4-60. 元に戻して助けたいから全員が向かった(2/2)
約2,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
一つの狐火から無数の細長い狐が生まれ、その狐火が無数にあるものだからその数は夥しいという表現がぴたりと当てはまった。その様子は以前、アニミダックと戦った際の最初の大部屋にいた無数の触手を彷彿させる。
デフォルメのかわいらしいミクズがにんまりとした表情でパチパチと拍手をする。
「これはクダギツネというものじゃ。かわええじゃろう? まあ、我が操る実体のない魔力の塊のようなものじゃ。殺すとか死ぬとかじゃないから安心せい。アニミ、ケットたち妖精どもはそれで遊んでもらおうか。あとはこれも戯れじゃ。皆で遊ぶがよい」
また狐火がいくつも現れ、今度はクダギツネではない姿へと形を変えていく。
「あ? 狐耳と9本の狐尻尾の俺?」
「ニャ! オイラの偽物まで狐耳と狐尻尾ニャ! これじゃあ、猫か狐か分からニャいニャ!」
「俺のなんか、元々の垂れた耳まで残っているから、取って付けたような狐耳と狐尻尾だぞ」
「私まで狐耳と狐尻尾ですか……私の自慢のツノはやはり狐耳でも映えますね」
そこに現れたのは、いずれも狐耳や狐尻尾を持ったアニミダックや妖精たちだった。
狐アニミダックは彼と同じように黒いローブを羽織り、黒い髪に合わせた黒い狐耳と9本の狐尻尾を持っている。
狐ケットは耳が狐耳になっていて、尻尾は2本だった。元々の尻尾が2本だったために、ミクズがそのように対応したのだ。
狐クーに至っては、垂れ耳とは別に頭の上にちょこんと体毛と同じ碧色の狐耳が乗っており、狐尻尾は他の誰よりも太い1本の尻尾である。
狐アルは耳が狐であり、尻尾は元々ウサギの尻尾が短いためか、狐の尻尾まで小さかった。彼の自慢のツノは健在である。
「俺の真似か……ユースアウィス、俺の制限を外してくれ」
アニミダックの能力制限は新しく作られた制限の手甲によって引き続き行われているものの、ユウやムツキの許可によって壊すことなく能力制限を解放できる。
「分かった! がんばってね! 頼りにしてるからね!」
「た、頼りに……おうっ!」
ユウはアニミダックの言葉に頷いて制限解除を許可する。さらに、半ば無理やり連れてきた彼をその気にさせるために頼りにしているという言葉で鼓舞した。彼はその言葉に笑顔で顔が崩れつつも元気よく返事をする。
「妾たちのはおらんな。じゃあ、妾たちは普通に通してくれるのだな?」
ナジュミネが狐火たちの様子を見て、女の子の姿をした者がいないことを確認できたためにミクズへそう訊ねると、ミクズはニヤッと意地悪な笑みを湛える。
「そんなわけなかろう。自力ですり抜けて来い」
「ふっ……では、そうしよう。ユウ、リゥパ、サラフェ、メイリ、行くぞ!」
ナジュミネはミクズの言葉に小さく笑い、帽子を目深に被り直す。その後、他の女の子たちに声を掛けて、先陣を切って走り始めた。彼女に合わせて、ユウは【レヴィテーション】で低滑空し、リゥパ、サラフェ、メイリはサラフェの出した【ウェーブ】に合わせて波乗りで追いかける。
「ケット、モフモフ軍隊への鼓舞の口上は任せたぞ!」
「えっ? こ、口上ニャ?」
ナジュミネは後ろを振り返り、ケットにモフモフ軍隊への鼓舞の口上を託した。しかし、今までしたことがないケットは突然の無茶振りに目を真ん丸にして驚いていた。
「ニャ」
「ワン」
「プゥ」
モフモフ軍隊は綺麗に整列した状態で目を輝かせていた。
「えーっとニャ、えーっとニャ……」
「ニャ」
「ワン」
「プゥ」
モフモフ軍隊は、妖精王ケット・シーの鼓舞を今か今かと期待している。悩んでいる素振りからさぞ良い口上が出てくるのだと思い、目の輝きも増していた。
「ごめんニャ! 口上ニャんて分からニャいニャ! とりあえず、突撃ニャ! 命を大事にニャ!」
一瞬で場が静まり返る。ナジュミネがガクッとコケそうになるも体勢を立て直して、クダギツネたちを文字通り蹴散らしていき、五重塔の中へと駆けていった。ほかの女の子たちも静まり返った場の雰囲気を利用して、そろそろっとナジュミネの後についていく。
「……ニャー!」
「……アオーン!」
「……プゥ!」
ちょっとの間が空いてから、モフモフ軍隊は自ら雄叫びをあげて鼓舞をし、ケットの言う通り、眼前の敵に向かって駆け出して行った。
「どう見ても、みんな残念そうな顔をしていたぞ。ナジュミネから教えてもらった方がいいんじゃないか?」
「まあ、たしかに、必要かどうかはともかくとしても、今まで聞いたことないかもしれませんね。みんなが欲しがるなら勉強してもいいかもしれませんよ。少なくとも、分からない発言は減点ですね」
「ニャー……面目ニャいニャ……」
クーやアルが突進の準備をしながら、ケットに軽口を叩く。ケットは申し訳なさそうにしながら、戦闘準備のために普段は抑えている魔力を徐々に上げていく。
「おい、てめぇら! ここはユースアウィスに任された場所だぞ! 無駄口叩かずにしっかりしやがれ! うおおおおおおおっ! あんな棒狐に俺の触手は負けねえええええっ!」
アニミダックは話をしているケットたちを横目にして、触手で移動しながら一度に大量の触手を自分の周りに生成し始める。クダギツネの数に対抗するべく、太さや大きさよりも数を重視した生成だった。
準備もあってすっかりと置いてけぼりになっているケット、クー、アルだが、このトリオの戦力はモフモフ軍隊の比ではなく、制限解除のアニミダックでも一筋縄ではいかない強さを秘めているのである。
「現金なやつだな」
「頼られてよほど嬉しいのでしょう」
「オイラたちも張り切っていくニャ!」
「おう!」
「はい!」
こうしてムツキ奪還作戦は幕を切って落とされた。
最後までお読みいただきありがとうございました!




