4-Ex16. 飛んでいったから驚いた
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
第3階層。ナジュミネとサラフェはいまだに勝ち筋が見えていなかったが、負け続けながらも食らいつき勝機を窺っていた。
その最中に突如部屋全体が揺れ、何かに反応したように狐火が変身している狐ナジュミネと狐サラフェが棒立ちになった後にお互いに顔を見合わせていた。
「ん? 地響き? 何が起こっている?」
ナジュミネが周りの状況を確認しようと首を頻りに振っていると、狐サラフェがミクズの姿になり、狐ナジュミネが狐火に戻った後に静かに消えていった。
「姐御、サラフェ、我の気が……正確には本体の気じゃが……変わったのじゃ。遊びはおしまいじゃ。メイリの試練に付き合うから少しここから離れるのじゃ」
「なんだと?」
「試練を超えるには、メイリには極度の集中力がいるのじゃ。我にハビーとメイリを任せてもらえるかの?」
ミクズは真っ直ぐにナジュミネを見つめる。ナジュミネはその赤い瞳で彼女を見つめ返すと何かを理解し納得したようで首を縦に振って口をゆっくりと開いた。
「……よかろう。他の者には妾から説明しておく」
「……ありがとうなのじゃ」
「だが、帰ってきたらお仕置きだ。旦那様を攫って独り占めしようとしたり、旦那様の嫌がることをしようとしたり、ミクズには説教と仕置きが必要だからな」
「はっはっは……それはコイハに任せたいものじゃのう」
「ダメだ。それはミクズが受けなければならない。だから、必ず、ミクズも戻ってこい」
「……仕方がないのう……きちんと戻ってくるのじゃ」
ナジュミネがニヤリとし、ミクズは彼女の言葉に少しばかり嬉しさを覚え、サラフェはその2人の様子を静かな微笑みで眺めている。
「あ、ところでじゃが」
「ん?」
ミクズがお返しとばかりにナジュミネにニヤリと笑いかける。
「ちょっと離れることになるから、我の【変化の術】が強制的に解けるのじゃ」
「……は?」
「えっと?」
ミクズのその発言にナジュミネとサラフェが一瞬にして固まり言葉が続かない。
「分身の我が消えるし、塔も消えるし、姐御やサラフェの水着も……消えるのじゃ!」
「おい……まさか……」
「みんなの前で全裸になりたくなければ、46秒で支度するのじゃ!」
「やっぱ、こうなるのか! ミクズ、許さんからなっ!」
「あとで覚えてなさい!」
「そんなことを言っている間に着替えるのじゃ!」
ナジュミネとサラフェが服を置いてある簡易更衣室へと駆けこんでいく。更衣室のカーテンが地響きだけでなく、急いでいる彼女たちの身体とぶつかる度に激しく揺れていた。
「サラフェ、律儀に水着を脱ごうとするな! どうせ消える! 時間がない! 下着をポケットにねじ込んで、外だけ整えるんだ!」
「そ、そうですね!」
ナジュミネのとっさの機転で、2人は水着を脱がず、下着も穿かず、ひとまず外に出られるような格好に整えていく。そろそろミクズの言っていた時間に差し迫る頃、ミクズは狐火に戻り、すっと消えていった。
「ま、間に合った! サラフェはどうだ!?」
「サラフェも間に合いました!」
2人がお互いの服装に不備がないかをチェックし、問題ないことを確認できて肯き合う。その後、ナジュミネが落ち着いて帽子を目深に被り始めた頃に床が消え去った。
「……しまった! ここは第3階層だ!」
第3階層にいた2人は突如、何もない空中へと放り出された形になる。
「【ダブル】【コンティニュアス】【ウォーター】」
「【ダブル】【コンティニュアス】【ファイア】」
ナジュミネは両手から火を吹き出し、ゆっくりと地上へと降下していき、サラフェも同様に両手から水を吹き出しながら下がっていく。
第2階層にいたリゥパが重力そのままに地上へと綺麗に降り立つ。逆に第1階層でかわいさ対決に興じていたユウはポーズの真っ最中だったようで受け身も取れずにベシャっという音ともに地面へと叩きつけられる。
「リゥパ! ユウ! 大丈夫か?」
「いたた……あ、ナジュみん! 私は大丈夫!」
「ええ、私も高さは別に何ともないけど……もう……限界なの……ムッちゃん……ムッちゃんは?」
「旦那様は……あっ……あそこだ」
「えっ!?」
「えっ!?」
「えっ!?」
「はあ?」
「ニャ!?」
「ほう……」
「すごい……」
ナジュミネが指差した方向を全員で見る。すると、第5階層部分が宙に浮きながら、やがてどこかへと飛んでいく。
「まさか……塔の5層目が空を飛んでいくとは……。っと、そうだ。ミクズはメイリの試練のため、旦那様とメイリを連れて行った。どのくらいかかるか分からん。妾はミクズを信用することにした」
ユウが【レヴィテーション】を使えばなんとか追いつけるが、ナジュミネが早々にみんなを制止したため、彼女も立ち尽くすほかなかった。
問題はムツキ成分が切れたリゥパである。
「そ、そんなあ……ムッちゃんがいないなんて……。もう、お風呂入って寝る……ううっ……」
リゥパはうなだれつつも足早に家へと戻っていった。
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