4-50. これからもっと素直になる
約3,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキ、サラフェ、アニミダックが家路に着く頃には、夜中になっていた。それでも、最短最速のクリアということもあって、リゥパとキルバギリー以外の女の子が彼らを優しく出迎えた。
まず着いた途端に、アニミダックがムツキに手甲の件を伝えろとうるさかったので、ムツキは早々とユウにそのことを伝えた。ユウがこれを了承すると、アニミダックは満足げにその場を去った。
「ムツキさん、ちょっとこっちに来てください」
「分かった」
サラフェはソファに座った後にムツキを手招きする。彼がそれに応じて彼女に近寄ると、彼女は彼を膝の上に乗せて抱っこして、試練くんの反応を待った。
周りの皆はその様子に少し驚く。
「ヘイ! ユー! スピーディー、ダナ! コンカイモ、シレンノ、クリアヲ、カクニン、デキタゾイ! ホントニ、ジュンチョウゾイ! ツギノ、シレンハ、シロイケナミノメスニ、ツタエルゾイ! タノシミニ、マツト、ヨイゾイ!」
試練くんの言葉にムツキが少しムッとしたように口を尖らせて言葉を放つ。
「おいおい、メスはひどいんじゃないか!? コイハも女の子だぞ!」
「ハビー」
コイハはムツキの言葉を聞いて嬉しそうにパタパタと尻尾を振り始める。それを見て、つられてメイリも尻尾を振り始めた。人族が獣人族や半獣人族をきちんと女の子扱いすることは非常に稀であり、彼と一緒になって本当に良かったと思う2人であった。
「タシカニ、レディニ、メスハ、シツレイダッタナ! ツギハ、シロイケナミノオンナ!」
「まあ、正直、女も若干思うところあるけどな……女の子って言ってくれよ……」
試練くんが訂正するも、もう一声と思うムツキだった。
「でも、旦那様になら……メスって言われたら……ドキッとするかもしれないな……」
「えっ……あー……」
「……はっ! あっ……あぅっ……」
突然のナジュミネの言葉にムツキは思わず彼女の方を見て、どう反応すればいいか分からずに次の言葉が見つからなかった。彼女も思っていたことがつい零れていただけのようで、聞かれてしまって恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして、見えないところに隠れてしまう。
「ナジュみんは分かりやすいね。私も同意かも」
「姐さんはやっぱり、そっちの方向だよね。そういうのもいいよね」
ユウとメイリは腕組みをして、納得した様子でうんうんと肯いている。
「まあ……そういう性癖の話は置いておいて、次は俺か。今まで生きていて、試練とやらを受けたことがないから、正直、心配だな……」
「大丈夫だ。俺が全力でサポートするからさ」
「ハビー」
コイハの心配を払しょくするためにムツキが精一杯の笑顔でそう言うと、彼女は先ほどよりも力強く尻尾を振り始める。その尻尾の動きを見て、彼は安心した。
「ところで、サラフェはいつになく、というか、初めて見るくらいに旦那様にべったりしているな……リゥパといい、サラフェといい、何かあったのか?」
恥ずかしさから復帰したナジュミネは、サラフェがムツキを膝の上に乗せてしっかりと抱きしめていることに疑問を持っていたので投げかけてみた。
サラフェは柔らかな笑みでナジュミネを見た後に、そのままムツキの頬に自分の頬を寄せ、露骨な愛情表現を見せる。
「リゥパさんは分かりませんが、サラフェの場合はそうですね。今回の試練で過去から吹っ切れた感じでしょうか」
この進展にユウは喜んでいる。彼女は女神の力で無理やり運命を変えたこともあって、特にサラフェの気持ちがどうなるかに関心が高かった。
「妾の時はこういう変化がなかったが……旦那様……もしや、2人には何か特別なことをしたのに……妾には何も特別なことをしていないということはないか?」
「え? うーん……そんなことないと思うが……」
ナジュミネは、リゥパとサラフェの様子を見るに、2人がムツキから何かしらのご褒美をもらっているのではないかとほぼ確信していた。そして、このように疑っているのは、彼女が自身にはそんなご褒美がなかったと思っている不満もあったからである。
「ほう……リゥパなんかは風呂から出た後、食事もとらずに部屋にこもっているぞ? さすがに聞き耳を立てることはしていないが」
「え、そうなのか? ちょっとやりすぎたか……」
「ほう……やはり、心当たりがあるのだな?」
「あ、ま、まあ……」
「ほう……そうか……」
「うっ……実は……」
ムツキはナジュミネの圧に負け、素直にリゥパにしたことを白状した。
「ムツキ、ずるいよ」
「旦那様、ずるいな」
「ダーリン、ずるいぞ」
アメともムチとも取れるその内容にユウ、ナジュミネ、メイリはご褒美のアメと考えて、えこひいきだと言わんばかりに「ずるい」という言葉を使う。
一方のコイハとサラフェは、その我慢しなければいけない状況を考えて、ムチの一種だと思った。
「モフモフ以外で、ハビーもそういうことするんだな」
「先に誤解のないように言っておきますが、サラフェはそういうことありませんでしたからね?」
サラフェは自身の変化をリゥパと一緒にされないようにきちんと訂正した。それを面白そうに反応したのはメイリである。
「あってもよかった?」
「……なくていいです」
「むふふ……サラフェ、身体は正直みたいだよ?」
「……メイリさん、そういう言い方は感心しませんね」
自身が受けた時のことを想像したのか、サラフェはピクリと反応して顔を少し赤らめる。彼女のそんな反応を嬉しそうにメイリがイジる。
「ダーリン、サラフェの方を向いて言ってみて」
「ん? サラフェ、身体は正直みたいだな?」
メイリに言われて、ムツキはその言葉をサラフェに向かって言う。ちょうど頬を寄せ合っていたこともあり、彼が少し顔を動かすと彼の口が彼女の耳元に近付き、そっと囁くような言い方になった。
サラフェの顔が真っ赤になる。
「くうっ……どうしてメイリさんの指示通りに言うんですか! しかも耳元で!」
「ごめん……正直に言うと、ちょっとサラフェの反応を見てみたかったんだ」
「っ! もう! そういうことも言わないでください!」
「ご、ごめん……」
ムツキがしゅんとなると、サラフェは無言で彼の頭を撫で始める。
「まったく……普通にしていてください。サラフェは普通のムツキさんがいいです」
「そうか」
微笑ましい2人を見て、女の子たちは自分の部屋へと戻ろうとする。
「さて、そろそろ寝直すか。2人もほどほどにな」
「サラべえ! 寝るのはサラべえに譲らないからね! ちゃんとムツキを返してね!」
「俺は次のハビーの服装でも考えとくかな」
「僕も早めにダーリンの服装考えとこうっと」
なんとなく話も終わり、明日からのコイハの試練を考え始めつつも就寝するという雰囲気の中、階段をドタドタと降りてくる音が聞こえてきた。
「ムッちゃん! 戻ってきたのね! 助けて! もう限界なの! ほんの少しだけでいいからまたしてほしいの!」
リゥパである。彼女はあられもない姿というわけではないものの、部屋着でも薄着と思われる服装で顔を真っ赤にしたまま、ムツキへと飛びつこうとする。
そのような彼女をナジュミネがとっさにがっしりとキャッチして離さない。
「……リゥパ、旦那様は、今はダメだ。後にしろ、先ほど帰ってきて疲れているんだ」
「……ううっ……ムッちゃーん……寝る前にほんの少しでいいから……待ってるからね……」
ナジュミネ、ユウ、メイリは、先ほどは単純に羨ましいと思ったが、リゥパがここまでとなると、ちょっとだけ恐ろしさも感じた。ただやはり、怖いもの見たさもあいまって、その甘いムチを受けたいようである。
「…………」
「…………」
サラフェが無言でじろっとムツキを見つめるので、彼は無言で見つめ返していた。
「……いついかなる時でも、サラフェをあそこまでにしたら、承知しませんからね?」
「はい……サラフェだけじゃなく、他の女の子もそうならないように気を付けます……」
「……サラフェももっとしてほしいこととかをきちんと言うようにしますから」
「あぁ……そうしてくれると嬉しいな」
それからしばらく2人で互いの温もりを感じつつ、静かな時間を過ごしていた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
これにて4章の前半が終わりです!
少しお休みをいただいて、4章の後半は12/19に開始します。
※この間に第1部と第2部の改稿なども行います。
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