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4-53. 昔から憧れていた(2/2)

約2,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 コイハとメイリの部屋。彼女たちは2人で1部屋を利用している。1人1部屋にすることもできたが、いつも1人だと寂しいという2人の意見を考慮して、大きめの部屋を与えられていた。どちらかがムツキと一緒に寝る場合以外、極力2人で仲良く寝ている。


 その彼女たちの部屋には今、コイハ、メイリ、ユウ、ナジュミネがいた。サラフェは起きているものの、キルバギリーの身体を軽く拭いてから来ることになっている。


 リゥパは今、ムツキにようやく新しいアメを与えられているところだが、どうも2人きりだと前回のような変なノリになってしまう。つまり、彼から甘めのムチももらっており、それを他のみんなに知られるのは後の話である。


「コイハ、ところで、服装は?」


 コイハの服装の着付けでナジュミネがそう訊ねると、コイハは嬉しそうに答える。


「あー、花嫁の衣装は白無垢で、綿帽子だ。花婿は紋付き羽織袴だな」


「ほう。白無垢か。鬼族と同じなんだな。綿帽子と言うのは? 角隠しではないのか?」


 ナジュミネの結婚式も和式だったが、頭には角隠しを付けていた。


「狐の嫁入りは衣装も白を基調とするようにしているんだ。綿帽子というのは、頭をほとんど覆う白いふわっとした布みたいなものだ。花婿以外に花嫁の顔が見えないようにということみたいだ」


 コイハの言葉に、ナジュミネが顎に指を添えながら小さく唸る。


「ふーむ。種族によって衣装が少し違うのは文化の派生なのだろうな」


「皆、すまない。遅くなった」


「調子はどう? 準備は進んでいるの?」


 いろいろと話している間に、ムツキとリゥパが姿を現した。


「おぉ、リゥパ、調子はどうだ?」


「えぇ、まあ、多分、半日は大丈夫よ」


「半日しかもたないのか……」


 ナジュミネはムツキがリゥパを完全に解放しなかったと判断し、呆れるような表情をしつつ、内心彼女のことを少しだけ羨ましがっていた。


「それよりも結婚式でしょ? その狐の嫁入りはどういう流れなの?」


 リゥパはその話を長引かせたくなかったため、早々に話題を切り替えてしまう。コイハは彼女の問いに答え始めた。


「まあ、あまり難しくしないで、簡単にするけど。まず花婿側の家でする」


「側も何ももう2人ともここだから、ここ以外ないわね」


「そうだな。狐火が並んだ道を作って、花嫁行列が歩く」


「狐火ってあのぼぅっとした感じの火よね。暗がりであの狐火がいくつも出ているのは少し神秘的な感じね」


「そうだよね! あの狐火はロマンチックだよね」


 コイハとリゥパのやり取りにメイリが入り込む。リゥパやメイリに狐火を褒められて、コイハは嬉しそうに尻尾を揺らしていた。


「ありがとう。それで2人を祝ってくれる仲人の前で花婿と花嫁が永遠の愛を誓うんだ」


「へぇ。俺の知っている式と違うのは、神がいなくなったからか」


「ムツキ、どういうこと?」


 コイハの説明にムツキが反応し言葉にすると、彼の言葉に次はユウが反応した。彼はたどたどしい前の世界の記憶を頼りにゆっくりと言葉を絞り出していく。


「あぁ、俺の知っているのは聞きかじった程度だけど、神職が神に報告するんだよ。この2人が結婚するよってな」


「ふむふむ。じゃあ、私がその仲人とやらをすればいいの?」


「ちょっと違うけど、まあいいんじゃないか? しかし、直接、神に誓うのか」


 ムツキは思わず笑う。前の世界でも和式の結婚式を神前式と言うが、まさか目の前に創世神を据えて愛を誓うことなどないだろう。


「それで、その後に巫女が舞を舞うんだ」


「じゃあ、私が舞を舞ってあげるわよ?」


 舞と聞いて、リゥパが自ら巫女役を買って出る。彼女もまた何かしら力になれないかと考えていて、適役がまさに舞い込んできたことでその思いを果たせた。


「エルフの舞か。リゥパの舞って、綺麗だよな」


「うふふ、ありがとう。ムッちゃんにそう言われるなんてちょっと恥ずかしいかも」


「ダーリン、まさか、本番でリゥパに見惚れないよね? さすがに式の間はコイハに集中するんだよ?」


 メイリがニヤリとしながら少しイタズラめいた視線をムツキに浴びせる。


「わ、分かってるよ」


「あら、じゃあ、ムッちゃんを誘惑しちゃおうかな♪」


「おいおい、リゥパ、雰囲気をぶち壊すなよ? 旦那様にはしっかりと花婿を務めてもらわないと」


「あはは、冗談よ?」


 ムツキが慌てて答えると、リゥパが彼を後ろから抱きしめながらニヤニヤとした笑みを浮かべる。その様子を見かねたナジュミネがリゥパに釘を刺すと、リゥパはいつも通りの軽やかな笑顔で彼からパっと離れる。


「それで、巫女から酒を注いでもらい、花婿と花嫁が飲む。盃は小中大と3つあって、小から順番に使う」


「三々九度か」


 三々九度の盃。洋式の誓いのキスに近いこの儀式は狐の嫁入りでも最重要の儀式である。この儀式を執り行うことで、魔力の交換も少し行われ、お互いの身体にお互いの魔力の質が少し馴染む。同じ量、それも少量だけ入り込むため、身体への影響はないとされている。


「む。お酒が振る舞われるのか」


 お酒と聞いて、ナジュミネが笑みを隠し切れない表情に変わる。


 彼女はお酒を飲むと豹変してしまう。決して飲み潰れることはないが、ムツキに割と大胆に絡み始める。最初の数回は彼女が飲み過ぎてしまったこともあって、彼は彼女が飲むことを止めていたが、最近では一緒に寝る夜に限って少量なら許可を出していた。


 彼もなんだかんだで甘えに甘えてくる彼女が愛おしいのだ。


「本当は皆にも振る舞われるのだけど、今回はナシだな」


 ただし、ムツキ自身が子どもの姿であることや今回のメインがコイハであることを鑑みて、彼はきちんとナジュミネにダメだと伝えた。


「むぅ……むぅ……」


 ナジュミネの残念そうな声が何度か続きながらも準備は着々と進んでいった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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