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4-31. 言いたくないから逃げ回る(3/3)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 突如現れた白フクロウのルーヴァに、ニドは特に驚いた様子もない。ニドはほかの毒蛇からの情報でルーヴァが飛び回っていたのを知っていたからである。そして、驚かない理由をルーヴァもまた気付いている。だからこそ、違和感なく両者の話が進む。


 唯一黙っているのは、隠れようとしているリゥパだけである。


「…………」


「おやおや、これはこれは、今日は同胞に外に出てもらって正解でしたな。ルーヴァ様にもお会いできるとは……」


 毒蛇は恭しくお辞儀をするかのように鎌首を上下に動かしている。その姿に、ルーヴァはさして興味も示さず、ニドの言葉だけを拾い上げる。


「いくらあーたが地下に入れられたとしても、あーたに様付けされる覚えはないわよ。前は呼び捨てにしてくれちゃってたのにねー。ま、呼び捨てはお互い様だけど、妖精の中でも同列くらいだしね」


「……過去の行いを省みて改めることに何も問題はありますまい? それに、今の私の立場もありましょう」


 ルーヴァもニドをあまり快く思っていない。地下で自身は大人しくしつつも、今もこうして仲間の毒蛇を使って、地上の情報を取り続けているニドの様子は、なお何か企んでいるようにしか周りには映らない。


 何かがあるわけではない。だからこその気持ち悪さが誰の心にも纏わりつく。この毒蛇たちは諦めていないと信じられる、もとい、信じ込まされる。


「そりゃそーだけどね。で、あーたはこんなところでブツブツと何を言ってたのかしら?」


「おや、毒蛇の鼻歌に興味がありますかな? とはいえ、動物族と間違われて、襲われてしまっては困りますからな。私めは退散いたしますよ……」


 妖精族はお互いに捕食関係にない。ただし、動物族と間違われる可能性は有しており、事故はいつでも起きうるため、弱者は基本的に動物族と似たような行動を取る。


「あーたは、相変わらずね」


 逃げ去るように消えてしまう毒蛇にルーヴァは、まるでリゥパと同じ態度を示す。ニドが掴めない雲のような存在であると誰しもが思う。


 ニドは一時期、クーやアルを抑えて、ケットの右腕として働いたこともある。それ故に優秀であって、厄介な存在であることは間違いない。


 ルーヴァはここでようやく翼を休めるために降り立ち、一息をついてからゆっくりと周りを見回す。


「さて……これはあーしの独り言だけどー……リゥパ、ここら辺にいるんじゃない?」


「っ!?」


 リゥパは知っている。姿を消す能力において厄介なのは、ピット器官で分かる毒蛇だけでなく、エコーロケーションで物体を把握するコウモリやフクロウの類もそうである。


 そのため、リゥパの長年の親友である白フクロウは、最高にして最悪のハンターなのである。


「……あら、あーしの勘違いかしら……まったく……世話の掛かるお姫様なんだから……どこに行ったんでしょうねえ……」


 ルーヴァはリゥパの返事がないことから、とぼけることにしたようだ。それは、妖精王ケットやムツキよりも親友のリゥパを優先したことに他ならない。


 それが分かるからこそ、リゥパは目が熱くなって、涙が出そうになる。


「ルーヴァ……」


「……じゃあ、独り言を言うわー。あーたは、分かってるんでしょ? 具体的には分からないけど、ムツキ様から逃げてるのは自分の気持ちの整理がついてないからなんでしょ? でも、いつまでも逃げてられないって思いながら逃げてる感あるわよねー。だって、樹海に逃げ込んでいるんだもの。あーたが、本当の本気で逃げる気があるのなら、危険を冒してでも、たとえ、ムツキ様や世界を敵に回しても、地の果てまで逃げるでしょーよ。あーたは最後にはそんなことをやらかすバーカなタイプなんだから」


「…………」


 リゥパがニドの誘いに乗らなかったのは、ニドを信じられないこともあったが、何よりムツキを裏切りきれないことにもあった。少しでも考える時間が欲しかった。しかし、それを素直に甘えに変えられない弱さが彼女にあった。


「まー、せいぜい、考えなさいな。ムツキ様はなんだか焦っているようだけど、怒ってなさそうだし、あーたのこと心配しているからね。本当に、いい人よね。ちゃんと話し合いなさいな。あーたの好きになったムツキ様はそんなにひどい人じゃない……あ、ちょっと、待って、モフモフが関わるとひどかったわ。どんだけモフハラを受けたことか……あれは半分以上、セクハラよ……。だから、ちょっと訂正。全然、モフモフじゃないあーたにはひどくないわ、多分」


 クスッと笑うリゥパはルーヴァの話を聞いて、決心がついたようだ。


「ねえ、ムッちゃんに一人で朝日が綺麗な思い出の場所に来てほしいって伝えてくれる? 一日待ってほしいってことなんだけど……お願い!」


 リゥパはそう言い残して去っていく。その場所で待つという意思表示であり、指定した時間にムツキが来てくれるという、言い換えれば、ルーヴァがきちんと伝言してくれるという信頼を持つ態度だった。


「……独り言に幻聴が聞こえてきたわね……ま、白昼夢の一つだと思ってあげましょ。はー、めんどくさー。後で、ご褒美をもらうわねー。聞こえてないって言わせないからね」


 遠くへ行ってしまっているリゥパに、ルーヴァはそれ以上何も言わずに飛んでいった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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