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4-52. 昔から憧れていた(1/2)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 コイハは恥ずかしそうにムツキがモフモフしている尻尾をパタパタと動かそうとしている。彼は尻尾が顔にパタパタとしてくるので幸せな気持ちで顔が崩れていた。


 メイリも尻尾をパタパタと動かして自分のことのように嬉しそうにしている。


「ダーリンとコイハの結婚式! コイハの花嫁姿は綺麗だろうな!」


「綺麗かどうかは分からないけど……綺麗になってみたいな」


 コイハが珍しくもじもじっとしていると、ムツキが彼女の尻尾をしっかりと撫でながら真剣な顔で彼女を見つめている。


「コイハが綺麗じゃなかったことはないぞ? もっと綺麗になるに決まっているさ」


「ダーリンの言う通りだよ! そうか、狐の嫁入りだ! いいなあ、僕も結婚式したい! 狸の嫁入りってあるのかな」


 狐の嫁入り。ムツキの前にいた世界では、天気雨や火元のない山火事や狐火の行列などを指す言葉だが、こちらの世界では獣人族や半獣人族の狐族が異種族と結婚する際の結婚式を意味する。


 特に異種族を排他しがちな人族との結婚は稀であり、狐族の中でも人族との狐の嫁入りは伝説の昔話のように語られるものだ。コイハは幼少の頃からこの昔話を気に入っていた。ちょうど人族の子どもが童話でお姫様に憧れるのと同じようなものである。


 ちなみに、ムツキの前にいた世界では、天気のときに雪が降ることを地方によっては狸の嫁入りと呼ぶこともある。


「メイリはまた今度すればいいだろう」


 ナジュミネが何の気なしにそう告げると、メイリがここぞとばかりに先ほどの反撃を仕掛ける。


「へぇ……また今度ねえ……そう言えば、式はまだ姐さんだけなんだよねえ? 新婚旅行はまあ、結局、サラフェ以外全員済ませたけどお? それだって、ユウと姐さんしか新婚旅行をしていなかったからねえ? ユウと姐さんしか」


「うっ……」

「うっ……なんで私も……」


 ナジュミネは痛い所を突かれる。ついでにユウも突かれる。


 ユウはパーティーや旅行に興味があっても、結婚式には興味を示さなかったようでそういう形式でのやり取りをムツキとしていないし、今後もする予定がない。ただし、彼女は新婚旅行というか、ムツキと2人きりの旅行は何度も行っている。


 ナジュミネは新婚旅行もきちんとしているし、鬼族の村のしきたりを通じて村総出の結婚式を挙げていた。和装の結婚式で綺麗な花嫁姿の彼女をムツキは今でもきちんと覚えている。


 一方、リゥパ以降は、サラフェ以外がようやくムツキとの2人きりの新婚旅行を終えたところだ。サラフェはその頃まだ正直な気持ちを出せていなかったので、保留として権利を取っておいてある。


 つまり、実はリゥパも含めて結婚式らしい結婚式をナジュミネ以外に誰もしていないのである。


「した人がしてない人に、たしなめるように、今度とか言うのはなあ……ふーん……ふぅーーーーーーん……」


「うぐっ……返す言葉もない……」


 ナジュミネも反撃に出られないこともないが、悪手と判断して大人しくシュンとした様子で顔を俯かせていた。


「おいおい」


 ムツキはとっさに立ち上がって、ナジュミネの頭をポンポンと撫でた後に、メイリを軽く抱きしめる。


「分かった、メイリ。メイリも他のみんなも含めて、後でちゃんと結婚式についても話し合おう。だから、ナジュをいじめないでやってくれ。後、今はコイハの話だ」


「ダーリンにそう言われたら仕方ないね、はーい♪」


「旦那様……ありがとう」


 ムツキは場が収まったところで再びコイハの尻尾をモフモフし始める。


「ところで、コイハ、今の俺でもいいのか? 今の俺じゃ……」


 ムツキが和装の結婚式をイメージしたところ、10歳程度の自分の見た目では七五三に見えそうだと思った。


「あぁ……小さくてもハビーには変わりないから。それにやっぱり素直に考えて、してほしいことはやっぱこれかなって」


 コイハはこのタイミングでムツキを触る。彼女の少し固めの肉球が彼の頬に触れ、その柔らかな頬をつつっと撫で、彼女は彼を愛おしそうに見つめる。


 白狐族は総じて出で立ちが美しいが、特に彼女はユウがムツキのパートナー、伴侶に相応しいと見定めた白銀色の白狐であり、白狐族の中でも群を抜いている。昔話の狐の嫁入りもまた白狐族の中でも有数の美貌を持つ狐だった。


「……分かった。早速できそうか?」


 ムツキはドキっとして少しばかり時が止まっていた。息を呑むのも忘れた先でようやく奪われていた意識を取り戻したのである。


「準備もあるし、夕方から夜にかけてがいいな。狐火も映えるし」


「時間かかるよな。狐火も使うのか。だったら、確かに夜の方がいいな」


 こうして結婚式は夜に始めることになった。


「よーし! コイハ、めいっぱいおめかししないと!」


「旦那様もだな。服装はコイハが選ぶのだろう?」


 コイハはナジュミネの言葉に頷いた。


「あぁ……うん、選びたいな」


「そうしたら、立ち止まっている暇はないぞ! 全員で支度を開始だ! ユウ、ケットに伝えておいてくれ」


 ナジュミネは仕切り屋として高らかに宣言した。


「分かった! 私はケトちんに話をしてくるー」


 楽しい試練の始まりになった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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