4-65. 気にしていることを言われたから激怒した(2/2)
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うだるような暑さの中、狐火に映し出される映像をナジュミネ、サラフェ、メイリがじっと見つめる。その後、映像を見た3人は思わずにっこりと笑ってしまう。
映し出されたのはすやすやと安心しきって眠っているムツキだった。彼は身体を仰向けにしつつ、左隣にいるミクズの方へと少年特有のかわいらしい顔を向けて、少し微笑んでいるような表情をしている。
彼の隣にいるミクズは横向きに寝ており、自身の右腕を枕にして、茶色の瞳の優しい眼差しで彼のことを左手で軽く優しくトントンポンポンと一定のリズムで叩いている。
「ダーリン、寝てる! 寝顔、めちゃくちゃかわいい!」
「ふふっ……ちっちゃい旦那様、眠っているのかわいい」
「たしかに、かわいいですね」
3人はお互いの言葉にお互いに頷きつつ、ひとまずムツキが無事なようで安心していた。ミクズが事に至っていたら、この場がどうなっていたかは誰にも予測ができない。
微笑ましそうな3人を見て、第3階層のミクズ、狐サラフェが眉間にシワを寄せた状態でその青い瞳で睨み付ける。
「寝ているのは当たり前じゃ! もう夜じゃぞ! お主らなあ……これはコイハにも言えることじゃが、ハビーは今、中身はともかく、身体は子どもなのじゃぞ? それを急いでおるからと夜も遅くまで連れ回したり、長い時間起こしていたり、着せ替え人形にしたり、合間にイタズラをしたり、眠っている間も起きている間もべったりとくっついたり……みんなでひっきりなしに構っていたら、最強だろうと疲れ果てるに決まっているじゃろうに……」
「むむむ……」
「うっ……」
「うっ……」
ミクズの正論に3人は口をつぐむことしかできなかった。
ムツキは誰かのために自分を押し殺す癖がある。モフモフ絡みで暴走気味じゃない限り、彼は周りを誰よりも見ようとしているし、周りの誰かが困っていないかと気を配っている。
その一方で、ムツキが様々な呪いによって日常生活を送ることが難しいために、周りも周りで気を配っている。だからこそ、誰かしらがくっついているのだが、どうしても彼の優しさに甘えて、お世話のために見守る以上にべったりといつ何時も構ってしまっているのだった。
「ということで、今、ハビーは攫った我を前にして無防備なんじゃよ……我が我慢できなくなれば、いつでも手を出せるのじゃ♪」
映像に映し出されているミクズが画面越しにナジュミネたちを見つめ返す。
彼女はポンポンとムツキを叩いていた左手の人差し指を彼の唇に当てた後、自身の唇に合わせてニヤリと妖艶な笑みを浮かべて挑発する。
彼女が彼を襲わないという約束事を彼と取り付けていることなど知らない3人は、彼が相当疲れていて不覚にも眠ってしまったのだと思うに至った。そのために罪悪感もより大きくなる。
「くっ……旦那様を早く救ってゆっくりとモフモフと寝てもらわなければ!」
「我もモフモフなんじゃがのう……まあ、よい。さて、ここではペアのビーチバレーで戦うことにするのじゃ」
狐サラフェがいつの間にかどこからか取り出したビーチパラソルの下、ビーチチェアの上で足を組み、縦長のパフェグラスに入っていたブルーハワイのような飲み物を半分ほど飲んで、優雅に過ごしていた。
そのビーチパラソルの下、狐サラフェの隣にもう1つビーチチェアがあり、そこには狐耳と狐尻尾を生やしたナジュミネがいた。つんと尖った真っ赤な狐耳や狐尻尾は真っ赤な髪とは違った火、まるでろうそくの炎のような火を想像させる。彼女は以前の海では着なかった上下が赤のブラジリアンビキニで白い肌を惜しげもなく露出させていた。
「む。妾の狐耳も出たか……。しかし、ビーチバレーを了承するとは言っていないぞ?」
「ほー、まあ、姐御の加減しらずのバカ怪力じゃ、ボールを破裂させてゲームにならんかもしれんのう」
狐サラフェの言葉とボールを破裂させる仕草に、ナジュミネはピクリと眉根を動かし、青筋をうっすらと立てている。
「妾はか弱い女の子だぞ? 怪力も、バカ力も許しがたいのに、バカ怪力だと?」
さすがに鬼族最強のナジュミネをか弱い女の子で括ることは、サラフェもメイリもできそうになかったが、わざわざ口に出すことでもないのでそっとしておいた。
「はっはっは! か弱い女の子は力いっぱい叩いてもボールなど破裂させられんわ。まあ、負けるのが怖いから自分の得意な力比べに持ち込みたいのじゃろ? か、よ、わ、い、女の子ならキャッキャッとビーチバレーで決着をつけると思うが、仕方ないのじゃ」
「……ビーチバレーを受けて立とうじゃないか。妾はボールを破裂などさせん」
ナジュミネの赤い髪が怒りで揺らめいていた。彼女の周りは太陽の日差しの熱さに加えて、さらに彼女自身の熱気によって、近寄れる状態ではない。
「ナジュミネさん、落ち着いてください」
「まあ、ペアになるサラフェも隣で自分にはないものがぷるんぷるんと揺れていたら不愉快じゃよな。自分にはないものじゃものな。それじゃ障害物競走で網くぐりにでもするかのう? 引っ掛からずにサラフェかサラフェになっている我が勝てるしのう?」
狐ナジュミネの言葉と胸を寄せるポーズに、サラフェの表情がすーっと無表情になる。青色の綺麗な瞳から光が失われ、目を全開まで開いて、狐ナジュミネの胸の辺りを見ていた。
「……ふふふ……随分と安い挑発ですね……ビーチバレーを受けて立ちましょう」
「あ、あの、ふ、2人とも、落ち着いて……ね?」
メイリがそっと斜め後ろから声を掛けてみる。彼女は2人の異様な雰囲気から、どうしても前に立つことができなかった。
「妾は落ち着いているぞ?」
「サラフェは落ち着いていますよ?」
「あ……うん……そうだね……」
メイリは、上辺だけ落ち着いているように見えてまったく平静でない2人に、それ以上の言葉を掛けることができなかった。
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