4-55. 夢が叶ったから喜んでいた(2/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
軽快でゆかいな花嫁行列が名残惜しくも終わるものの、以降の流れも厳かよりは和やかといった雰囲気で進んでいる。
ムツキの家で一番広い大部屋に入場し、入りきれない妖精たちは次のパーティーの支度のために列から抜けていった。
「えっと、私がこれを振るえばいいのね」
ユウは木の棒の先端に紙が幾重にも纏わされたものを振って、お清めのポーズを取る。誰にもどこまでの効力があるのかは分からなかったが、彼女が創世神ということもあり、どことなく神々しい雰囲気のまま儀式は次に移行する。
「えっと、これを私がもらえばいいのね」
ユウが目の前にある供物を指差す。供物はいくつもの器にいろいろな食べ物が載せられており、彼女は調理済みのものならすぐに食べられて良いのになと口に出さないまでも頭の中で思っていた。
「えっとー……私が直接もらうのもなんだかなあ……」
この世界では創世神であるユースアウィスことユウが亡くなっていることになっているため、供物は大地や大海、大空などに還元するというものになっていた。しかし、ムツキが前の世界の知識もふまえて提案したところ、それなら神様に供物を捧げる方が良いとなって、このような状況になる。
「ユウ様、そんなこと言わずに、ね?」
「まあ、文句を言っても仕方あるまい」
「きちんと礼儀作法を正しくしましょう。先ほどのどんちゃん騒ぎのままではコイハさんに悪いですよ」
「うーん。僕は多少楽しそうにしてもいいと思うけどなあ。まあ、ユウ、神様らしくお願いね」
「メイりん師匠の頼みなら仕方ない」
ユウが目の前にある供物を恭しく持ち上げては、巫女姿をしたリゥパ、ナジュミネ、サラフェ、メイリへと次々に渡し、4人は順番に部屋の外へと供物を運ぶ。供物はパーティーの食材になるため、妖精たちが受け取り、厨房へと持っていった。
「これが盃ニャ」
「ケトちん、ありがとう」
次はいよいよ、三々九度の盃、つまり、お酒の登場である。ケットが小中大の盃を準備し、ムツキとコイハの間に立ち、リゥパが酒を持ってムツキの横に立ち、メイリが酒を持ってコイハの横に立つ。
「くっ……ゴクッ……」
「サラべえ、お願い」
「分かっています」
ナジュミネの喉がゴクリと鳴る。それを見越して、お酒を注ぐ巫女はリゥパとメイリになっていた。さらには念のため、サラフェがナジュミネの肩を割と力強く掴む。
「ううっ……」
いつも冷静で頼れるはずのナジュミネがこの体たらくであり、鬼族の酒好きには中々困ったものだと誰もが心の中で感じた。
ナジュミネはさておき、ムツキがケットから小さな盃を受け取り、リゥパがその盃に酒を3度注ぎ、ムツキは盃に3度口を付けて飲み干す。飲み干した盃はケットに戻され、次にコイハが受け取る。コイハが受け取った後に、メイリが3度注いで、コイハがそれをやはり3度口を付けて飲み干す。
こうして、小さな盃はムツキ、コイハ、ムツキの順で、中の盃はコイハ、ムツキ、コイハの順、最後に大きな盃はムツキ、コイハ、ムツキの順で三々九度の盃を終える。
「ここで折り返しだな。コイハ、大丈夫か?」
「大丈夫だ。ありがとう。嬉しくて……ちょっとボーっとしてるのかも」
コイハは少しムツキの方へと傾く。彼女は決して酒に弱いわけではないが、緊張や疲れで酔いが回ることもある。実際、彼から見て、彼女の少し目がとろんとしているようにも見えた。
実はこの時、三々九度の盃という儀式によって、彼と彼女の魔力の一部がお互いに交換するかのように受け渡されたのだ。本来、他人の魔力が少し身体に流れたからと言って何かが起きるわけではない。【ヒーリング】も他者から供給された魔力を回復力に変換している。実際、【ヒーリング】の類は以前から彼と彼女の間で数度は行われている。
ただし、今回の儀式では夫婦として混じり合うという意味合いもあり、最強であるムツキの魔力がコイハの魔力に変質を起こさせた。
「……コイハ? 大丈夫か?」
「大丈夫だ……嬉しいから気持ちが高まっているだけだ……」
コイハの様子は明らかにおかしかった。
「ちょっと、コイハ! えっ? 嘘っ! あり得ない! 魔力が姐さんのように膨らんでる!?」
メイリが叫ぶ。リゥパやユウは咄嗟に数歩下がる。サラフェに掴まれたままのナジュミネがいつもの冷静さを取り戻してメイリの次に叫ぶ。
「儀式は一時中断だ! 全員、コイハから離れろ! メイリ! 旦那様もだ! 何か想定外のことが起きようとしている!」
「ぐうううっ……」
「コイハ!?」
「コイハ!」
ナジュミネの言葉を振り切って、ムツキとメイリは苦しむようにうめくコイハに近寄り、彼女の状態を確認しようと覗き込む。
「2人とも、離れるんだ!」
「あああああああああああああああああああああああっ!」
この時、コイハの尻尾は間違いなく9本に増えた。
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