4-57. 変わったから唖然とした(2/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
コイハが妖艶な笑みを浮かべ、そのまま人の手に変わった白魚のような美しい手をムツキの顎に這わせる。その後、彼女はその柔らかな唇を彼の頬にそっと触れさせる。
彼女は成り行きを見ているしかない女の子たちに勝ち誇ったような目線を送った後に、その唇を彼の耳元へと動かし、囁くように語りかける。
「そうじゃなあ。我とまぐわい合ってもらおうかのう♪」
「まぐわいって……さすがに見つめ合うってことじゃないよな? ダメだ」
ムツキの頬に再びコイハの唇の感触が伝わる。
「……さっきから思ったのじゃが、効かんのか?」
「やっぱりそうか。魅了なら効かない。俺は最強だからな」
ムツキは何度もコイハに見つめられた時に違和感を覚えていた。彼女は何かを探るような感じだったが、それは魅了の力を悟られないようにする仕草にしか過ぎなかった。
彼女は小さく溜め息を吐いた後に、少し呆れたような面白いような複雑な表情もする。
「なんじゃ、面倒じゃのう。しかし、それでこそ、燃える心もあるものよ」
「どっちにしても、今の姿じゃそういうことはしない」
ムツキは締め上げられながらもコイハのモフモフな尻尾を楽しみつつ、さらに器用にもシリアスな顔を崩さない。しかし、周りの女の子にはその動きが完全にバレており、ジト目で見られている。
「ほう。元々のコイハの人格がどうなっても構わんのか?」
「そんなことはさせない」
「……か弱い女の子にそんな怖い顔をするでない。我はお前様に嫌われたくないからのう。どうしても以外は無理強いせんよ」
コイハの軽い脅しにムツキはモフモフしながら屈しない。彼女は困り顔で彼を見つめて、素直に気持ちを呟く。彼女は元々のコイハが受けている彼の魅了が効いており、あまり大胆な行動が取れないでいた。
「今は無理だが、俺が元に戻ってからなら」
「嫌じゃ。我は今を楽しむのじゃ。我は偶然の産物じゃからのう。消えんかもしれんが、明日にも消えるかも分からんのじゃ。それにそれまでコイハを閉じ込めておいてもええのかのう?」
「うーん。困ったな……そんなワガママを言わないでくれ」
「困られるのも嫌じゃが、このまま引き下がるのも面白くない。じゃあ、こうしよう。そこのお前様の伴侶たちがお前様を取り返しに来られたら、諦めてコイハを返してやろう」
コイハはこのやり取りさえも楽しんでいるようで、愉快そうにメイリがいつも浮かべるようなイタズラっぽい笑みをぺたりと顔に貼り付けている。
「レブテメスプといい、君といい、他の女の子を巻き込むなよ……」
「そうつれないことを言うでない。それに……あちらはやる気のようじゃぞ?」
コイハが女の子の方を指差して、ムツキがそちらを見ると彼女たちは怒りに打ち震えていた。
「旦那様……いつまでもべったりイチャイチャと……よもや、モフモフにかまけて逃げてないのではないだろうな?」
「ムツキ、顔にキスされまくっているのに、何がそういうことをしない、よ!」
「私にお預けしておいて、ムッちゃん、コイハとそういうことを楽しんでいるのかしら? 私はそろそろ限界だと言うのにっ!」
「最強の割に女の子に為されるがままなんですね? ムツキさん、楽しんでいませんか?」
「ダーリン! もー、なんでそんなに落ち着いて楽しくお喋りしてるのさ! 子どもだからとか言いながら、女の子を選んでるだけじゃないの!?」
「え、あ、怒りの矛先、俺? え、この状況で、俺?」
ムツキはなぜ自分が怒られているのかが分からなかった。
「んふふ♪ 悔しかったら取り返してみぃ」
コイハが部屋から飛び出して外へと出ると、突如大きな物音が鳴って地響きが起きる。
「こ、これは五重塔? 何でもアリ過ぎじゃないか?」
「面白いじゃろう? おーい、皆よ、各層で我の分身体が1人ずつ相手を用意してやろう。早う来ないと我が皆の愛しい伴侶と無理にでもまぐわいあうことになるぞ♪」
コイハはムツキを抱えたまま空を飛び、五重塔の最上階へふわりと舞い降りる。そこはほぼ寝室であり、狐火が妖しく灯る艶美な空間だった。その後、彼女の声が拡声され、ナジュミネたちの耳に届く。
「いや、だから、しないって」
「あちらはそう思ってないようじゃぞ?」
コイハはどこからか取り出した水晶で先ほどまでいた大広間の部屋を映し出す。
「旦那様のことだ。きっと、あの9本のモフモフ尻尾にうつつを抜かしているに決まっている。しかも、人の顔をしたコイハが美しいからな! もう自力で抜ける気がないだろう! 悔しい! 許さん!」
「ムツキのバカーっ! 意志薄弱! 私の時は泣き脅しまでして拒否したのに! コイはんに独り占めを許すなんて!」
「ほんと、モフモフに弱いんだから! ムッちゃん、あんなにデレデレしちゃって!」
「これはムツキさんに仕置きが必要ですね。キルバギリーの状況を分かっているのでしょうか? いつまでも離れずにデレデレデレデレと……」
「怒ったぞーっ! ダーリンにイタズラしないと気が済まないーっ!」
ムツキはさすがにおかしいと思い、コイハの方を見る。彼女は女の子たちの怒り狂っている様子を楽しそうに見た後、そのまま布団の中に彼を抱えたまま潜り込む。
「……待て待て、コイハ、何かしたろ? さすがにあそこまで言われたことないぞ?」
「なんじゃ、なんだかんだと普段言われておる割に意外と信頼しておるのじゃな。我の瞳は、異性に我への魅了、同性に我以外への嫉妬や怒りを催させる効果があるのじゃ。まさか創世神たるユースアウィスにも効くとは思わなんだが、これはこれで実に面白いのう」
「ちゃんと皆を戻してくれよ? あとこれ以上はしないぞ? 無理やりすると言うなら」
ムツキが少し力を込めようとすると、コイハが痛そうな顔をする。
「およよ……尻尾が引き千切られたら痛いのう……痛いのは嫌じゃのう……」
「うぐっ……ズルいぞ……」
今までは女の子たちがムツキの本当に嫌がることをしなかったため、彼の最低限の意志は通されたが、今のコイハはどこまで彼の意志を尊重するか不明だった。
一方で、自分の嫌なことを避けることと彼女が傷付くことが天秤にかけられた場合、彼は嫌なことを我慢して選択するしかなかった。
「いいから、お前様は何もかもを忘れて、モフモフしておくがいい。9本もあるぞ」
「モフモフは量より質だ!」
「質も悪くなかろう? ほれほれ」
「……うん、質もいい」
ムツキは今のところ、無理強いされることもないため、モフモフしながら女の子たちを待つことにした。
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