4-61. 相手が狐耳だからウサギ耳で受けて立った
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楽しんでもらえますと幸いです。
アニミダックが暴れ始める直前。ナジュミネが五重塔の扉を蹴破って着地する。即座に低姿勢のまま、彼女は周りを見渡す。
五重塔の中は、外から見るよりも広く、床や壁、天井が古めかしい木造建築の様子をしており、まるで何百年もここに建っていたかのような雰囲気を醸し出している。
しかし、彼女はふんと鼻で笑って立ち上がる。木の軋む音にわずかに驚くも、だからこそ、と言ったような表情をする。
「木造建築の再現度が高いと思ったが、五重塔に肝心の心柱がないではないか。まったく……【変化の術】の類だからだろうし、心柱があると何かと邪魔なのだろうが……趣も何もないな」
意外と細かい所にうるさいナジュミネだった。
「到着! もしかして、空間が歪ませてるの? 外から見るよりも倍以上に広いよ?」
その後、ユウが入った途端に中の違和感に気付きつつそう呟く。続いて、サラフェ、リゥパ、メイリが到着する。
「ここまでできるのか……僕ができるようになったら、ダーリンへのイタズラにどう応用しようかな」
「いいね!」
「するな」
「あんまりやりすぎないようにね」
「いたずらに使うのはよくないですよ」
「いいんじゃないかのう」
メイリが腕組みをしながら周りをしげしげと見渡して、どういうイタズラに応用できそうかをうっかり口にすると、ユウ、ナジュミネ、リゥパ、サラフェのほかの声まで聞こえてきた。
「その声はミクズ?」
「なんじゃ?」
「え、私?」
そこにいたのは、狐火のミクズが変化した狐耳と狐尻尾を持っているユウだった。彼女の金髪に合う綺麗な金色の狐耳は神々しく、白い帽子は胸の前に抱いてかわいらしいポーズを取っていた。
「ふっふっふ。狐耳と狐尻尾のユウじゃ。どうじゃ? 狐耳と狐尻尾は万物に付いていてもよいと思うのじゃ♪ このシュッとした耳とふさっとした尻尾に合わぬ者はなし」
ミクズが扮する狐ユウは背中を見せて、尻尾を揺らすためにお尻をふりふりしながら狐尻尾の良さをアピールしている。それをナジュミネがじぃーっと眺め始めて固まる。
「妾も狐耳と狐尻尾なら旦那様が喜ぶのだろうか。それとも猫耳と猫尻尾なのだろうか」
やがて、口を開いたナジュミネから出た言葉に全員が軽くコケる。
「ナジュミネ、落ち着きなさい。たまにそうやって半獣化の方向で暴走するのやめなさいよ……」
「だって、妾だって、旦那様にモフモフされたい! 優しくモフモフされて、優しく頭をなでなでされたいのだ!」
「欲望がだだもれ過ぎよ……」
「むむ……むぅ……」
ナジュミネとリゥパがそのようなやり取りをしている隣では、ユウが帽子を外し、頭にウサギ耳を、お尻にウサギ尻尾を生やしていた。
ここにウサギ耳と尻尾のユウと狐耳と尻尾のユウが対峙することになった。
「ちょっと待ったあっ! 狐耳もいいけど、私にはウサギ耳がピッタリだってムツキが前に言ってたから絶対にウサギ耳だよ!」
「ユウ様はユウ様で暴走し始めたわね……誰か止めて……」
リゥパがちらっとサラフェを見ると、サラフェは首を横に振った。
「……サラフェを見ないでください。サラフェには止められませんよ」
「話を進めよう。それで、狐ユウということは、ここではユウと戦うのが希望か?」
「いや? 戦うことはせんのじゃ。単純にやれば負けるし、ユウとて力を出し過ぎると世界に何が起こるか分からんからしたくないじゃろ?」
ユウが本気を出す、もしくは、彼女の力を使うことにより、世界に大きな影響を与える可能性がある。何でもできる彼女だが、彼女が無理を通せば、必然的に歪みが生じるのだ。そのため、安易に大きな力を使えない。
「まあ、できれば、ね。でも、ミクずんのムツキへの対応次第だよ」
「それはさて置いておけ。というわけで、ここでは、かわいさ対決じゃ!」
「かわいさ対決!?」
「お互いにかわいいと思うポーズをしながら、相手に負けたと思ったらそこで終わりじゃ」
狐ユウがニコッとかわいらしく笑みを浮かべて、ユウにそう提案する。
「審査員は?」
「そりゃもちろん、当人同士じゃ♪」
ナジュミネの質問に狐ユウは隠し立てもせずに開き直ったかのようにそう言う。当人同士だとお互いに自分がかわいいと思う限り終わるわけがなかった。
「うーん……私とミクずんだけか……」
「最悪の場合、終わらないではないか」
「それが狙いよね……」
「分かりやすい……」
「それは受けないよね……」
誰もが却下しようと思ったその時、狐ユウのさらなる提案で状況が変わる。
「その代わり、ほかの全員は先に行っても良いのじゃ」
「……なるほど。ユウを足止めするためだけか。まあ、戦力的にはかなり痛いが……ユウの判断に任せよう」
ユウは考える。仮にこれを断り、何らかの方法でこのまま進んでしまうと、ムツキの前にいるであろうミクズ本人の目に再び惑わされて、彼に理不尽に怒ってしまう自分がいるのではないかと。
彼女はそれをしたくないと思い、首を縦に振る。
「受けて立つ! みんなは先に行って!」
「分かった。この場は頼んだぞ」
「ユウ様、負けないで」
「ユウさん、がんばってくださいね」
「ユウ、気を付けてね」
ナジュミネ、リゥパ、サラフェ、メイリは狐ユウの奥にある階段で上に上がっていく。やがて、4人が見えなくなると、狐ユウがユウの方を指差す。
「それじゃ、勝負じゃ! 我からじゃ! コンコン手招きのポーズ!」
「ぐっ! 私のかわいさが遺憾なく発揮されている! 私はこれだ! 小動物的なもぐもぐ頬張るポーズ!」
「ふふっ……中々やりおるのじゃ……次は我の番じゃ!」
その後、決着が着くわけもなく、お互いに幼女姿になったり成人姿になったりしながら、かわいらしいポーズや艶美なポーズ、若干いかがわしいポーズなどを繰り広げた。
すべてが終わった後、アニミダックがその話を聞いた時、庭はケットたちに任せておけばよかったと過去最高クラスに後悔していた。
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