4-39. 予想外の試練だったから驚きを隠せなかった
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楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキの部屋では、ムツキが着なかった衣類をケットがほかの妖精たちと一緒に畳み始めている。サラフェが手伝おうとしたが、ケットは丁重に断った。それは、試練を前にしている彼女に負担を掛けさせないためのケットの優しさである。
どんな試練が待ち受けているのか、サラフェはもちろん、コイハやメイリもまだ見ぬ試練に不安がいっぱいなのだ。クリアしなければ、キルバギリーを失い、ムツキが幼いままになる可能性があるため、その不安はより大きくなる。
「さて、では、着替え終わりましたね。ダークブラウンの革靴を履きましょうね。そうしたら、試練くんが試練を言うまでリビングで一緒にくつろぎましょうか」
サラフェの提案にムツキが頷き、2人はケットたちを残してリビングへと向かう。彼女は最近、素直でいようとがんばっているのか、今も彼の手を握って並んで歩いている。
「ところで、リゥパさんと具体的に何をされたのかは分かりませんけど、みんな気付いていますからね?」
「え」
2人が階段を降り始めようとする頃、サラフェは小さくそう呟き、ムツキが素っ頓狂な声をあげる。
「あえて誰も聞かないですけどね。それに、ムツキさんが子どもの状態だとそういうことをなさらないと言っていたので、何か起こっても中途半端なんだろうな、とは思いますし、皆さんからすれば、逆に辛いと思いますけど。リゥパさんも嬉しそうな苦しそうな感じでしたからね……まあ、サラフェはしたことがないので、分かりませんけど」
「そうか……」
ムツキも誤魔化しきれていないとは思っていたが、まさかこう伝えられるとは思っておらず、頭を何かで軽く小突かれた気分になる。
「もちろん、あまりベラベラと話す内容ではないにしても、下手な隠し方をされるくらいなら、こういうことがあったとか、こういうことをしたとかくらいは言ってもいいと思います。ハーレムの女の子には平等に」
「ありがとう」
「いえ、別にお礼を言われることは言っていませんから」
「ところで、平等にってことは、サラフェにもそういうことをしていいのか?」
「……どうでしょう」
サラフェは褐色肌を赤らめていた。まだ素直になりきれていない部分もある。
そうして、2人がリビングに辿り着くと、待っていましたと言わんばかりにナジュミネ、コイハ、メイリが近寄って来る。
「さすがサラフェだな……旦那様の魅力を十二分に引き立てている服装だ」
「ショートにニーハイ……これはショート派に寝返ってしまうかもしれない……ダーリンは何を着ても似合うね♪」
「俺の時はどうしようかな……次だよな……」
その後、女の子たちがムツキを四方から囲って、四方八方から彼を眺めつつ、着せ替え談議に花を咲かせていた。
その談議がいつまでも尽きずに続く中、試練くんがパっと起きた。
「テキドナ、オヒルネ、ツマリ、パワーナップハ、アタマガ、サエルゾイ! サテ、シレンガ、キマッタゾイ! アオガミノオンナノ、シレンハ、コレゾイ!」
試練くんが試練の書いた紙を袖からバッと広げると、机の上に白無地の紙切れがはらりと落ちる。
しかし、その白無地の紙切れに文字が書いてあるようには見えず、ムツキは首をひねる。
「白紙? 試練がないってこと?」
「ソンナワケ、アルカ! ミズニ、ヌラスト、モジガ、ウカビアガルゾイ!」
ムツキは思わずコケそうになる。
「まるで子どもの科学の実験みたいだな……」
「【ウォーター】。元・水の勇者のサラフェに相応しい仕掛けですね」
サラフェが指に魔力を込めて、少量の【ウォーター】を放つ。すると、たしかに白無地の紙切れにぼんやりと文字が浮かび上がり始めた。
彼女が試練内容を隠す気もないのか、机に置いたままに文字を浮かび上がらせたので、ムツキが読み上げる。
「えっと……キルバギリーとの出会いの地で彼女のデータを入手せよ……?」
サラフェはピクリとして一瞬険しい表情になるも、すぐさま表情を戻す。
「データ? データとは何でしょうか?」
「えーっと……データってのは、厳密に言うといろいろな意味があると思うが、この場合、多分、キルバギリーに関する何かしらの情報とか資料とかってことじゃないか? 入手ってことは記憶媒体か何かがあるのか?」
ムツキは、前の世界でのイメージや知識で話をしている。彼には、この世界、というより、レブテメスプの創造したものがどういうレベルか分からない。
「……記憶媒体? 分からない言葉が続きますね……。ムツキさんがいないとサラフェだけだと難しそうです。サラフェにはそのような知識がありません」
サラフェが試練くんをチラリと窺うと、試練くんは縦に首を振って頷いている。
「モチロン、ヨカロウ! オコサマハ、カナラズ、サポーターノ、トウロクヲシテイル! コンカイノ、サポーターハ、オコサマト、ソコノ、シヨウニンダ!」
試練くんが指し示す先には、窓の汚れを磨き上げているアニミダックがいた。彼は掃除が趣味になったのか、日課の家事手伝い以外の時間に筋トレと掃除に励んでいることが多い。
「あ? 俺?」
「アニミダック……使用人呼ばわりでいいのか……。魔人族の始祖なんだろ……」
アニミダック本人は気にした様子もなく、代わりにムツキが違和感を覚えている。
「そんなことはどうでもいいが、掃除でピカピカになっているとな、ユースアウィスがすごくキラキラした目で、すごい、って言ってくれるんだよ」
アニミダックは、ユウにどう思われているかが気がかりなだけで、周りの評価を気にしない。
「たくましいな……」
「それはともかくとして……なるほど……では、早速向かいましょうか」
「もうすぐ夕方だけど、すぐに終わるものか?」
ムツキの問いに、サラフェは正直に首を傾げる。
「どうでしょう? 分かりませんけど、ちょうどサラフェが折り返しですから、早めに折り返しちゃいましょう」
サラフェの淡々と話す口振りにナジュミネは少し気掛かりを覚えつつ、ムツキとアニミダックに任せることにした。
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