4-34. 言うしかないから思い出のあの場所で伝えた(1/3)
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楽しんでもらえますと幸いです。
世界樹の頂上。そこは広い庭園のような場所だった。頂上は世界樹自体が少し窪みを有しており、その中に土が少し堆積しているためか、色とりどりの草花や木々が咲いている場所があり、鳥たちの楽園と化していた。
そこには4羽の番人ならぬ番鳥がいる。グリン、フィア、ヴィゾ、そして、フレスである。彼らは妖精族の一員であるものの、妖精王ケットの許可を得て、ある程度の独立した存在として世界樹の頂上を統治しているのである。
なお、フレスは鷲であり、残りのグリン、フィア、ヴィゾは鶏である。そのため、朝はかなり厳格に決められている。
「おはよう、リゥパ」
太陽が顔を出す直前のまだ暗い中、ムツキは【レヴィテーション】で世界樹の頂上まで辿り着く。彼が見回すと様々な色の花が咲き乱れる花畑の中にリゥパの姿があったため、彼はホッと胸を撫で下ろした。これで間違っていたら目も当てられない状況になることは容易に想像がつく。
そのまま彼は、彼女の近くに、しかし、すぐには手の届かないような位置に降り立ち、捕まえる気がないこと、話を聞く気があることを示す。
「ムッちゃん! ……あ……ごめんね……急に逃げちゃったり、こんな所に呼び出しちゃったりして……」
リゥパはずっと虚空に向かって神妙な面持ちをしていたが、ムツキの姿を見た途端に顔がパっと明るくなり、その後、自分の行動に対してバツが悪くなったのか、彼女は少し俯き加減で彼の方をおずおずとした様子でちらちらと見ている。
「やっぱ、ここで正解だったな」
「え、正解? なんのこと?」
「朝日が綺麗な場所で10か所も教えてくれたし、どれも良かったから、ちょっと迷ったんだよ」
ムツキは正直にどこに行けばよいのか迷ったことを伝えた。彼はいくつかルーヴァから入れ知恵をされており、その中の一つが「素直に場所がどれか迷った」である。
「あはは……そっか……」
リゥパは申し訳なさそうな表情をしつつも、ムツキにきちんと覚えられていたことをどこか嬉しそうにしている。
「あ、誤解しないでほしいんだが、悪く言っているわけじゃない。朝日だけに限らず、いろいろな所に案内してくれて助かったんだよ。おかげで世界樹や樹海のことをもっとよく知れたからな」
「私、あの頃はムッちゃんをとにかく連れ出したくて必死だったから……」
ムツキが現れて樹海の管理者として定期的に樹海の調査を繰り返す中、リゥパはほぼ必ず毎回彼と会って調査区域内のおススメスポットを2人きりになって紹介した。
つまり、デートである。それについては、周りもなんだかんだで黙認していた。
「そうか……いつもありがとう……」
「いつも……そうね……たまの樹海調査の時にしか来てくれないんだもの……」
樹海が広いため、ムツキの調査は24の地区に分けて行われている。今でももちろん、彼の調査は継続されており、ナジュミネとリゥパが必ず同行するようになった。
その調査だが、今も以前も定期的にそれなりの頻度で行っているものの、デートの頻度として考えると少々足りない。
「そうか……ごめんな……」
「誘わないと……こっちから会いに行かないと会ってくれないし……それに、なんだか、会っても嬉しくなさそうだったし」
リゥパは昔を思い出して、だんだんと怒りが込み上がってきているようだ。ムツキは少しマズい雰囲気になったと思い、首と手を横に振りつつ話し始める。
「……待ってくれ、そんなことなかったぞ? いや、たしかに、リゥパが忙しいと悪いなと思って、俺から声を掛けに行かなかったのは今思うと悪いなって思うけどな。だけど、リゥパが顔を見せに来てくれるとすごく嬉しかったんだからな。だいたい、綺麗でかわいい女の子に言い寄られて嬉しくない男なんていないぞ。毎回、デートも楽しかったしな」
「ふーん……綺麗でかわいい……ね……の割に、私を差し置いて、あっさりとナジュミネを奥さんにしちゃったのはどこの誰だったかしらねー。私、待ってたのになー」
リゥパはジト目でムツキのことを見ている。彼はウッと息を詰まらせ、両手をもじもじと手遊びさせ始める。
「いや、それは……エルフのしきたりがあったからで……あと、順番とか……あんまり意識がなくて……」
「ムッちゃん、私はね、そんな聞き分けの良いあなたよりも、強引にでも連れ去ってくれるようなあなたでいてほしかったの」
ムツキが自分やその周りを大事にしてくれていると思いつつ、リゥパは彼女自身の気持ちにもっと寄り添ってほしかったと言外に伝えているようだった。
「って、前にもこの話をしたわね。ごめんね、何度もしちゃって……面倒でしょ?」
リゥパは少しだけ自分が嫌になる。この手の話の結末がいつもここに行き着いてしまうことに、変えられない過去にいつまでも執着してしまうことに、責めても仕方ない彼に今でも責めてしまうことに、彼女は自身に溜め息しか出てこなくなる。
「いや、いいんだ。面倒だとも思っていない。それだけ、リゥパにとっては大事なことだったんだから。いつも伝えてくれてありがとう」
「ムッちゃん……」
ゆっくりと首を横に振って優しい笑みを浮かべるムツキに、リゥパはドキッとした。
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