4-23. しきたりだから本気でぶつかった(2/3)
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楽しんでもらえますと幸いです。
ユウやムツキが神前試合の形式を取ったのには理由がいくつかあるが、最も重要なのは身代わり人形を万全に使える2つの条件が成立するからである。
1つは、創世神であるユウが付与させられる恩恵を十分に発揮するには誓いを立ててもらう必要があった。
もう1つは、神前試合の空間の中でならムツキがユウの補助役を務められるからだ。
つまり、2人の力を合わせることでようやく身代わり人形が完全無欠になるのである。もしレブテメスプが発明すれば、もう少し効率良く簡略化したものが作れるだろう。それほどまでに彼の局所的な創造の能力は凄まじい。
「…………」
「…………」
既に神前試合が始まっているものの、ナジュ父もナジュミネも動く気配を見せなかった。ナジュミネは隙を窺っており、ナジュ父は彼女がどう動くかを窺っている。
「動けぬか……」
やがて、ナジュ父がそう呟いてから動き始める。
「……はあああああああああああああっ!」
ナジュ父が大きく息を吸い込んだ後に、気を高めるためか、集中力を上げるためか、はたまたその両方か、声をあげながら息を吐き出していった。すると、彼の全身の筋肉が目に見えて大きくなり始め、全身が禍々しいオーラを纏い始める。
「っ……」
ナジュミネはある種の恐怖を覚えた。彼女は思わず息を呑み、父親の姿を警戒しながら見つめている。
「寝ているのか? いつまで呆けているつもりだ……」
ナジュ父の声がいつもより低くなり、周りに重く響き渡る。彼の言葉の1つ1つが発せられるだけで、ナジュミネには何らかの攻撃を受けているのかと錯覚するくらいに重く冷たい殺気が全身に浴びせられていた。
「……まだ来ぬか? では、ワシの準備はじきに整うぞ……来い、閻羅蛮帝」
「…………」
「えんらばんてい?」
ナジュ母がピクリと反応し、ムツキが思わず聞いたことのない名前を復唱する。
ナジュ父が「閻羅蛮帝」の名を口にすると、彼の足元の地面が小さく裂けて、そこから物干し竿のような棒が現れる。彼がそのまま閻羅蛮帝を手に取ると、細長い棒だった閻羅蛮帝は、太く、ちょうど良い長さの金砕棒へと変貌を遂げた。
「何か如意棒みたいなものが出て、変形した!?」
「私が知らない武器なんだけど、あの武器からものすごい圧を感じるよ……」
ムツキもユウも驚きを隠せない。
「はっ……はあ……はあ……っ……」
ナジュミネの呼吸が浅く早くなる。彼女は普段でも父親に勝てる気などしなかった。そこから、全身に禍々しいオーラと肥大した筋肉を纏った姿になり、正直絶望も混じらせていた。
しかし、それに留まらず、彼女が見たことさえない武器を手にし、さらに父親の強さが何倍ではきかないほどに膨れ上がったのだ。この状況下で心が折れないだけ、彼女の試練への覚悟は本物だと十分に証明されているようなものだった。
「ふむ……」
ナジュ父が閻羅蛮帝を久々に触ったような仕草や表情で、ゆっくりと手に馴染ませていく。彼はどこか懐かしむような表情でもあり、どこか緊張した様子でもあった。
「なるほど、鬼の金棒か……強すぎる。差がさらに開いた」
鬼に金棒。ムツキが前の世界で知る言葉の1つであり、この世界にも伝説の言葉として同じく存在する。ただし、この世界では、それを見た者は生き残れないという意味だった。
「これは閻羅蛮帝だ。最強の鬼と謳われた者たちによって脈々と引き継がれる武器にして誇りだ。ナジュが勝ったら、これもくれてやろう」
ナジュ父がナジュミネに渡した時のことを思って笑うが、その禍々しいオーラもあって、誰もがとても一緒に笑えるようなものではなかった。
一方のナジュミネは顔を強張らせながら震えている。足が少しすくんでいるのか動けない。しかし、退くこともまたまったくしていない。
「……動けぬか? いずれにしても退かぬか……では、ワシからいくぞ」
「っ!」
ただただ刹那のことだった。
ナジュミネがナジュ父の言葉を聞いて息を呑む一瞬、わずかその一瞬の間に、彼は彼女の目の前に大きな壁のように立ちはだかる。
次に、彼の右手に握られた閻羅蛮帝が斜めから振り下ろされた。
一方の彼女は、すべてがスローモーションのように見えた。目では追えているつもりで、実際に彼女は目だけなら動きを少し追えていた。
だが、残りの全てが追い付かず、故に動くこともままならず、そのまま閻羅蛮帝が自身に襲い掛かるのを一部始終見逃せずに眺めていた。
「喝っ!」
「…………」
こうして、ナジュミネは言葉を発する間も与えられず、彼女と閻羅蛮帝が触れた途端に凄まじい力が彼女に叩きこまれ、彼女の身体がまるで爆発に巻き込まれてしまったかのように粉々に散らばった。
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