4-41. 疑問に思うから話が止まらない(2/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
アニミダックが腕組みをしたまま、思いついたことを口走ってみる。
「そりゃ、ユースアウィスを自分の妻だと勘違いしているからだろ? まったく、俺のものなのにな」
「いや、だから、俺の妻だって……というか、ものって言うな」
しれっと自分のものにしようとするアニミダックに、ムツキは都度ツッコミを入れる。
「たしかに……どうしてそうしたのでしょうね」
「まあ、よく分からねえが、何かが違うと思ったんじゃねえか?」
「何かが違う?」
ムツキの質問に、アニミダックは首を横に振った後に少しばかり上空を眺め始めた。
「いや、分かんねえよ。分かんねえけどよ。ただ、創ってみて、何かが違うって思って、自分の子どもとして見るようになったんじゃねえか、って思っただけだ。適合者の話もそう。自分の中で何かが違うって思ったんだろ」
「理想と異なる……か……自分だけでは理想に近付けられなかった……からか?」
ムツキはアニミダックの話に自分なりの解釈も加えてみる。それらしい雰囲気の答えが出るものの推測の域を出ないために、釈然としない答えが横たわっている感じを彼自身が受けている。
「あー、やめだ、やめだ。時間もねえから、とっとと進むぞ」
「あ、アニミ。待ってください」
アニミダックは考えることをやめて、ずんずんと一人で先へと進んでいく。サラフェが途中で止めようとするも、彼は意に介した様子もなく、研究施設の玄関へと止まらずに歩みを進めていた。
「あ? なんだよ? 俺を止めたきゃユースアウィスでも呼んでく……ああああああああああああああああああああああっ!」
突如、アニミダックの姿が消え、その代わりに、彼の絶叫が響き渡る。サラフェとムツキがゆっくりとアニミダックの消えたあたりまで進んでみると、そこには大きな落とし穴がぽっかりと空いており、侵入者を地下へと招待していた。
彼らがそっと穴を覗き込んでも、床はおろか、その場で立つか転がっているかしているであろうアニミダックの姿さえも見えなかった。
「深い落とし穴があります」
「え、罠がまだ生きているのか?」
「そうですね。正確には、今の技術では解除することができませんでした。なので、注意しながら進むしかありません」
サラフェの淡々とした返しに、ムツキはたらりと冷や汗が額に滲む。
「先に……」
「言おうと思ったのですが、それよりも早くにアニミが行ってしまったので遅れてしまいました」
ムツキの言おうとしたことをサラフェが先回りして答える。彼はその後の言葉が続かず、しばらくして、首をゆっくりと縦に振った。
「そうか……」
「……ムツキさん」
「ん?」
落とし穴を横目に2人が研究施設内に入ると、サラフェがムツキに話しかける。
「ムツキさんは理想の女性とやらに興味がありますか?」
サラフェはムツキの理想の女性像に興味を覚えた。
彼女自身がその理想に近いのか、そして、それを素直に彼が答えるのか、多種多様なハーレムの女の子たちがいる中で誰が一番理想に近いのか、彼女の興味は尽きない。
「……理想の女性か。うーん、あんまりかな」
「何故ですか?」
ムツキの思わぬ回答に、サラフェは彼を見つめる。彼女は彼がその優しさ故に真実を隠しているのではないかとも思ったが、彼の表情がその考えを吹き飛ばした。
彼女の目には、彼の表情が本当に回答を持っていないために困っていたように映ったからだ。
「俺は、ユウも、ナジュも、リゥパも、サラフェも、キルバギリーも、コイハも、メイリも、そう全員をとても愛している。でも、みんな違うだろ?」
「……そうですね」
「だからって、たとえば、俺はサラフェにナジュのようにもなってほしいと思わない。みんな、それぞれ、素敵なところがあるからな」
「先ほどから、愛しているとか……素敵とか……恥ずかしいことをさらっと言いますね」
ムツキが子どもの姿でなかったら、サラフェは顔を真っ赤にして、ご自慢のツインテールをぶんぶんと振り回していただろう。
「ここで恥ずかしがっていたら、大事な言葉を言えない気がするからな」
「……心掛けは素晴らしいですが、隠すこともあるし、失言も多いですけどね」
サラフェは自分が落ち着くために、わざとムツキに意地悪なことを言った。
「うっ……」
「それはさておき、そういうこともあるからではないでしょうか」
「ん?」
ムツキが不思議そうな顔をするので、サラフェが言葉を続けた。
「先ほどの話です。あまりにも理想に近付きすぎないことをレブテメスプは望んだのかもしれません。もしくは、理想から少し離したくて、自分以外の適合者を作ったのかもしれませんね」
「すべてが上手くいくが故のつまらなさ……なのかな……」
ムツキは何か思うところがあり、子どもらしからぬ思案顔になる。サラフェは彼のその似合わない顔の頬にツンと指を触れる。
「せっかくのかわいらしい顔が台無しです。子どもの内は難しいことを考えないことですよ。まあ、いずれにせよ、答えのない雑談は終わりにしましょう。アニミはいずれ合流できると思いますから先へ進みますか。罠の位置は覚えています」
サラフェはサッと手をムツキに差し出す。彼女は手を繋いで案内をすることにした。弟や妹が欲しかった彼女が彼の状況に少しだけ甘えているようにも映る。
「2人きりだな。手も繋いでいるし……」
「……デートとか言ったら承知しませんよ?」
「うっ……」
サラフェが釘を刺すとムツキがしゅんとして黙ってしまう。その状況に至って、彼女は自分の意地悪な言い方にちょっとだけ後悔した。
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