4-30. 言いたくないから逃げ回る(2/3)
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楽しんでもらえますと幸いです。
リゥパは皮肉を込めたような笑みを浮かべる。ただし、それが見えることはない。毒蛇のピット器官には、熱を正確に測る能力があっても、表情を見るほどの能力がない。
「へぇ……あんたがそんなこと言うこともあるのね。てっきり、ひねくれもののあんたなら、逆に私を逃がしてくれると思ったわ。私のことが好きなのかしら?」
リゥパは予想外の言葉に小声のままにニドを訝しげに見つめる。一方のニドは蛇ということもあって、表情に乏しく、何を考えているかが分かりづらい。
「はっはっは……まさかまさか、ムツキ様の奥方の一人を相手に懸想などと……冗談でも恐れ多い話をなさいますな。それに、逃がすなどと私からはそのようなことを申しますまい。……ただし、所詮、私はただの第三者。故に、エルフの姫君の要望とあらば、そのような場所を提供することもやぶさかではありませんよ。そう、あくまで第三者として」
「……あら、かくまってくれるの?」
「ご希望があらば」
ニドはすべてを知っていた。彼の仲間はどこにでも潜んでいる。敵意を持たず、気配もさせず、魔力さえ感じさせず、故に影響も及ぼさず、どこにでも潜り込める仲間がいる。
ニドにとって、どちらでもよかった。リゥパのこともそうだが、ムツキが負けて小さいままであろうと、レブテメスプが負けてどうなろうと彼の思い描くシナリオのAかBか、もしくはCか、それだけの違いであり、彼の引き込もうとしている結末への影響はない。
リゥパは思案顔で目の前の毒蛇を見る。彼女から見ても、ニドが手荒な真似をしないことは確実だった。ニドがそれをするだけのメリットを彼女自身が持ち合わせていないからだ。
つまり、本当にニドの気まぐれとも受け取れる。実際、ニドには数日程度ならかくまう場所に当てがある。もちろん、永遠に閉じ込めることも可能である。しかし、それをしようと思わないのはシナリオに影響があるからだ。今はその時でもないし、引き金が彼女でもない。
そのため、ニドは彼女が求めているだけを提供するというスタンスでいられる。
「少しだけ魅力的な提案ね。それはどこにかしら?」
毒蛇は無表情でチロチロと舌を出すだけだった。
「さて、それは難しいご質問をなさる。結論を申せば、それは教えられませんな。それを教えてしまえば、公然の秘密になってしまいますからな。私しか知らないからこそ意味がある。そして、別にそれを教えてまで助けて差し上げる義理もないですからな」
リゥパは笑う。ここまで敵でも味方でもないことを露骨に表現するニドに、ある種の清々しさえも彼女は感じた。ニドは中立であることを示し続け、それにより敵対心を和らげているとも敵対心を強めているともとれ、全妖精族からの厄介者にしては実に食えない存在である。
彼女は手を横にひらひらとさせる。
「なるほどね。いろいろと教えてくれてありがとう。だけど、じゃあ、無理ね。私、辛気臭い地下とかだったら、長く居られないもの。明るい場所でお茶とお菓子は出してもらえるなら喜んで受けるけどね」
「はっはっは……お茶とお菓子の用意は難しいですな。何せ、出入りできるのは毒蛇だけですからな……運ぶための手足はございませぬ……」
ニドはリゥパの話に、場所がどこかなどに答えもせずにただただ笑う。どこにあるかを零すことがないのはニドらしい緻密さを窺わせ、リゥパは小さく溜め息を吐く。
「ほんと……あんたって……」
「おっと……お静かに」
ニドは何かに気付き、リゥパに静かにするように伝える。無数の毒蛇を一定間隔に配置し、それらと感覚共有をしているニドは、どんな相手よりも実際の状況を広く詳細に知ることができる。
彼女が言われた通りに黙っていると、その数秒後に空から音もなく1つの影が現れた。
「…………」
「あーら、ニドかしら? お仲間の毒蛇がこそこそとせずにこんな見える位置にいるなんて珍しい。誰とお喋りしてるのかしらね? それとも、あーた、独り言が趣味だったかしら?」
リゥパとニドの話している場に現れたのは、白いフクロウの妖精にしてリゥパのパートナーともいえるルーヴァだった。
無音で空を飛び、影1つで現れる彼女は、リゥパを探して今の時間から飛び回っていた。
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