4-24. しきたりだから本気でぶつかった(3/3)
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ナジュ父もナジュ母もナジュミネの消滅に驚き、呼吸が止まり、心臓までも止まりそうになる。その後すぐに、身代わり人形が光り、ある場所でナジュミネの散らばったすべてが1つに集まったことに気付いて、2人の止まっていた息が安堵とともに吐き出された。
モフモフ応援団は、あまりのことに応援など忘れてしまい、ぼんやりと最初のポーズを決めたまま動けずに立ち尽くしている。
「婿殿を信じていないわけではないが、これは心臓に悪い……」
「身代わり人形が代わりにダメージを受けてくれるのだと思ったのだけど、そうではないのね?」
ムツキはナジュ母の問いにゆっくりと頷き、ナジュミネと身代わり人形の両方を指す。
「はい。あくまでナジュが1度受けた被害を身代わり人形によって、後から補填するという感じです。なので、死なないというよりは、何度も生き返っているという感じです」
ナジュミネが片膝をついた状態で復活する。彼女に残っていたのは痛みや苦しみではなく、恐怖だった。一瞬のできごとに痛みを感じることがなく、苦しむこともなかったために、その前までに味わった恐怖がフル回転の脳の中で駆け巡る。
「はあ……はあ……これが死の感覚か……そして、生き返る感覚も……これは訳が分からなくなりそうだ……しかし、走馬灯を見る余裕さえなかったな……」
ムツキがナジュミネの様子に心配が募るも、彼自身は彼女が死なないために身代わり人形の魔力を切らさないことに集中せざるを得ない。
「……ナジュは今の一撃で正直30回分くらい死んでいるダメージだな……一撃が良くて瀕死? そんなことありえない……これじゃ、かなり手加減しても即死だ……」
「……ぐっ」
ナジュミネは恐怖に全身を震わすも顔だけをしっかりとナジュ父の方に向け、闘う意思があることを示している。彼は続行するかどうかを問おうとしていたが、彼女の強い眼差しを受け、愚問になると理解して別の言葉をすぐに用意した。
「遅い!」
また反応できない速度で襲い来る閻羅蛮帝に、ナジュミネは為す術もなく片膝をついたままで散り散りになる。ナジュ父に手加減がないことは誰の目からもはっきりと映っていた。
手加減がないどころか、容赦すらなかった。
「…………ぐっ!」
「そんな! 立ち上がる前に!?」
ナジュ父は閻羅蛮帝を振り回す。本来は敵の血を振り払う動作のようだが、神前試合で完全消滅の上で完全復活するためか、彼の得物に血の付いた様子がない。
「婿殿……これは死闘だ……死闘に相手が立つまで待つことなどあろうか?」
ナジュ父が閻羅蛮帝を肩に乗せ、ゆっくりと次の攻撃に向けて構える。ナジュミネの復活が始めり、やがて、終わりを迎える。
「うっ……はっ!」
「避けられた、と思ったか!」
ナジュミネが気付いて咄嗟に後ろに飛びのく。しかし、その回避行動がナジュ父には容易に想像できたのか閻羅蛮帝が延伸し、その軌道にあるものすべてを薙ぎ倒していかんばかりの勢いで振られる。
「なっ!」
またもやナジュミネは消滅する。ムツキは身代わり人形に魔力を供給し続けているので、彼女が受けるナジュ父からのダメージ量が把握できていた。
「すごい勢いでナジュの死の回数が増えている……」
「……【ウォール】!」
「ふんっ!」
次に復活した瞬間にナジュミネが【ウォール】を唱えるも、【ウォール】は閻羅蛮帝を食い止めることも軌道を変えることもできずにまるで存在していなかったように素通りで破壊される。
そのまま彼女も散った。もちろん復活するが、見ていて気持ちの良いものでは決してない。
「ううっ……ナジュみん……見てらんないよ……」
「…………」
「お義母さん、大丈夫ですか」
「……ええ、ありがとう、大丈夫よ。私は見ているだけですから」
第三者のユウでさえこの状況は見ていたくない。その状況をナジュ母は綺麗な居住まいでじっとしながら、ただ口をぎゅっと結んで2人を見つめている。
「お義母さん……辛かったら離れていても……」
「お気遣いありがとうね。ムツキさんが優しい方で本当に嬉しいわ。でもね、2人が頑張っているのに、私だけこの場から離れるわけにはいきませんよ」
ナジュ母のただただ真っ直ぐに、うな垂れることなく2人を見つめる視線は何を思っているのか、ほかの誰にも想像することができなかった。
「このっ!」
「攻撃のつもりかっ!」
初めてナジュミネが拳を前に繰り出す。しかし、ただただ突き出しただけの拳が当たるような相手ではなく、躱されることすらされずに閻羅蛮帝が迎え撃って終わる。
「ファ」
「咄嗟の拳すら間に合わぬのに、攻撃魔法など出せるはずもあるまい」
ナジュミネが【ファイア】を唱え終わるよりも早く、ナジュ父が閻羅蛮帝を彼女に振り下ろせてしまう。彼は油断も驕りもしない。ただひたすら向かってくる愛娘をしきたりの通り、本気で相手している。
「…………」
彼も流せるなら涙も流すだろう。しかし、このしきたりを受けると決めた際、彼が流す涙は娘が自分を超えた時の嬉し涙と心に誓ったのだ。決して悲しみや憂いでは一粒たりとも流さないと決めていた。
「まだだ!」
「意気込みだけは十分だな」
ナジュミネはニヤリと笑う。
「妾は、何度負けようが、何度死のうが、最後に勝つと決めたのだ」
「……良かろう! ならば、最後まで心ゆくまで付き合おうぞ」
ナジュミネの不撓不屈の眼差しがナジュ父の心を高鳴らせた。
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