキが優しい言葉を掛けるも、メイリはゆっくりと首を横に振る。彼女は相当に気が滅入っているようでこの数日、徐々に言葉数も少なくなっていた。
そこに彼からの何気ない一言が決定打となった。
「……ちょっと外で休んでくる」
メイリが今にも泣き始めそうな小さい声だった。か細く、勢いもなく、言葉がまるで漏れ出た溜め息のような雰囲気である。
「メ……」
「お前様、今は我の回復が先じゃ。メイリもずっと部屋の中じゃ息詰まるじゃろ」
メイリの方へと手を伸ばして追いかけようとするムツキを制止し、ミクズはキッとした表情で彼を見据えて言葉を放つ。
「そうだな……」
「しかし、お前様……この数日、ベッドで飯を食うわ、寝るわ、女を抱くわ、で、ベッドの外に出るのは用を足すのと水浴びくらい、と……寸分違うことなく純粋にヒモじゃな。ヒモの鑑じゃ」
ミクズの急な罵倒にムツキは言い返すこともなく、むしろ、驚きのあまりしばらく何もできずに硬直していた。彼は彼女を信用しているため、この言葉に何か意味があるのではないかと考え、彼女に言い返すこともせずにしばし内省を試みた。
「試練のためだろう……いや、実際、あんまり普段と変わらない感じがしたから、やはり、俺は……。いや、待て、普段は樹海の調査とかもしているから大丈夫だ。ってことは、今はダメダメってことか……」
「まあ、そうじゃな」
「それにメイリにまで悩ませてしまうし」
「ダメダメじゃな」
ムツキもさすがに心のダメージが大きくなってきた。彼は最強ではあるものの、どうも他者からの悪意には柔軟に受け止めきれない弱さがある。
つまり、気持ちが凹みやすい。
「きょ、今日はなんだか辛辣じゃないか? いつもなら、これくらいになるとフォローをくれるのに。というか、さっきと全然違う……」
「ダメなものにダメと言っているだけじゃ!」
「ミクズまで苛立ち始めているのか……」
やがて、ムツキはミクズの真意を探ることをやめて、まずはミクズをどうにか落ち着かせる方向で大人しくしようと考えた。
「コイハは我に任せているのか、奥でこちらを眺めているようじゃし。我だって、子孫の手前、情けない姿を見せたくないのじゃ! さっさと魔力を補給させい!」
「わ、わかった!」
ムツキはミクズをぎゅっと抱きしめて、魔力を適度に送り込む。
「……少しの我慢じゃよ」
「え? 我慢?」
「我自身に言ったのじゃ!」
ミクズはうっかりとこぼしてしまった言葉を拾われてしまい、思わず先ほどよりも強めの言葉が出た。
その言葉でムツキがあまりにもしょんぼりとした様子になったため、ミクズは「慣れないことをするものじゃないな」と心の中でもひっそりと呟いた。
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