4-33. 逃げるから悩み始めた(2/2)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキが久々にルーヴァと会って、嬉しそうに見た目そのままに子どものように飛び跳ねてはルーヴァを捕まえようとする。
さすがに【レヴィテーション】を使って追い掛け回さないだけの理性は彼にも残っていた。
「ルーヴァ! ルーヴァ!」
ルーヴァは以前からムツキのモフモフが激しすぎるとして、基本的には拒否のスタンスを取っていた。猫や犬の妖精とは異なり、鳥系の妖精はあまり触られるのを好まない傾向がある。
最近、彼の家に寄りつかず、必要な時だけリゥパに会うのはそういう部分が非常に大きい。
「ちょ、ムツキ様! どさくさに紛れて、モフるためにあーしに抱き着こうとしないでっ! 触らないで! モフハラよ! モフハラ!」
「…………」
ムツキがルーヴァからその言葉を聞いた途端に悲壮な面持ちで俯き始めると、子どもの姿もあいまって、ひどく陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
ルーヴァの気持ちに訴えかけるような状況が作り出されていると、ルーヴァの方がバツ悪そうにし始める。
「えー……子どもの姿だと……拒否するのに罪悪感が芽生えるわねー……」
「…………」
ムツキの悲壮感はまだ留まることがない。NOと言えるルーヴァもさすがにこの状況では難しかったようだ。折れることにしたようで、彼の肩にそっと降り立つ。
「はあ……ちょっとだけですよ? あと、あーしの嫌がることはしないこと。いい? 具体的には……内側をまさぐらないこと!」
「わかった!」
ムツキの顔がパっと明るくなり、手が伸び、ルーヴァを肩から自分の前にして持っている。コロコロと代わる表情に、若干騙された感も覚えるルーヴァだが、一度約束した以上、拒否をすることができなかった。
「あー、まー、なんというか……子どもの分かったほど、嘘くさいものはないわね……」
「頭を撫でるだけにするからさ」
ムツキもルーヴァに嫌われたくないので、ほどほどのスキンシップで留まっていた。
「ルーヴァ。それはそうと、リゥパを見つけたのですか?」
「まあ、それに近いですけどねー。まあ、幻聴が聞こえたー、みたいな?」
「幻聴?」
「……なるほど。そう言いたい気持ちはわかりますよ。あと……それを伝えるだけのために来たわけでもないでしょうからね」
アルとルーヴァがリゥパの腕輪の秘密を知っている一方で、ムツキはその秘密を知らない。妖精族の中でも限られた者しか知らないし、言いふらすものでもないので、誰も彼に教えることもないのである。
「さすが、話が早くて助かるわ。まあ、その聞こえた幻聴が言うには、2人で朝日が綺麗な思い出の場所で朝日を見ましょう、だったかしらね。明日の朝になれば、何かが変わるかもしれませんねー」
「なるほど。それはいいことですね。マイロード、リゥパとの思い出の中で朝日の綺麗な場所は覚えていますか?」
アルがホッと胸を撫で下ろしつつ、隣にいるムツキにもう少し噛み砕いた説明をする。
ムツキはしばらく顔を見上げるように上向きにして考え込み、やがて、何度か頷きながら徐々に顔を下ろしていく。
「もちろん、覚えているんだけど……」
「……何か?」
ムツキの歯切れの悪い回答にアルが怪訝そうな顔を隠さない。
「そのな……10か所くらいあるんだよ……リゥパに朝日が綺麗だからって言われて連れられた場所が……」
「…………」
「…………」
アルとルーヴァは心の中で「選択肢が多すぎだろ」とリゥパにツッコんだ。
「ルーヴァ……リゥパはどこなのか、言ってなかったか?」
「残念だけど、そこまで詳細を言ってなかったわね……」
ルーヴァもさすがに数か所どことか10か所もあると思っておらず、具体的な場所までは聞き出していなかった。そもそも、リゥパが少しロマンチックな言い方をしていたので、1か所しかないのだろうと勝手に思い込んでいた部分もある。
「マイロード、一番思い出深い朝日はどこですか?」
ムツキは脳内で順位付けを始める。やがて、その順位付けが終わり口を開く。
「うーん……どれも思い出深いけど……強いて言うなら、2回目くらいかな……」
「おー、1回目じゃなくて、2回目なんですね。どういう思い出ですか?」
1回目にとっておきの場所ではなく、2回目あたりにしているあたり、当時のリゥパも何回かのデートプランを企てていたに違いないと、アルは考えるに至っていた。
「朝日を見ている途中に魔物が現れて……」
「多分、それじゃないですね」
「多分、それじゃないわよ」
アルもルーヴァも「そういう思い出深さじゃないだろ」という言葉が喉まで出掛かるもムツキを委縮させないために飲み込み、次の言葉を促していく。
「うーん……じゃあ、4回目かな……1回目はエルフの里の樹上だから、今の状況だと、ないと思うんだよな……」
「たしかに……それはありますね。では、4回目は……?」
「4回目は……」
ムツキは手をほぼ真上に上げて、そのまま指を天に向かって指し示す。樹海において、天を指し示す行為は世界樹を指すことが多い。そして、世界樹の中で朝日が綺麗に見える場所といえば1か所しかない。
「……まさか?」
「そのまさか、世界樹の頂上だ」
ムツキの言葉にアルもルーヴァも確証を得るも、樹海の中でもかなり面倒な場所を指定されたと理解した。
最後までお読みいただきありがとうございました!




