4-59. 元に戻して助けたいから全員が向かった(1/2)
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ムツキが攫われた。この事実がムツキの家にいるアニミダック以外の全員を総動員させる。もちろん、アニミダックはユウに言われて動員された。つまり、ムツキの家の前、五重塔が見える場所に全員が集結したのだ。樹海からの応援はないが、人数的には十分だとナジュミネは確信する。
その中で、ケットやクー、アルはモフモフ軍隊とそれを支援する部隊の編成にてんやわんやしている。改造軍服のような衣類を着こなすモフモフ軍隊はやる気に満ちていた。
「コイハ、聞こえておるのだろう? 旦那様は無事なのだろうな?」
ナジュミネは五重塔の方を向きつつ、虚空に向かってそう話しかける。すると狐火が1つ、どこからともなく現れて、それがデフォルメキャラ的な九尾のコイハ姿になる。
「姐御……だったな。興が乗るから、我もそう呼んでやるのじゃ。あぁ、無事じゃとも。まだ我の毒牙には掛かっとらんよ。ま、だ、な。まあ、でも、我を痛めつけられないから、手を出せずに考えあぐねて、モフモフしておるがのう」
「コイハ、しっかりして!」
「黒狸の……メイリか。今世のコイハはまだ眠っておる。ちゃんと最上階まで誰かしら辿り着いたら解放してやるのじゃ。早う来い」
ケタケタと笑うコイハに、メイリが近付いて真剣な表情で訴えかける。しかし、コイハは取り合うつもりもあまりなく、余興を早く始めろと言わんばかりに早く来いと炊きつける。
「コイハさんと九尾のコイハさんだとややこしいですね。生前の九尾のコイハさんのお名前は何だったのでしょう?」
「……名前など、その場、その時にしか意味を成さんよ。しかし、まあ、そうじゃな……分かりづらいと言うならば、ミクズとでも呼ぶがいい」
サラフェの質問にも律儀に答える九尾のコイハ改めミクズに、全員がそれほど底意地の悪い相手ではないと思っている。
「ミクずん、ムツキを独り占めするなら容赦しないからね!」
「いきなりニックネームで呼ぶのか……しっかし、おぉ……怖いのう……かの有名な創世神に刃向かうなど、いかに我とて恐れ多い……が、一時の独り占めくらい良いではないか。なんだかケチくさいのじゃ。創世神のユウともあろうものが、器が小さいのじゃな」
「な、なにをーっ! ムツキの嫌がることをするのもダメ!」
「ユウとて嫌がることをするではないか。我の中のコイハの記憶にもあるぞ?」
「うっ……ううっ……ムツキが本気で嫌がることはしてないはずだもん……ううっ……ムツキ、私のこと嫌ってないよね? 私のいないところで悪く言ってないよね?」
ユウはたやすく言い負かされてすっかり気落ちしてしまった。その様子にケタケタとミクズが笑っている。それを見かねたリゥパがユウの肩を優しく叩く。
「ユウ様、そこであっさりと言い負けないでください……ムッちゃんはユウ様のことを嫌っていませんよ。さて、口の悪いミクズはお仕置きよ! ムッちゃんを絶対に取り返すんだから!」
「はっはっは。リゥパは威勢の良い年増じゃ」
「はーっ!? だ、だだだだ、誰が年増よ! あー、もう! 信じらんない! あったまに来るわね! 【ビリオンアロー】を建物にぶち込むわよ!?」
リゥパが無数の魔法の矢を放つ彼女固有の魔法【ビリオンアロー】の準備を始めるが、ナジュミネがそれを制止する。五重塔に魔法反射が付与されていると、跳ね返った【ビリオンアロー】によって、こちら側への被害が大きくなる可能性があるためだ。
「リゥパ、怒るな、怒るな。感情が揺らぎやすいリゥパに対する作戦に違いない」
「姐御は冷静な鬼族じゃな。怒るな、か。いやはや、そうしたら……姐御の大好きな旦那様が、朝まで待てなくなってきた我の毒牙に今すぐにでも掛かって平静でいられるかのう? 我の目と鼻の先に旦那様のやわらかああああい唇があるのじゃがな。我慢できんから、舐めちゃおうかのう」
そのミクズの安い挑発に反応したのか、ナジュミネの周りの空気が突如熱を持つ。彼女の髪の毛が炎のように揺らめき、誰がどう見ても怒りを御しきれていなかった。
「……ミクズよ……そんなことをしてみろ……貴様の身体は灰すら残さんぞ!」
「あっ! 熱いニャ! ニャジュミネさん、待つニャ! 身体はコイハさんのものニャ! 燃やしちゃダメニャ! だから、ご主人も傷付けニャいようにしているのニャ!」
「そうだぞ。ナジュミネ、落ち着け。主様の苦労を無駄にする気か?」
「ミセス、どうか落ち着いてください」
編成を組み終えたケットたちがナジュミネを宥め、彼女がハッとすると周りの熱が冷めていく。彼女の頭からまるでプスプスと音が出ているように聞こえ、恥ずかしそうにいたたまれない表情を彼女が浮かべた。
「むむ……ぐうっ……冷静さを欠いてしまった……口や煽りでは敵わぬようだな……」
「はっはっは、愉快、愉快。じゃあ、まずは小手調べじゃな。そちらも数が多いからな。女性以外は庭で遊んでもらうのじゃ」
狐火がポコポコと生まれ、ナジュミネたちの行く手を阻むように彼女たちと五重塔の間に無数に敷き詰められていく。その狐火からやがて、棒状の身体を持つ狐顔の何かが束になって出てくる。一つの狐火から無数の細長い狐が生まれ、その狐火が無数にあるものだからその数は夥しいという表現がぴたりと当てはまった。
「無数の狐火から……狐か? にしても、触手みたいにやけに細長いな……」
アニミダックが面倒そうな顔と声色でボソッと呟いた。
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