4-76. 分からないようだから説明を続けた
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楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキとミクズがメイリの方を見る。最初は、メイリの冗談かと思ったが、彼女のきょとんとした顔、傾げた首、何より尻尾が所在なさげに横にゆっくりと振られている。
そのために2人は彼女が房中術を本当に知らないことを理解した。
「メイリは知らんのか。男女の交わりから気を高める方法で、互いに興奮した状態を維持しつつ、節度を保ち、適度な交わりによってに互いの気を高めるのじゃ。今回の場合は、高めることはもちろんのこと、ハビーとメイリの気の質を近付かせることが主な目的なのじゃ」
「その術は気の質を変化させるの?」
メイリは意外とミクズの説明に変な食いつきをしなかった。それは彼女が房中術の上辺でなく房中術をすることによる意味を汲み取ろうとする姿勢からくるものだった。
その彼女の姿を見て、ムツキは彼女の必死さを知り、そして、その単語だけでざわつく自分を恥じた。
「すまぬ。説明が雑じゃったな。気の根本は変化せんよ。例えるなら、接ぎ木のようにある箇所の枝だけを別の木の枝にするようなものじゃな。そこを経由して【変化の術】を掛けやすくするのじゃ。本来とはやり方が違うのじゃが、急いでおるから多少荒療治のようなものじゃ」
メイリはそこまで聞き終わってホッと一安心とばかりに軽く溜め息を吐いた。
「そっか。変わらないなら安心したよ。それにしても、ダーリン、相当嫌そう……」
ムツキはやはり裸どうしというところに抵抗を覚えているようで、それを見たメイリが寂しそうな顔で彼を見つめる。
「あ、誤解しないでくれ。メイリが嫌なんじゃない。我慢できなさそうな俺が嫌なんだ。ここしばらくしてないし……俺も男だからさ。あと、絵面」
「えらく絵面にこだわるのじゃな……仕方ないのう……。ほれ」
ムツキが慌てて弁解をしている間に、ミクズは扇子を閉じて、彼の方へと向ける。それは彼女が彼に【変化の術】を掛けたという動きを示していた。
ムツキは子どもの姿から、元の青年の姿に戻る。紫色の髪が揺れ、整った顔の中に黒色の瞳が艶っぽく光る。はだけたシャツから見える痩せ型筋肉質の身体は彼の魅了スキルをより強める効果があると思わせるほどに逞しく美しい。
「わ、ダーリンが元に戻った! これがミクズの【変化の術】?」
「そうじゃ。しかし、これは長く続かん。だから、流れとしては、元の姿のハビーとメイリが房中術を行う、変化が解けた小さいハビーと我が添い寝をして魔力を補充する、を繰り返すのじゃ」
「……ここまでしてくれるなら俺も男だ! 早速始めよう!」
ムツキも覚悟を決めた。ここまで自分のワガママに至れり尽くせりの状況で迷っていては何も始まらない。
さらに自分のことだけではない。今は深い眠りに落ち、自身の記憶を消されないように戦っているキルバギリーを失うわけにもいかない。
「え、あ、あうっ……ちょっと待って、久々に元のダーリンを見たから、ちょっと心の準備が……え、僕、大丈夫? そう言えば、昨日からお風呂どころか水浴びもしてないし」
一方のメイリは突然のことに戸惑いを覚えていた。彼女はイタズラ好きで攻める側はめっぽう強気で出られるが、その反面、一度攻められる側になると頭がうまく回転しないようで、ぐるぐると思考がその場で回って進まなくなってしまうようだった。
「ダメだ、待てない。メイリ、今度は俺が攻める番だな」
「だ、ダーリン……強引……」
メイリはうっとりとした表情でムツキを見る。彼は不敵な笑みを浮かべて潤んだ彼女の茶色の瞳を見つめつつ、ゆっくりと押し倒し、掛け布団の中に自分と彼女を潜り込ませる。
彼はそのまま彼女の上で肘と膝で四つん這いのような姿をとって、左手を彼女の背中と敷き布団の間に差し込み、右手で彼女の黒い髪を優しく梳かすように撫で始める。
彼と彼女はお互いの唇が触れるのではないかと思うほどに顔を近づけ、瞬きも忘れてお互いの瞳にお互いの瞳を映す。
「メイリを興奮させる必要があるからな」
「おーい……言っておくが、やり過ぎて出しちゃダメじゃよ?」
ミクズが冷静に告げる。彼女も2人の近くで布団に潜り込んでいるわけだが、まるで蚊帳の外にいるかのような疎外感を覚えていた。
「あぁ……それだけが残念だな。……メイリ?」
「ダーリン……その……始めるね?」
「メイリ……よろしく頼む」
メイリは着脱不可の呪いが掛かっているムツキの衣類を狸の手で爪を引っ掛けたり肉球を押し付けたりしながら、布団の中でもぞもぞと器用に彼を脱がし始める。
ムツキも自分以外なら脱がせることができるため、ゆっくりと彼女を同じように布団の中で脱がしていく。お互いに見えない所で変わっていくこともまた興奮させる1つの材料だった。
「まったく……我だってしたいのを我慢するのじゃからな……」
すっかり蚊帳の外扱いのミクズは2人と逆の方向を向いて、その美しい顔の頬を膨らませつつ、ぶつぶつと文句を言い始めていた。
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