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4-62. 遠距離攻撃だからお互いに撃ち続けた(1/2)

約2,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 五重塔の第2階層。


「まさか、こう来るとはな……」


 先頭を務めるナジュミネの視界が開けた際に、彼女は思わず唾を飲み込んで目を見開く。目に掛かっていた髪を少し払いながら、なるべく情報を集めようと目を頻りに動かす。


 彼女がそうなるのも無理はなかった。何故なら、ユウを置いていった第1階層ではまだ建物の雰囲気を残していたが、第2階層はまさかの樹海のような部屋だった。


 部屋は上から差し込む陽光のようなものはあるが、全体的に仄暗く、床は苔の生えた土や岩、木の根、枯れ葉に覆われ、辺りには草花や木々が生い茂っている。ここを部屋と言うには広すぎて、壁らしい壁が見当たらない。


「どこをどうしたらこんなことができるのかしら」


 リゥパが葉を一つ手に持ってみると、確かに葉っぱそのものの感触が彼女の手に伝わってくる。彼女が次に床を踏みつけてみると、ぐじゅぐじゅと湿り気を帯びた土の感触と水っぽい音が返ってきた。


「狐や狸に化かされるという言葉が身に染みて感じますね」


「ミクズ……すごい……」


 この階層に来て、五重塔がミクズに造られたまさに不思議なダンジョンだと女の子たちは思い知らされる。


 やがて、部屋の湿気の多さと若干の暑さを感じて、全員が服を少しパタパタとさせていた。ここではムツキの魔力による環境調整が効いていないため、汗をかき始めている。


「まあ、樹海とは言わないけど、森ということは私をご指名ってことよね……ふぅ……」


 リゥパは森人族、つまり、エルフ特有の長い耳を自分でぐにぐにと触りながら気持ちを落ち着かせている。ムツキのアメとムチのお仕置き効果が薄れてきて、彼女は禁断症状が出始めていたのだ。要は若干発情し始めており、彼女は自分の耳を触り終わった後に薄緑色のショートヘアの毛先を指で触ったり、後頭部を撫で始めたりする。


 その姿をナジュミネはじぃーっと見つめていた。


「ほう。耳や頭を重点的に旦那様に触られたのだな?」


「なっ……ナジュミネ、私とムッちゃんとの蜜事を推理するのやめてもらえるかしら……当たっているだけに怖いのよ……」


 リゥパはビクッと反応してから、白い肌の顔を真っ赤にしてナジュミネの方を見て若干非難めいた声色で言葉を返す。彼女が触られた部分はほかに太ももや二の腕、背中などもあるが、指摘されていなければ触っていたかもしれない。


 ナジュミネはそう言われて、小さく溜め息をこぼす。


「はぁ……だって、羨ましい……旦那様に撫でられたい……ギュってされたい……」


「……ナジュミネさんが先ほどから若干壊れてきていませんか?」


「あー、まあ、姐さんはここ数日、ダーリンとスキンシップがちゃんと取れてないから、ダーリンが恋しいんだろうね……それはみんな同じだろうけど」


 戦闘時のナジュミネは相変わらず凛々しく頼りがいのあるリーダーのままだが、雑談に入るとムツキの話題しかせず、彼に甘えたそうにしたり、周りを羨ましがったりと女の子が見せるかわいらしい欲しがりな様子も表れていた。


「……まあ、そうですね」


「ふーん。サラフェもだいぶ素直になったよね。ツンデレも大事な要素だと思うよ!」


「意図してツンデレしているわけではありませんから……というか、サラフェはツンデレという扱いだったのですね……そうですか……」


 サラフェはツンデレという評価について軽く肩を落とした。その評価は学生の頃に周りにも言われていたため、少し前まで学生時代から成長していなかったという事実を叩きつけられたような感覚に陥る。


「そろそろ雑談も落ち着いてきたようじゃな」


 ミクズはタイミングを見計らっていたようで、雑談が終わり始めた頃にようやく声を発して話を進めようとする。


 狐火のミクズはやはりミクズの姿ではなく、今度は狐耳と狐尻尾を持ったリゥパの姿に扮していた。薄緑の狐耳は新緑の芽のように艶やかで張りがある。服装はリゥパ同様かと思いきや、リゥパがムツキの家で好んで着る薄緑色のノースリーブのロングワンピースだった。


 彼女がふわっとした柔らかな笑みを浮かべると、森の中に突如現れた妖精のような幻想的な雰囲気に包まれる。


「森の中でそんな格好するなんて……私だってしたいわよ! 虫やヒル、ケガの心配さえなければ!」


 リゥパの怒り混じりの声に、狐リゥパは笑顔を崩さずにワンピースのスカートを軽くつまみつつ、ぺこりと頭を下げて貴族令嬢のような挨拶を自然とやってのける。


「やけに綺麗なリゥパだな」


「ちょっと! 綺麗なリゥパって何よ! 私は十分綺麗よ! って、そうじゃなくて、ミクズ、やっぱり、私をご指名なのね?」


「ふふふ……別の者でもよいがのう。この方がそちらも地の利を活かせると思ったから、我のささやかな贈り物なのじゃ」


 狐リゥパは笑顔を絶やさず、少し目を細めながら口元に手を当てて小さく笑い声を出す。お淑やかさでは、狐リゥパの方がリゥパよりも心得があるようである。


「そうなのね、ご丁寧にありがとう。それと、私の狐耳姿もかわいいじゃない?」


「うふふ……そうじゃろう、そうじゃろう。狐耳は良いじゃろ?」


 狐ユウはユウにだいぶ寄せた性格にしていたが、狐リゥパは少し方向性が違うようで、リゥパよりも静かで儚げな様子を醸し出している。


「でも、私もムッちゃんから垂れ耳ワンちゃんの耳が一番似合うって言われているのよね。まあ、今はしないけど」


「んふっ……そうか。さて、では始めるとしようかのう。第3階層への階段は隠れておるから、自力で見つけ出すか、我を倒したら出るのじゃ。それでは開始じゃ」


 リゥパの軽口を軽くいなして、狐リゥパはふわっとした様子のまま、木々の中へとすっと消え去った。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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