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4-47. 心配だから早く追いつきたい(2/2)

約3,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 アニミダックが触手から立ち上がり、ムツキの方へと歩み寄る。ゴオやレムの攻撃には触手を出して完全に防ぎ、彼自身は悠然と急ぐこともなく歩いていく。


 彼もまた強者の一人である。


「はーっはっはっは! こんな雑魚相手に何を遊んでやがる? サラフェが心配じゃないのか? 子どもになったからって、おもちゃにご執心とは、お前の女が泣いて悲しむな!」


 アニミダックはムツキに向かって、バカにしたようにいくつもの言葉を投げつける。温厚寄りのムツキもさすがにアニミダックの言葉には憤慨の色を隠せなかった。


「そんなわけないだろう! ったく……それとも、アニミダックなら簡単なのか?」


 ムツキはお返しとばかりにアニミダックを煽るように喋りかける。その言葉には少しばかりの期待も込められている。


 アニミダックは多種多様な触手による範囲内での殲滅力に長けている。意外にもムツキよりも彼の方が局所的な戦闘や制圧に向いているのだ。


「ああっ? 俺を誰だと思ってるんだ? こんな奴ら速攻で終わる……と言っても、今の弱体化した俺じゃお前のフォローが精一杯だ。奴らの動きを止めてやるから何とかしろ」


 アニミダックは売り言葉に買い言葉とばかりに居丈高に返そうと思ったものの、ほどほどの発言に留まった。彼は身に着けさせられているユウ特製の封印の腕輪によって能力が大幅に制限されていて、防御や補助はできても攻撃を仕掛けることができないのである。


 ムツキはアニミダックの言葉を聞いて、少し考える。この場における最良の選択は何かと考える。その結果が出た瞬間に彼の口が動く。


「もし、全力なら、すぐに終わるのか?」


「あ? まあ、俺が本気を出せるなら一瞬で終わらせられるな。お前よりも俺の方が……」


 アニミダックの言葉が終わる前に、ムツキは彼の腕に付けられていた封印の腕輪をバラバラに壊した。アニミダックは驚きを隠せず、ムツキは優しい微笑みをアニミダックに向ける。


「俺はアニミダックを信じることにする」


「あ……ああっ!」


「これなら本気で戦えるだろ?」


 ムツキがアニミダックに何らかの友情のような信頼を感じたことは不思議ではない。


 彼らは2人とも創世の女神ユースアウィスの手によって創られた存在であり、ある種の兄弟のような存在である。年齢はかなり離れているものの、本来の見た目は似たような青年姿ということもあって、ムツキにとって、この世界では見た目が近しい男友達のような感覚を抱いていた。


「ああああああああああああああああああああああっ! お前、ふざけてんのかっ! 何をしやがる! 舐めた真似しやがって! ぶっ飛ばすぞ!」


 しかし、ムツキの信頼とは裏腹に、アニミダックはムツキの行動に激昂した。アニミダックは怒り心頭といった様子でムツキに今にも襲い掛からん勢いである。


「えっ?」


「せっかく、ユースアウィスが俺のために用意してくれたアクセサリをぶっ壊しやがって! ちくしょうが! あったまに来た! 許さねえ! こいつらよりも先にお前を始末してやる!」


 アニミダックが能力の制限を解除されて触手を出せる量や種類が増えた。それはそのままムツキへの攻撃に使われている。もちろん、触手の攻撃は無効化されている。


「待て! 待て! 解放されて怒ることがあるか!」


「うるせえ! てめえのフォローをしてやるって言っただろうが! 勝手に人のモノぶっ壊しやがって! 使用人扱いはまったく気にならねえが、俺のモノを、ユースアウィスの作ってくれたモノをぶっ壊してタダで済むと思ってんのか!」


 ムツキはアニミダックに着けられた封印の腕輪という枷を外した程度にしか考えていなかった。そのため、ムツキは感謝されることがあっても非難されることなど全く想定していなかった。


 一方のアニミダックからすれば、ユウからもらったプレゼントに他ならなかった。封印や能力の制限など彼にとって、今となっては割とどうでもよく、何があっても好きな人からもらったプレゼントという認識であったため、それを破壊されたことにひどく憤慨していたのである。


 この違いにようやく気付いたムツキがアニミダックに説得を始める。


「ごめん、分かった! ユウに頼んで新しいかっこいいアクセサリを作ってもらうから! その時は、デザインはアニミダックが決めていい!」


 ムツキの言葉を聞いた途端に、ムツキの周りのバリアを壊そうとしていた触手の攻撃がピタリと止まる。その後、アニミダックが【バリア】にビタッと張り付いて、恐ろしい形相でムツキを睨みながら言葉を発していく。


「……本当か? ユースアウィスが俺の考えたデザインのものを俺のために作ってくれるのか? この場限りの嘘じゃないだろうな? デザインだぞ? 俺の考えたデザインだぞ? こう、触手が絡まっているようになっている腕輪というか手甲でもいいのか?」


「あぁ……腕輪だろうが手甲だろうが絶対にユウに作ってもらう。男どうしの約束だ。絶対に約束は果たす」


 ムツキの発した男の約束という言葉に、アニミダックは目を丸くして驚く。その後、何事もなかったかのように彼は笑い始めた。


「男どうしの約束……ふはっ! そんなことはどうでもいいが、約束したからな!」


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「やかましい! 微塵にしてやる!」


 その瞬間に無数の触手がゴオを襲い、逃げ場のないナノマシンがすべて触手によって破壊されていく。


「レムウウウウウウウウウウウウウウウッ!」


「……もしかして、これは目くらましのつもりか? 俺の触手に目なんかねえぞ? てめぇも早く終わってろ!」


 いつの間にか、床に、壁に、天井に、びっしりと触手が生え巡らされており、レムのナノマシンも為すすべもなく、触手の波に飲み込まれて消失していた。


「本当に一瞬だな……」


「お前が不器用過ぎなんだよ。そして、これでフィニッシュだ」


「ピィッ!」


 小さなハチドリ型のゴーレムもまた逃げる場所がなく、自慢の翼やスピードを活かせずに捕まり、捩り切られて粉微塵にすり潰されて消失した。


「あ、忘れてた……」


「おいおい、忘れんなよ……きっと、これがカギだろうに」


 触手が鍵らしきものを吐き出し、アニミダックがそのままムツキへと渡す。


「それじゃあ、急ぐぞ!」


「バカが! お前は先に行ってろ!」


 駆けだそうとしていたムツキはアニミダックの言葉に勢い余ってコケる。


「……え、なんでだ?」


「ユースアウィスが作ってくれた腕輪の破片を取り切れてねえ! 回収しきるまで俺は一歩もここから動かん! 新しいのを作ってくれるのはいいが、前のもしっかりと大事に回収する!」


 どこからかホウキとチリトリを取り出したアニミダックがムツキに壊された封印の腕輪を回収しようとする。触手に任せず、彼自ら丁寧に掃き集めている所に執念を感じざるを得ない。


「ブレなさすぎだろ……分かったよ! 先に行ってる!」


 ムツキがサラフェの進んだ方へと駆けていく。やがて、彼の姿が見えなくなった頃、アニミダックは独りごちる。


「男どうしの約束……か……まあ、信頼されるのも悪くねえな……全体的にはムカつくし……いつかぶっ飛ばしてユースアウィスを取り戻すけどな」


 その時、アニミダックは微かに笑みを浮かべていた。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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