4-64. 気にしていることを言われたから激怒した(1/2)
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五重塔の第3階層。
「次は……海と砂浜か?」
「海だーっ! 楽しかったよね!」
「そうだな」
「海……大量の水ということはサラフェでしょうか」
3人の視界が開けた先、そこは第2階層の鬱蒼とした樹海のような木々生い茂る場所から一転して、木々も雲も一つない太陽輝く青空、太陽に照らされた白い砂浜と綺麗な青色をした海が広がる。
大量の水があるということで、元・水の勇者であるサラフェは自分が指名されているのだと思っている。彼女は少し崩れてしまったツインテールの軽く手直しして、この景色に似合っている褐色肌から汗を垂らす。
「何とも言えんが、その可能性は高いな。もしくは……ふぅ……それにしても、暑い」
「あー、暑い……真夏みたい。ダーリンがいないと、ここにいるだけで汗かいちゃうね」
話している最中、ナジュミネが暑さに参ったのか、彼女は帽子を取って赤い髪をかき上げただけでなく、軍服の上着をはだけさせて真っ赤なタンクトップを指でつまみながらパタパタとさせている。この時ばかりは彼女自慢のウェーブのかかった赤いロングヘアーもバッサリと切りたいと思っているほどだった。
メイリもシャツのボタンを少し外して、肌着をナジュミネと同じようにパタパタとさせているが、サラフェはその2人を横目に服をはだけさせることをしなかった。
「そうだな……って、おかしくないか?」
「おかしいですか?」
ナジュミネがふと疑問に思い、おかしいと口にすると、サラフェが少し首を傾げながら聞き返した。
「ああ。旦那様は五重塔の最上階にいるはずだ」
「たしかに、そうだよね」
「旦那様の環境調整の範囲は五重塔の高さなんかよりももっとずっと広いはずだぞ?」
「あっ……そうか」
ナジュミネは自分たちのいる場所がムツキの影響を受けていないことに気付いたのだ。彼が近くにいれば、真夏の太陽の下であっても動かない限りは汗一つかかないような環境調整の恩恵を受ける。
しかし、今の彼女たちは暑さも感じれば、汗も流さずにいられないような状況だった。
「ということは、サラフェたちのいる五重塔は階層ごとに空間が本当に別になっているということですか?」
サラフェの推測にナジュミネがこくりと同意の頷きをする。ミクズの、白狐族の騙すことや化かすことへの技量の高さや奥深さ、魔力の使い方が種族で全く異なることの恐ろしさを彼女たちは感じていた。
一方のメイリは、自分に課せられた試練、ムツキを【変化の術】に掛けられるようにするにはミクズの助力が必要なのだと確証する。
「そういうことだな……。ああ、旦那様が遠くにいる感じがしてしまう……旦那様は無事だろうか」
「無事じゃよ」
「ミクズ!」
ナジュミネの言葉に返事したのは、サラフェでもメイリでもなく、ムツキを攫ったミクズだった。
ただし、ミクズは狐耳と狐尻尾の付いたサラフェの格好で登場している。青髪のツインテールの間に少し窮屈そうな感じで青空のような濃い青色の狐耳が並んでおり、彼女も暑いのか、同じく濃い青色の狐尻尾をパタパタとさせていた。
「やはり、サラフェの姿ですか。ところで、どうして水着なのですか……」
ミクズ扮する狐サラフェは以前サラフェが海で着ていた水着姿だった。彼女は水色のミニスカートワンピースタイプで、さらに肩の上から白いレースの上着を羽織っているために、上部の露出がほとんどない。
「それはこっちのセリフじゃ。こんな暑い中、サラフェは何で脱がずに汗をダラダラと流しておるのじゃ。暑くなって感覚がおかしくなったのか?」
狐サラフェは何かに勘付いているようでニヤニヤと悪だくみを考えているいたずらっ子のような笑みを見せながらサラフェに軽口を叩く。
「……急に暑くなったからです」
「ほー、姐御やメイリは脱いでおるのにか?」
サラフェはちらりとナジュミネとメイリを見る。正確には、彼女は2人の胸の辺りを見ていた。その後に、彼女は狐サラフェをじっと見る。正確には、彼女は自分の写し鏡のような存在の胸の辺りを見ていた。目は口ほどに物を言うとはこのことで、彼女以外の3人が彼女の気にしているポイントを悟る。
やがて、サラフェは一つ息を吐く。
「……ところで、ミクズさん、ムツキさんが無事な証拠はありますか?」
「露骨に話をすり替えよった……まあ、いい。無事な証拠か。仕方ないのう。ほれ」
狐サラフェが狐火を1つ出すと、その狐火は映像を映し始めた。
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