4-25. 諦めなかったから父親を超えられた
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その後も数百回と似たようなことが繰り返されていた。ナジュミネが動こうとし、ナジュ父が振るう閻羅蛮帝が彼女を容赦なく粉砕し、彼女が復活する。このサイクルが延々と繰り返されているのである。
しかし、この変わり映えのしなかった闘いも徐々にだが、確実に転機が訪れようとしている。
「ふんっ!」
「ぐっ……まだだっ!」
ナジュミネの動きが少しずつだが、ナジュ父に合わせて動けるようになってきており、いつしか1度くらいであれば躱せるようになってきていた。
その後も彼女が何度も死んでは生き返りを繰り返している内に、攻撃に転じられるようにもなってきていた。
それらは彼女の成長を如実に物語っている。
「ねえ……ムツキ……ナジュみん、動きが良くなってない?」
「たしかに……ナジュ、段々と生き延びている時間が長くなっている? それに閻羅蛮帝を受けた時のダメージも徐々に減っているな……。お義父さんに疲れが出ているわけでもないようだし、もしかして、ナジュが徐々に強くなっている?」
ユウとムツキの小さな驚きの横で、ナジュ母が少し嬉しそうにホッと胸を撫で下ろしていた。
「どうやら……ナジュはこの闘いの死からの復活でも鬼族の特性が発揮されているようね」
「鬼族の特性……。あ、たしか、瀕死から戻ると強くなっているんでしたね?」
ナジュ母は目がナジュ父とナジュミネの2人を追いつつもゆっくりと肯いた。
「そうよ。瀕死と養生ではなく、即死と即復活なので、どうなるのかと思ったけれど、同じように特性が働いているようね」
鬼族が恐れられているのは、元々の強さに加えて、その種族としての特性にある。
その特性とは【超回復】。
元々の超回復はどの種族も持つ「破壊された筋肉が回復する際に元よりも強い状態になること」である。しかし、鬼族の【超回復】はその特性に加えて、どのようなケガも大抵治ってしまうことと瀕死から戻ってきた場合にすべての能力が恒常的に上昇していることが追加されている。
「つまり、ナジュみんは……」
「お義父さんに確実に近付いている!」
ユウとムツキが喜んでいるが、ナジュ母もナジュ父も今までその特性を知っていても喜んではいられなかった。
何故なら、もちろん【超回復】により鬼族は強くなるのだが、それは個々によって上昇値はもちろんのこと、上限値が異なるためである。その上限値を、ナジュミネがナジュ父を超えられなかった場合、いくら死のうとも彼女が彼を超えることができないからだ。
「本当に……良かった……」
上限値の懸念が払拭された今、ナジュ父もナジュ母も、ナジュミネが父親を超えて勝利を収めることを確信できた。
「……ふふっ」
そして、その時は突如訪れる。
「む。掴まれたか」
今まで振り下ろされた閻羅蛮帝に為す術のなかったナジュミネが、ついに掴み止めることができるようになった。
「……ふはは……ふんっ!」
ナジュ父は驚きつつも軽快に笑い、その後、力を込めて閻羅蛮帝で押し切ろうとする。ナジュミネは受け止めていたが、その力に潰されまいとして手を離し、後ろへと後ずさる。
「にゃー!」
「わん!」
「ぷぅ!」
誰しもがこれから良い勝負が始まると思っていた。モフモフ応援団も先ほどからようやくいろいろなダンスを密かに披露しているところである。
しかし、決着は意外な形で着くことになった。
「むむ……」
「なっ……閻羅蛮帝が……妾の手に?」
ナジュ父の握りしめていた閻羅蛮帝が突如光を放って、彼の手から消えると、そのまま光がナジュミネの手元に移り、ゆっくりとその姿を顕現し始めたのだ。
その姿は、ナジュ父が持っていた時の武骨な無数の鋲が散りばめられた金砕棒とは異なり、細身ながら決して折れることのない力強さを感じさせ、まるで炎のように常に光を発して揺らめき、鍔を持っていることから剣のようにも見える棒だった。
「そうか……いよいよ、ナジュがワシを超えたと認められたか」
正確にはまだ、ナジュ父をナジュミネが超えたとは言い難い。しかし、閻羅蛮帝は彼女の素質も含めて、鬼族最強を名乗ることを認めたといえる。
「閻羅蛮帝がナジュに合わせて……あれは……焔の剣?」
ムツキが焔の剣と見間違えるほどに美しく揺らめいていた。
ナジュミネとナジュ父が動きを止め、お互いを見つめ合う。今まで死闘を繰り広げていた2人とは思えないほどに穏やかに落ち着きを払った様子である。
そのような2人の一挙手一投足が注目されていた。
「お父さん……最後まで付き合ってくれてありがとう……」
「子どもの成長を願わぬ親などいない」
「うん……」
「よくやった。強くなったことも嬉しいが、お前の諦めない気高き不撓不屈の心が父親として何よりも誇らしい。その心がある限り、閻羅蛮帝は持ち主を変えぬだろう」
ナジュミネは小さく笑う。ナジュ父が不思議そうな表情をする。
「なんだか、今日は私にもよく喋ってくれるね? 旦那様ばっかりだと思ったのに」
「む。鬼族は拳によって、心で語るものだ」
「そうだね。ありがとう」
「さて、では終わろう。ワシは降参などせぬ……思い切りやってみるがいい」
閻羅蛮帝が認めた新しい鬼族最強のナジュミネだが、いまだに禍々しいオーラを放ちつつ立ちはだかっている父親に畏怖と敬意を払う。
「うん! ……はあああああああああああああっ!」
ナジュミネの意志に呼応し、閻羅蛮帝が自身の揺らめきを速く大きくしていく。彼女は防御の構えも取らないナジュ父に向かって、思い切り斜めから振り下ろしの攻撃をした。
彼は一撃を受け、片膝をつき、やがて、小さく微笑みながら一度消え去り、再び現れた時にはいつもの憮然とした表情で仁王立ちをしていた。ただし、彼の目じりにはうっすらと涙が浮かんでいる。
「この試合、ナジュみんパッパの身代わり人形が1回死を身代わりしたため、勝者ナジュみん!」
ユウの宣言とともに、神前試合はナジュミネの勝利で幕を閉じた。実に丸一日、陽が昇り沈むまでに彼女が幾度も死んで復活するという壮絶な死闘であった。
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