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4-70. 過去のことから話した

約1,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 ミクズの言葉にメイリは茶色い瞳を真ん丸にしてキョトンとした顔をする。


「へ?」


 ミクズはメイリの様子と素っ頓狂な声から、メイリが自分の言葉の意味をよく理解できていないということに容易に気付く。彼女は小さな溜め息をこぼしつつ、持っていた扇子でメイリの小さくかわいらしい鼻の先をペチッという音とともに軽く叩いた。


「お主、自分以外に白狐族や黒狸族で半獣人族を見たことあるのかのう?」


「あー、そう言えば、たしかに僕以外、全員獣人族かも。そうだ、僕が小さい頃に、僕は誰かの生まれ変わりじゃないか、とか言っていた人たちがいたよ。でも、よく分からないんだ。お父さんもお母さんも僕が生まれた時にはもういなかったし、その当時の人もういないし……」


 ミクズはメイリの1000歳に信じられないといった様子である。


 獣人族や半獣人族は人族や魔人族と同様の寿命しか持たない。彼らは100年を超えること自体極めて稀である。それが1000年となると妖精族や竜族の類、もしくは、アニミダックやレブテメスプのような始祖の4人と呼ばれる魔人族や人族でも別格の存在しかいない。


「……もしかしたら、もしかするかもしれんのう」


「もしかしたら?」


「我が好敵手にして、腐れ縁中の腐れ縁、ギョウの気配に似ておるのじゃ」


 ミクズが自分の知る規格外の存在の名前を出しつつ、その言葉はどこか少し柔らかく懐かしさを覚えるような口ぶりだった。


 彼女の知るギョウは、黒狸族の歴史の中でもひと際目立ち、全盛期の妖精王ケット・シーをも魔力で遥かに凌駕していたという黒狸族の頭領、自らを隠神刑部と名乗った化け狸である。


「あー、たしか、そんな名前の生まれ変わりとか言われていたかも……」


 メイリが遥か昔の記憶を掘り起こすとそのような名前を伝えられていたことを思い出す。その頃、既に【変化の術】を使いこなしていた彼女は周りから見てギョウの生まれ変わりと思われても仕方がなかった。


「そうしたらメイリが覚醒すれば、ハビーとて容易に【変化の術】に掛けられるのじゃ。ギョウなら誰にであろうと【変化の術】を掛けられるじゃろう」


「そっか。なんとなく勇気が湧いてきた!」


「よいことじゃ。いずれ化かし合いを楽しめそうじゃ」


「ところでさ」


「ん?」


「昔もミクズとギョウが親友で、今も僕とコイハが親友なら最高じゃん」


 メイリは歯を見せるように大きく笑う。自分とコイハが自分たちの知るよりも以前にそのような繋がりを持っていたと考えると運命的な何かを感じざるを得なかった。


 そのようなメイリの笑顔に対して、ミクズはフッと小ばかにしたような息を吐くような音とともに小さく笑い始める。


「親友ではないのじゃ。ただの腐れ縁じゃよ。まあ、嫌いじゃなかったがのう」


「……もしかして、ギョウって男? えっ、嫌いじゃないって、恋的な?」


「まったく違うのじゃ! 多少、男でも見目は良かったが、我ほど美しくもないし、何よりメイリのようにイタズラ好きで、我はよう負かされておったのじゃ! 結局、負け越しのまま、離れ離れになったのじゃ!」


 ミクズがギョウを思い出し、何を思ったのか、扇子を広げて目元より下を隠してしまう。メイリはミクズの顔がきっと真っ赤になっているに違いないと思った。


「えー、気になるなあ。気になっちゃうなあ。ダーリンとどっちがかっこいいのかなあ」


「……もう手伝ってやらぬ」


「わ、わー、ごめん、ごめん!」


 メイリがニヤニヤと笑いながらミクズの周りを回るため、ミクズが少し苛立って、頬を膨らませながらそっぽを向いた。


 これにはメイリもマズいと思い、慌てて両手を合わせて顔の横に添えて謝る。メイリは舌をチロッと出して、片目を瞑ってウィンクをしているような表情をしているので、本気で謝っているかは疑わしかった。


「まったく……さて、ハビーの下へ行くとするのじゃ。ついてこい」


 ミクズはこれまでで一番深いため息を吐いた後に、メイリを連れ立って、第5階層、ムツキとミクズの本体が寝ている場所へと向かっていった。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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