4-43. 懐かしいから話が止まらない(2/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキから始めたはずのサラフェへの抱擁は今、彼女が片膝を着いて彼を強く抱きしめる形に変わっていた。
彼女の様子から滲み出るのは不安と悲しみであり、それに気付いた彼はゆっくりと抱きとめ返す。
「ここでは多くの仲間……いえ、友人とも呼べる人たちを失いました」
サラフェが言い直す。それが失った仲間を大切な者たちだったと強調して伝えている。
「……そうか」
「ええ……学園時代の友です。言い方を変えれば、共に勉学に訓練に励んだだけとも言えますけどね。それに、人族の繁栄のために命を捧げることを誓った者たちです。この研究施設の調査は何があるか分からない以上、命がけであることも全員理解していました」
サラフェは自分から湧きあがる感情に押し潰されてしまわないように、少しだけ皮肉を交えつつ、できる限り淡々とした口調で説明するように努めていた。
しかし、ムツキから見れば、彼女は既にいっぱいいっぱいな様子であり、とても辛そうな雰囲気だった。
「サラフェ……その……無理は……」
「……大丈夫です。むしろ、話をさせてください。気がまぎれますから。……この先、1人だけ奥へと進めます。その時は、体力が十分に残っていたサラフェが選ばれました」
「……そうなのか」
サラフェは話を止めない。ムツキはそのような彼女に対して優しく受け止めるしかなく、声色が落ちないように少しだけ軽さを意識して返事をする。
「ええ。今思えば、ご都合主義とも言うべきか、適合者という運命が何かしらの力を働かせたのでしょうね。そして、サラフェがキルバギリーと共に戻るまでに……仲間の多くは命を失っていました……」
「……そう……か……」
「ふふっ……お気になさらず……ムツキさんであれば、彼らのように命を失うことはないでしょう」
サラフェは冗談のつもりなのだろう。彼女は笑みを浮かべつつ、かつての仲間とムツキを比べて、今回は問題ないと言ってのけた。
「そんなことを気にしてはいない……俺が気にしているのはその悲しそうな声だ」
「あら、悲しそうに聞こえますか?」
「ああ、聞こえるね。あと……」
ムツキはサラフェの目からこぼれ落ちて彼の肩を濡らしている涙のことを告げようと思ったが、それよりも先に伝えるべきことがあると思い声が止まった。
「なんでしょう?」
「いや、俺はサラフェを悲しませないよ。俺がサラフェを守る」
サラフェの涙がこれ以上こぼれることのないようにと願って、ムツキが選んだ言葉は彼女にとってこれ以上ないほどのキザなセリフだった。
しかし、そのセリフに彼女はどこか安心を覚え、ふと自分が涙をこぼしていたことに気付き、そのまま彼の優しさに甘えることにした。
「ふふっ……思わず歯が浮いてしまうようなキザなセリフですね。それに、誰にでも言っていそうですし、リゥパさんやナジュミネさんにも言っているのでしょう?」
「えっ? いや、あー、うーん、そういう詮索は困っちゃうな……しょうがないだろ……とっさに出ちゃうんだから……」
ムツキはポリポリと頬を掻いた。彼は自分でもやけにキザな言い回しをしたものだと若干後悔するも、それでサラフェの涙が止まり、いつもの少し意地悪な言い方が戻ったのだから良しとした。
「そこまで反応されるともう言っているようなものですよ? ……ありがとうございます。さて、休憩は終わりにしましょうか。先を急ぎましょう」
「ちょっと待ってくれ。そのままでいてくれないか?」
サラフェはムツキを抱きしめていた腕を解いて立ち上がろうとするが、彼に止められてしまう。
「えっ、どうし……っ」
サラフェが言葉を発しきる前に、ムツキは手に持った布で彼女の顔にある涙を優しく拭いた。
「いや、サラフェに涙は似合わないからな。笑顔が一番だよ」
「……いや、やりすぎですよ……ここまでだとドン引きですね」
「え……」
サラフェはくるりと踵を返しつつ、ムツキの行動に少し非難めいた感想を伝える。ムツキはそこまで言われると思ってなかったのか、衝撃を受けた表情のまま固まった。
「まあ、嫌いじゃなくて……むしろ、好き……ですけど……」
「え、はっ、あ、何?」
「いえ、なんでもありませんよ。歩きながら、分断されるときの罠を説明します」
「あ、あぁ……キザ過ぎたのか……」
サラフェのごにょごにょとした小声はムツキに聞こえておらず、彼女は少しホッとした様子でこの後に何が起きるかの説明を始める。
一方の彼はキザな言動に気を付けようと心から思っていた。
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