4-54. 夢が叶ったから喜んでいた(1/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
夕暮れから宵へと変わる頃、黄昏時と呼ばれる時間に花嫁行列は始まった。無数の狐火が2つの列をなしてふよふよと浮いており、その間にある道を行列が練り歩く。道の外は天気雨がぱらぱらと降り始め、道だけが雨の一滴も落ちない。
その異様さにみんなが息を呑む。
「…………」
行列は、斎主となるユウが成人姿で神主のような服装を羽織り、その彼女を先頭にして巫女姿のリゥパ、ナジュミネ、サラフェ、メイリが後ろに連なっている。さらにその後ろに、花婿のムツキと花嫁のコイハが続き、和装をしたケット、クー、アル、妖精たちやアニミダックなどのムツキの家に住む全員が列をなしている。
狐の嫁入りには雅楽の調べがないため、全員がその静けさに少し寂しさを覚えつつも、狐火の揺らめきと響く足音やしとしと降る雨音が幽玄さと言うべき奥深さや高尚さ、儀式としての気品や優雅さを醸し出す。
「…………」
ユウは意外と平気そうな面持ちで先頭に立って牛歩のようにゆっくりと歩く。その後ろを連れ立つリゥパは巫女としての儀式に慣れているのか、和装はしたことがないものの、特に問題なさそうな顔をしている。ナジュミネは和装に慣れており、特に問題ないようで歩き方にそつがない。
サラフェは少しぎこちなさがあるものの貴族としての立ち振る舞いを流用していた。メイリが一番危なっかしく、このような雰囲気が苦手なのか、どうもうずうずしている。
コイハもこなれた感はあまり見られないが、憧れていたというだけあって和装での歩き方の練習を積んでいた。ムツキも多少ぎこちなさが見られるものの問題なさそうである。そもそも、ほとんどの者が着慣れない姿での行列だから周りをゆっくりと見ていられる者などそういなかった。
「…………」
狐の嫁入りの花嫁行列は狐火に沿って遠回りするように大きく蛇行し、家に中々辿り着かない。これはバレない獣道を歩くことが多いからとか、天気雨が行列の周りしか降らないために参列者以外に家へと入ってもらうからとか、諸説様々にあるが、誰もはっきりとしたことは分かっていない。
一番有力な説は、最初に行った狐の嫁入りに、つまり、前例にならって同じような手順を踏んでいるだけという単純明快なものである。
「ふにゃ……」
ここで初めて声が漏れた。まだ小さな仔猫の妖精がたまらず鳴き声を出してしまったのだ。
一瞬、全員に緊張が走る。
無言でなければならないわけではない。しかし、この雰囲気に無言以外許されないような圧があったのは確かだった。
その緊張と沈黙を破り捨てたのは、他でもない花嫁のコイハだった。
「あはは! ありがとう、みんな!」
コイハの笑いがみんなを驚かす。
「でも、なんか俺たちらしくない気もするんだ。確かに狐の嫁入りは物静かで……そういう雰囲気になるんだけど……やっぱ、俺たちらしいのもいいかなって思うんだ」
コイハがメイリを見る。メイリはニヤッといたずらっぽく笑って、続いて大きな声を出す。
「じゃあさ、逆に、めちゃくちゃ派手な狐の嫁入りなんてどう? これでもかってくらいに派手なの!」
「それは面白いな! やってみたいな! ハビーはいいか?」
「俺はコイハがいいなら、ケット、何か派手なことができるか?」
ムツキはコイハの言葉に応じて、後ろにいたケットに訊ねてみた。ケットはもちろんと言わんばかりに首を縦に大きく振る。
「できるニャ! ご主人、前に預けた楽器を出してほしいニャ」
ムツキはアイテムボックスという異空間にある倉庫のようなものから預かっていた様々な金管楽器や木管楽器、打楽器を所狭しと並べていく。妖精たちがそれに群がって自分の担当の楽器を持った。
みんなが準備を終えるとケットは大きめのバトンを持ちながら高らかに宣言する。
「じゃあ、いくニャ! ワンニャンプゥなマーチングバンド、パレードの開始ニャ!」
ケットが振るメジャーバトンの動きに合わせて、非常に軽快な音楽が始まる。楽器を持たない妖精たちはバトンやポンポンを持ってダンスを披露していた。先ほどの荘厳で幽玄な雰囲気とはまさに一線を画すお祭り騒ぎの雰囲気が一気に押し寄せてくる。
ムツキや女の子たちも音楽に合わせて足や手、首が小さく振られている。
「ははは。和装に全然合わないが、コイハや旦那様が楽しそうならいいのだろう」
「コイハさんもリズムに合わせて、隠していた尻尾を出しちゃっていますね」
「私の中でこれに合わせる踊りはないわね。みんなの真似でもしようかしら」
ナジュミネ、サラフェ、リゥパが後ろを少し振り返りながらそのような会話を始める。
「じゃあ、もっと派手に行くよ! 【マルチプル】【カラフル】【ライト】」
「すごい! 【ライト】にこんな色んな色が付くなんて!」
ユウが様々な色の【ライト】を出すと、辺りはその眩しさで昼と見間違えるほどに明るく、楽しい雰囲気が一層高まった。メイリも楽しそうに自由に踊っていた。
「はっはっは。最高の花嫁行列だな! ハビーも踊りながら進むぞ」
「お、踊りながら!? 俺も!?」
こうして花嫁行列は従来の狐の嫁入りらしからぬ新しさを取り入れられた。
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