4-45. 分断されるからどうしても少し不安になる
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楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキとサラフェの2人はしばらく無言が続いたものの、その後にひとまず先ほどの件を保留状態にして会話をするようになった。
「さて、そろそろ大きな部屋に入ります。そこが分断される場所です」
サラフェは少し緊張気味にムツキに話しかける。彼は繋いでいる手から彼女の震えを感じるような気がして、彼女がこれ以上不安にならないように明るめの声を出す。
「えっと、俺はアニミダックを待ちつつ、部屋の仕掛けを解いたらサラフェを追いかければいいんだな?」
サラフェはゆっくりと頷き説明を続ける。
「そうです。もしくはサラフェが最後の部屋の仕掛けを解ければ、ムツキさんたちの仕掛けも止まるはずです」
「ん? そういえば、なんでまた動いているんだろう?」
ムツキは素朴な疑問をサラフェに投げかけると、彼女は当時を既に思い出していたようで彼に理由を話す。
「それを先ほど思い出しました。大切なものがまだあるから罠を起動し直すと、キルバギリーが当時言っていたのです」
「それが今回の試練になっているデータなのかもしれないな」
ムツキは手を組み顎に指を掛けて唸り始める。さらに、首を傾げるので少しかわいい感じにしている。
「かもしれませんね。あの時の前後は必死すぎて、そこまで気が回りませんでしたね」
「それは仕方ないさ。ところで、罠が再起動しているとして、大きな部屋とその先の部屋の間は大丈夫か?」
ムツキの問いにサラフェは首を縦に振る。
「ええ。その間には罠がありませんでした」
ムツキはホッとして胸を撫で下ろす。
「じゃあ、その仕掛けだけど、別に俺だけでクリアしてしまってもいいんだろう?」
「ええ、もちろん、それができるなら越したことはないですが、ムツキさんとは相性が悪いかもしれません。とはいえ、サラフェも序盤しか見ていませんので言いきれるわけではないですが……」
「がんばるか……」
「無理はなさらないように」
ムツキはサラフェの心配を嬉しく思い、柔らかな笑みを浮かべて口を開く。
「大丈夫。俺、最強だからさ」
「まあ、そうなんでしょうけど……少しはサラフェの心配を受け取ってください」
「そうだよな、ありがとう」
その後、いくつかのやり取りをした後にムツキとサラフェが大きな部屋へと入る。
大きな部屋の中は先ほどの通路と変わらず無機質な金属たちがむき出しであり、高くなっている天井の奥にはいくつもの配管がびっしりと張り巡らされている。デザインも何もない場所ではあるものの、どこか整然として機能的な美しさが表れている。
「えっと、まず、俺たちの来た通路の扉が閉まって……」
2人が入りきってしばらくすると、彼らの後方にある通路の扉が閉まる。次に、目の前の壁にある扉が開かれ、一部がまるで切り取られたかのようにぽかりと穴が開く。
「次に入り口か……それじゃあ、予定通りでいこう」
「はい……いってきます」
ムツキは先ほどサラフェから受けた説明を思い出して、順番を確認している。この次に、機械人形が現れるはずである。以前は、その機械人形が現れるまで全員で待機していたが、今回は待たずして彼女が進むことにしている。
2人で行けるのか、もしくは、彼が彼女を置いて、つまり、役割を逆転して進めるかを確認するかなどと迷っていたが、以前と異なる進め方をして変なことが起きても困るため、彼らは筋書きを変えないことにした。
「気負い過ぎるなよ?」
「分かっています」
サラフェがそう言い残して次の扉へと素早く駆け抜けていく。ムツキは彼女の背を見て気掛かりで仕方なかった。
「気になるな……大丈夫かな。ついていけばよかったかな……」
そう言いつつも、ムツキはグッとこらえて待機する。
「それはそうとこっちに集中するか……早くクリアしないと……で、なんだ? サラフェ側の扉が閉まったな……サラフェがもう行ったからか……」
サラフェが通り過ぎた後、扉は役割を果たしたと言わんばかりに壁と同化して消える。その後、現れたのは3体の機械人形だ。
1体はハチドリのような小さな鳥型の形状をして、ムツキから常に離れた位置を飛び回り、彼の様子を逐一窺っている。
残りの2体は極めて人族に近い形状をしているものの、それぞれが3mを超える大きさをしており、見るからに戦闘系の機械人形である。1体は細マッチョ系のスタイルに両手が刃物という近接戦闘仕様で、もう1体はゴリマッチョ系の銃火器を身に纏った遠距離戦闘仕様だ。
「なるほど……逃げ回る飛行系機械人形と……俺を襲う大型の機械人形が2体いるわけだな? あの飛行系が何かカギか?」
ムツキがまじまじと見つめていると、2体の人型が機械の合成音で雄叫びをあげる。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「レムウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
ムツキがコケる。元気な自己紹介をしてきた自律機動の機械人形は、ゴーレムである。
「2体合わせて、ゴオ……レム……なんだな……分かりやすいような分かりにくいような……」
ムツキはゴーレムたちの叫んだ音から、近接型をゴオ、遠距離型をレムと呼ぶことにした。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「レムウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
ゴオとレムが再び雄叫びをあげて、ゴオがムツキへとゆっくりと近寄って来る。まるで強者が余裕を持って歩いてくるシーンのようである。
だが、相手が悪い。
「さっさと倒すか! サラフェが心配だ!」
ゴーレムにまったく物怖じせず、ムツキもまたゆっくりと彼らに近寄っていった。
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