4-75. 起きたから説明した(2/2)
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ムツキは腕を組み、小さな身体をさらに縮こまらせながら、複雑な表情でうーんと唸っている。彼の黒い瞳が少し虚ろなのは、メイリが告げた試練の内容に不安を覚えたからに他ならない。
メイリもいつもの様子ではなく、彼の周りにまとわりつくような感じになって布団に寝転がっていた。彼女もまた不安であり、だからこそ彼に寄り添って少しでも心配を和らげたいと無意識のうちにそう行動していた。
「そうか。メイリが、俺に【変化の術】か。ミクズは俺に掛けられたよな?」
ムツキの問いに、ミクズはゆっくりと頷くもその顔は決して楽観的な表情をしておらず、あくまでも真剣な顔色で彼の顔を見据えている。
「我は、な。メイリも同じようにできるかは怪しい。誰しも得意不得意があるように、我ができるからといって、メイリができるとは限らんのじゃよ」
「そうかもしれないけど……でも、できないわけじゃないんだろう? ミクズは勝算があるからこそ、匙を投げずにこの話をしているんじゃないか?」
ミクズはムツキに自分の緊張が移っていると感じ、いつもの余裕そうな笑みを一瞬浮かべてから、どこから取り出したのか扇子で顔半分を覆いつつゆっくりと扇ぎ始める。
沈んだ雰囲気では達成できるものも達成できなくなると彼女は言いたげだ。
「はっはっは。まあ、そうじゃな。ただし、これにはお前様の協力も必要なのじゃ」
「俺にできることはなんでもやる」
メイリがピクリとムツキの言葉に反応した。狸耳を器用にパタパタと動かし、さらには狸特有の少し太めの尻尾もパタパタと動かし始める。その次の瞬間に、彼女は彼に正面から覆いかぶさって、彼を布団に押し付けるような形で押し倒した。
彼女はとても嬉しそうな表情を顔にぺたりと貼り付け、まるで獲物を捕らえたハンターのような目つきになる。
「ん? 今、何でもって言った? むふふ。何でもって言ったよね?」
「メイリのその反応の仕方は怖いな。何でもはやめようかな」
とっさのことで押し倒されるがままに寝転がらされたムツキは、このままではまずいと感じて、少しの抵抗とばかりにそっぽを向いて先ほどの言葉を取り消そうとする。
「あ、ダーリン、ずるい!」
「ずるくない」
「男に二言はないってダーリン言っていたもん!」
「そ、それは……何でもって言って、しちゃダメなことまでさせようとするから訂正するしかないだろ。だいたい、何をさせるつもりだ」
「僕の口から言わせるの?」
メイリはぺろりと舌なめずりをする。ムツキは、させないぞ、といった面持ちで軽めに彼女を睨み付ける。
その隣でミクズが2人に合わせて、自身もゆっくりと寝転んで話しかけた。まるでこの状況を心待ちにしていたかのようだった。
「お主ら、落ち着くのじゃ。説明が終わっとらんのじゃ。まあ、しかし、今回ばかりはお前様が言う何でもに近いかもしれんのじゃ」
「おいおい、ミクズまで……俺は何を協力するんだ?」
「簡単なことじゃ。お前様とメイリが裸で抱き合うことから始めるのじゃ」
「えっ!?」
「えっ!?」
驚きのあまり、ムツキとメイリの目が点になったままミクズの方を見て、その後にお互いの驚いた顔が見つめ合うようにお互いの方へと振り向く。
「って、メイリも知らなかったのか?」
「し、知らないよ! 僕だってミクズが後でまとめて説明するって言って聞けてなかったんだから!」
押し倒していたはずのメイリはいつの間にか、ざざっとムツキから離れていた。
「裸で抱き合うと言っても、その後、おっぱじめるわけじゃないのじゃ」
「女の子がおっぱじめるとか言うな……」
ムツキは明け透けな言葉に釘を刺すが、ミクズはそれを気にした様子もなく、むしろ、彼の反応を楽しむようにニヤニヤとしながら話を続けていく。
「些事を気にするのはよくないのじゃ。むしろ、房中術は気を放出せずに高め合うことが重要じゃからな」
「ぼ、房中術!?」
ムツキがその言葉に反応する。彼の知る房中術は前の世界で得た知識であり、簡単に言えば、色事にまつわる怪しい術といったイメージだった。
「なんじゃ、お前様はその名前を知っておるのか。でも、ちゃんとした房中術を知らずに男女の色事の何かと思っておるようじゃから、やはり、お前様はスケベなのじゃ」
「うっ……だって、前の世界だとそういう感じだったんだ」
「ふむ。まあ、異なる世界となると、そういうこともあるのじゃろうな」
「房中術って、なあに?」
メイリはまったく分かっていないようで、かわいらしく首を傾げながら、尻尾を縦にハタキのように振らずに、横にワイパーのようにゆっくりと振っていた。
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