4-67. あの時から成長した(2/2)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
狐メイリは面白そうにナジュミネを見つめる。それはメイリが普段イタズラをした後のニヤニヤした笑みそのもので、何かが起こるもののそこまで大ごとではないという安堵を周りに与える笑顔でもあった。
「ミクズ……初めからそのつもりで?」
「試合は手を抜かぬのじゃ。ユウもリゥパもまだまだ楽しく拘束中じゃ。姐御やサラフェも負けてもいいのじゃが、勝つまでは通してやらんのじゃよ?」
ナジュミネ、サラフェ、メイリが顔を見合わせる。
「メイリ、任せていいか?」
「りょーかい! 美味しいところを持っていくことに定評のある僕、メイリさん、がんばっちゃう!」
メイリは満面の笑みを表して右手も左手も同時に敬礼をするW敬礼ポーズを取りナジュミネに答える。
彼女は魔力こそ低く単純なぶつかり合いでは頼りないが、機転の利く地頭の良さと自分の弱さを熟知した戦法を考えて実行することに関してはナジュミネを上回ることさえある。
「メイリさん、お気を付けて」
「うん! それじゃ、行ってくる!」
メイリは罠を警戒しつつも何もないことを確認して扉を開き、階段を昇っていく。その後、扉は自動的に閉まってしまい、透明化でもしたのか風景に隠れてしまった。
「さて、では、こちらはこちらで楽しむのじゃ」
「まあ、幾分か気は楽になったが、先を急ぐのは変わらん。妾たちとて、手は抜かんぞ」
「もちろん、もちろん。先に言ったが、本気なのはこちらとて同じじゃ」
狐サラフェと狐ナジュミネは準備体操で手足をぷらぷらと振ったり身体を伸ばしたりしながら、狐メイリはネット横にある審判席に座る。
ナジュミネも動こうとしたその時、サラフェは突然口を開いた。
「ところで、お仕置きの件、サラフェが担当しますよ? 先ほどの言葉を訂正して泣いて許しを乞うまでは許しませんからね?」
サラフェの笑顔の奥、正確には、彼女の後ろから、ゴゴゴゴゴゴゴと怒りを表す重低音が聞こえてくるかのようだった。
サラフェ以外の全員が冷や汗を垂らす。
「あ……すまんのじゃ。そこまで怒るとは思っていなかったのじゃ」
「そんな謝り方では、許しませんよ? 乙女の尊厳を傷つけて、身体的な特徴をイジりに使うなど……許しません、許しません、許しません、許しません、許しません、許しません、許しません、許しません……」
「ひっ……あ、姐御……」
「自分で蒔いた種は自分で回収するものだぞ」
「うぐっ……ハビーに仲裁役を頼むしかないのう」
「メイリといい、ミクズといい、旦那様を巻き込むな……」
「ま、まあ、それはさておき、始めるのじゃ」
こうして、一時は場が不穏な空気を纏ったものの、ビーチバレーは開始された。
以前の戦績では、メイリとコイハのチームが圧勝し、次点でサラフェとキルバギリー、最下位がナジュミネとリゥパである。狐火や【変化の術】に為す術がなく敗北を喫していた。
「ほれ、行くぞ!」
狐サラフェと狐ナジュミネの大元がミクズ1人であり、つまり、ハンドサインやアイコンタクトもなしに完璧な連携を行える。とっさの判断が必要なスポーツにおいてこれほど有利な条件はそうない。
一方のナジュミネは、自慢の炎魔法はボールを燃やすので使えず、力も強すぎるとボールを破裂させるために繊細な力加減を求められており、彼女の長所が全く活かせない。
サラフェは、持ち前の素早さも活かせて、水魔法を駆使することで自分たち側のコートでのボールコントロールに長けているものの、体力や魔力の面で長丁場には向かない。さらに、以前のサラフェとキルバギリーのようにテレパシーのような意志疎通もできないとなると、かなり不利な状況である。
「分身魔球じゃ!」
いくつもの狐火がボールに変化し宙に浮いている。狐ナジュミネがサーブをすると、そのボールとともに無数のボールがナジュミネたちのコートに叩きこまれる。
しかし、ナジュミネは惑わされることなく、サーブを受けきり、サラフェのトスに合わせて、お返しとばかりに狐サラフェの手前に強烈なスパイクをお見舞いする。
「ほう……油断していたのじゃ。ボールを見分けられるようになったのじゃな?」
「そう何度も同じ手は食わんさ。それに、本来のボールも狐火で作っているから、分身用のダミーボールを少し変えているだろう? 一緒だと妾たちが文句を付けると思ってだな?」
「はっはっは。鋭いのじゃ。たしかに、ユウが作ったボールじゃないから、前と同じようにしては、こちらが不正をしたように思われてしまうしのう。それじゃあ、どんどん面白くしていくのじゃ」
狐サラフェが分身魔球や消える魔球、ボールからクダギツネを出して驚かせる魔球など様々な工夫を凝らして、ナジュミネたちを翻弄する。
気付けば、既に4セット目に入っており、今までのセットはいずれも狐サラフェと狐ナジュミネのチームに軍配が上がっていた。
「姐御たちは1セットだけでも取ればよいのじゃぞ? さぁ、がんばれ、がんばれなのじゃ」
「あぁ。楽しませてもらっているさ」
「最終的に1セットを勝てばいいのですから焦る必要もありません」
今のところ、体力に自信のあるナジュミネが動き回り、サラフェは体力と魔力を温存して観察に専念している。
ナジュミネは力のコントロールを覚えてボールを破裂させていないことに、心の中で少し自身の成長を感じていた。
「まあ、たしかに焦らずともよいのじゃ。何事も楽しむに限るからのう」
その後もビーチバレーはミクズ側の圧倒的優勢のまましばらく続いていた。
最後までお読みいただきありがとうございました!




