4-49. あの頃から強くなっていた
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楽しんでもらえますと幸いです。
最終兵器魔法少女サラフェ。ここでは、サラフェと区別するためにマジカルサラフェとする。
マジカルサラフェの服装はとにかく派手である。フリルやリボンの多すぎる青と白のミニスカワンピースと黒色の膝上までのスパッツに加えて、虹色金属の軽装鎧として胴部パーツ、肘パーツ、膝パーツ、冠のような頭部パーツ、膝下までの脚部パーツがあり、さらに6枚の機械的な見た目の翼までついている。
武器は、魔砲や投擲槍などに変化する6枚の翼のほかに、刀にも変形する月と太陽と星とハートを組み合わせた頭部を持つ杖がある。なお、杖の名称は、ムツキ曰く、サラフェステッキである。
元々の褐色肌、青髪のツインテールと組み合わさったマジカルサラフェは様々な要素をこれでもかと詰め込んだ存在なのだ。
「やはり、自分と戦うのは難しいですね。しかも、キルバギリーと一緒だとは……」
マジカルサラフェは本来、圧倒的な機動力を持って、変形した翼による魔砲攻撃と、サラフェステッキで増幅された魔法を使う遠距離攻撃を軸にした戦闘スタイルを得意とする。
しかし、この場での遠距離攻撃は難しいと考えたのか、マジカルサラフェは中距離、近距離からの攻撃をするためにサラフェへと高速で近付いていく。
サラフェの刀捌きと、マジカルサラフェの刀捌きは互角である。そこにマジカルサラフェは、至近距離からの魔砲攻撃や、また翼を投擲槍に変えて自動で飛ばしてくるなどの攻撃を加えてくる。
サラフェも自分の癖や得意とするパターンから必死に応戦するも、体力的にジリ貧だった。
「あっ!」
サラフェは疲れから刀を絡めとられ、マジカルサラフェの切り返しに対して咄嗟に後ろへ跳び退く。切っ先が彼女の喉元へと近付いていった。
「くっ!」
次の瞬間。マジカルサラフェの攻撃はサラフェの身体に届くことなく、見えない何かに阻まれる。もちろん、ムツキが女の子たち全員に張っている【バリア】である。
「そう言えば、俺がサラフェを守る、でしたね」
サラフェは先ほどムツキに言われたキザなセリフを思い出す。今思い出しても顔が赤らんでしまうほどに、そのとき、子ども姿なのにやけにかっこよく見えたのである。確かにムツキはサラフェを守った。そして、悲しませることなく、守られている安心感を彼女に抱かせた。
「まあ、守ってくれているのは、ムツキさん本人ではなく、ムツキさんの張った【バリア】ですけどね」
サラフェはドキドキしすぎた自分の気持ちを認めたくないのか、そのような軽口を挟んで自分自身を落ち着かせた。
「戦闘人形がサラフェとキルバギリーだったのは、サラフェがキルバギリーもしくはそれ以上のパートナーと来ることを予想でもしていたのでしょうか。それは……考えすぎですかね……」
サラフェはそう呟きながら、目の前のマジカルサラフェに向かって手を突き出す。
「っと、ここで魔法はやめておきましょう」
サラフェは突き出した手をそのまま翻し、床に突き刺さった自分の刀を回収して、マジカルサラフェに一太刀浴びせる。
最後の姿で負けてしまった戦闘人形がデッサン人形の姿に戻り、さらにまるで糸が切れたように床に無造作に転がっていた。
目の前のスクリーンにキルバギリーが現れる。
「これは予め録画してある映像です。サラフェ、あなたがここに来て部屋の仕掛けを解除したということは、私に何かあったのだと思います。もし私がどうしようもなくなった時にはこちらを使ってください」
サラフェがスクリーンに近付くと、その近くにあった装置から薄い箱型のものが飛び出てくる。
「これは……」
「それは、私のバックアップデータです」
「ばっくあっぷでーた?」
サラフェが首を傾げてスクリーンを見つめるも、予め録画されているスクリーンのキルバギリーが反応して答えてくれるわけではないため、キルバギリーの説明が続く。
「私は定期的にデータをミラーリングしていますので、最近の情報も入っていると思います。私の本体に入っているデータがどうしようもなくなった時にそれをインストールしてみてください。分からなかったら分かる人に聞いてくださいね」
「みらーりんぐ? いんすとーる?」
キルバギリーも雑である。現在の人族でバックアップデータというものを理解できるのはレブテメスプとムツキしかいない。彼らがいなければ、このデータの使い道などよく分からないのである。
「サラフェ!」
ムツキがようやく辿り着く。その頃にはキルバギリーの映像は終わっており、彼の目に映るのは涙の跡があるサラフェとその手にある薄型の箱だった。
「大丈夫か?」
「ええ。大丈夫ですよ」
ムツキはとっさにハンカチを出そうとしたが、先ほどキザったらしい行動を自粛しようとしたばかりだったので、思わず動きが止まってしまう。
サラフェは面白そうに笑みを浮かべると、膝を着いて、彼の前に自身の顔を近づける。
「もしムツキさんがよろしければ、サラフェの涙の跡を拭いてもらえますか? このままでは痒くなってしまいますから」
「……任せろ!」
ムツキは嬉しそうにハンカチを取り出してサラフェの顔を優しく拭いた。
サラフェもまた試練を乗り越えたのである。
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