4-72. 眠いから寝ぼけていた(2/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
不機嫌な様子のムツキがヴェールの近くでメイリとミクズを見つけ、ぼーっとした目をしながらもしっかりと睨み付けるような雰囲気ができあがっていた。
要添い寝の呪いによって、彼は誰かの添い寝がない状態では寝られず、添い寝がなくなってしばらくすると眠くても強制的に不機嫌状態で起こされてしまうのである。
そもそも、ぐっすりと眠っている途中、それも十分に睡眠時間を取れていない状態で眠りに落ちたはずの彼が突如叩き起こされたとなれば、呪いの影響でなくとも機嫌がすこぶる悪くなるのは仕方のないことである。
「あ、しまった。添い寝をするのが誰もおらんから起きたのじゃ」
「あわわ……まずい……ダーリン、寝ぼけてる……」
「え?」
ミクズのうっかりが運の尽きだった。
メイリは引きつった笑いと戸惑いとちょっとの恐怖が混ざった表情をして、ムツキが寝ぼけていることに心の底から危機感を覚えている。しかし、彼女はその危機から逃げるような素振りもなく、ただ祈るようにじっとしていた。
ムツキはとろんとした目つきながらも、感情が昂り始めているようで黒い瞳を紫色にぼやっと光らせていた。彼は口をもごもごと動かし始め、めいっぱいに広げた右手を2人の方へとすっと向けていく。
「【バインド】」
「んっ」
「あんっ」
ムツキが【バインド】と唱えると、ミクズやメイリの周りに細長い縄のようなものが出現し、その縄たちは彼の髪の色に似た光を放ちつつ彼女たちを器用に縛り上げていった。あまりにも器用な縛られ方をしたので彼女たちは思わず変な声をあげてしまう。
彼は2人がしっかりと掴まっていることをぼーっとした表情で見つめ、しばらくうとうとして彼女たちを縛ったまま放置してから、再び口をもごもごと動かし始める。
「【プル】」
「あうっ……ちょっ……ちょっと乱暴じゃぞ」
「ミクズ、しっ! んくうっ……んんっ」
ムツキが【プル】と唱え、彼がゆっくりと布団の中に潜り込んだ後に、縛り上げられたままのミクズとメイリは彼が待つ布団の中へと潜り込んでいった。彼はそのまま仰向けになって、2人をその小さな腕でしっかりと抱き寄せる。
彼にぎゅっと抱き寄せられたその時にようやく彼女たちを縛り上げていた縄が解けて消えるが、今度は彼の腕が彼女たちを離さない。
「メイリ、ミクズ、添い寝してくれるんじゃなかったのか? 誰が俺から離れていいって言った? 眠いし、寂しい……2人もいるのに、2人とも一緒に俺から離れるなよ」
寂しいというムツキの正直な気持ちが吐露される。寝ぼけているからか、メイリがここへ助けに来たということも分かっておらず、いつもの添い寝当番がやってきたという感じで話しかけている。
その言葉を聞いて、抱き寄せられていたメイリが彼の身体に両手を回して抱き着く。それを真似してミクズも縫うように両手を彼の身体に巻き付ける。
「ごめんね、ダーリン、大丈夫。大丈夫だからゆっくり寝てね」
「そうじゃよ、大丈夫じゃよ、お前さま」
メイリとミクズの抱擁に安心を覚えたのか、ムツキが満足げな顔をする。その無邪気な顔を見せられては彼女たちも文句の付けようがなかった。
「うん……ありがとう。おやすみ、メイリ、ミクズ」
「おやすみ」
「おやすみ」
その後、無言の時間が続く。しばらくして、ムツキの寝息がすやすやと聞こえてくるなり、メイリはホッと一息と言いたげに安堵の溜め息を深く吐いた。
「危なかったあ……」
「何がじゃ?」
メイリの安堵の仕方に少し不思議な印象を受けたミクズがその疑問のままにメイリへと問いかける。すると、メイリがキョトンとした顔でミクズをじっと見つめる。
「あれ? コイハは見たことないの? 添い寝を誰もしなくなって無理やり起こされた感じで不機嫌で寝ぼけているダーリン」
不機嫌なダーリン。その言葉にミクズは嫌な予感しかしなかった。
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