4-40. 疑問に思うから話が止まらない(1/2)
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ムツキ、サラフェ、アニミダックが着いた場所は、人族の領の中でも主要な国や町からポツンと離れた場所で、小さな町が近くにあるだけの所だった。
そこではレブテメスプが残した研究施設の1つが今もなお動き続けている。その無機質な金属に覆われた研究施設は定義上、遺跡に近いものの古めかしい感じをさせず、今もオーバーテクノロジーで守られていた。少し前までは調査隊が頻繁に通っていたが、サラフェがキルバギリーを手に入れて、研究施設内の情報を引き出した結果、頻度が下がってしまった。
ただし、結論から言えば、人族は扱いきれないテクノロジーに困って何もしていないという表現が正しい。
「ここですね」
サラフェはこの場にフリル付きの青色のワンピースのまま来ていた。
「ここが………………の住処の1つか」
アニミダックは正装とばかりに黒いローブを羽織って、黒い触手を2本ほど常に出現させている。
そんな彼がレブテメスプの名前を出そうとするも近くにいないためにその名前を発することができない。
「なるほど。ここでもアニミダックがレブテメスプ探知機になるのか」
「おい、探知機扱いかよ……」
アニミダックは少し肩を落としつつも警戒を高める。仮に自身がレブテメスプ探知機だとすれば、ここでサポート役として指定されたことはレブテメスプが登場する可能性を示唆しているためである。
「そう言えば、アニミはよく快諾してくれましたね? わざわざ一緒に出向いてサポートしてくれるなんて」
アニミダックはユウ以外の女の子たちにはアニミと呼ばれることが増えた。ただし、仲良くなったわけではなく、単に名前が長いからである。
彼はユウ以外にはどう呼ばれようと気にしていないため、アニミだろうと、ダックだろうと返事をする。ちなみに、ユウにはアニミダックときちんと呼んでもらいたいようだ。
「今回の試練の件、ユースアウィスに、手伝ってね、って言われているからな。ユースアウィスにお願いされたとあっては何が何でも手伝うに決まっているだろ」
「ほんと、ブレないな……」
アニミダックはユウにかわいくお願いされた時のことを思い出して表情が崩れる。彼にとってはすべてにおいて、ユウが優先されるようだ。
ムツキはアニミダックのそういう所にある種の尊敬を覚えつつも、少しばかりの狂気に引いてしまうことがままあった。そして、今はハーレムを作っている彼だが、自分が誰か一人を愛そうとしたとき、自分に何か変化が起きるのだろうかと考える。その答えはまだ出ていない。
「……ところで、ここには何があるんだ?」
「ここは主にキルバギリーのための施設だと思っています。いろいろな仕掛けがありましたが、それは最奥で眠っているキルバギリーを守るためのものだったと考えられます」
ムツキの問いにサラフェが過去を思い出しながら答える。
彼女はキルバギリーとの適合を有する、つまり、適合者だ。その適合者である彼女とキルバギリーの出会いが、キルバギリーを目覚めさせ、彼女を水の勇者にするほどの実力者へと押し上げたのだ。
「サラフェが出会ったときのキルバギリーには、大きな損傷もなく、目覚めの時を待つように安置されていたといっても不思議ではありませんでした」
「そんなに大事にしていたってことは、………………はよほどキルバギリーを取り戻したいんだろうな。俺だって、ユースアウィスをすぐにでも取り戻したいからな」
アニミダックはムツキを睨みつけ、ムツキはアニミダックにやめてくれと言わんばかりに手をひらひらと動かしている。
「睨むな、睨むな。あと、取り戻すも何も俺の妻だからな。……あ、そんなことよりも……いや、待てよ……ふと疑問に思ったんだが……」
ムツキはアニミダックの話もふまえて、ある疑問が浮かび上がっていた。
「なんでしょう?」
「なんだ?」
「いや、多分、ここにいる誰にも答えられないんだろうけど、なんで、レブテメスプはキルバギリーに適合者なんて作ったんだろうな? たまたまなのか?」
ムツキの素朴な疑問にサラフェはハッとし、アニミダックはまだ少し理解が及んでいないようで首を軽く傾げる。
「なるほど、そうですね」
「どういうことだ?」
「だってな、そんなに大事なら、独り占めにして、自分以外の適合者なんか作らないだろ? 取り戻す手間を考えたら、そうしなくていいようにしたいって思うんだよな」
「あー、たしかに。なんでだろうな」
ムツキの説明にようやく合点のいったアニミダックは腕組みをして考え始める。
「そもそも、ユウを模しているようなら、娘って表現も少しだけおかしい気もするんだけど。なんで、妻じゃないんだろうな?」
ムツキは前の世界で聞いた神話の中の逸話を思い出す。
その物語では、とある王が理想の女性を模した像を作り執心し、やがて神に認められて像に生命を宿らせてもらい、理想の女性を妻とする。
キルバギリーと出会った時にもふと過ぎったその逸話を思い出すほど、彼はレブテメスプの行動に違和感を覚えていた。
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