4-19. 最初から割と詰みな内容だった
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキはピンク色の半袖ワイシャツの上に黒のベストと紺色のハーフパンツを着ていた。さらにはナジュミネの要望により、髪型もいつもの前髪を下ろした感じではなく、少しツンツンした感じに整えられており、すっかりナジュミネの好み一色に染まっていた。
「旦那様……んふふ……いつも素敵だが、今はもっと素敵でかっこいいぞ」
「そうかな? 半ズボンなんて、ちょっと子どもっぽいけど、喜んでくれてよかった」
ナジュミネはムツキを膝の上に乗せた状態でまたソファに座っていた。彼女はとても嬉しそうにしており、彼もいつも以上にの笑顔を見せる彼女につられて笑顔になる。
その2人から少し離れた所で他の女の子たちがひそひそと話し始める。
「ナジュミネって結構やんちゃな感じのスタイルが好きなのね?」
リゥパがムツキの髪形を見つめている。
「やんちゃというか、少し強引な雰囲気の方が好きなのでしょうか?」
「うーん。姐さんは鬼族だからね。鬼族は亭主関白な世帯が多いんじゃなかったっけ?」
サラフェやメイリがリゥパの話に合わせて、それとなく話を広げる。
「亭主関白……に憧れている割に、ムツキの意見を率先して却下しているのはいつもナジュみんだよね?」
「そういうのも跳ね返すくらいの亭主関白さが欲しいのかもしれないな?」
「そういうものかしら……亭主関白なムッちゃんって……」
ユウとコイハが会話に混ざると、最終的にナジュミネは強引にされたい女子認定された。その認定をされた彼女は、小さく咳払いをしてからジト目で見つめる。
「そこ……妾の分析をしていないで、試練くんを分析してくれないか? 一緒に試練くんがどうしたら、試練を出すようになるか、考えてくれ」
「そうだよな。あれから数時間経って、もう昼になろうしているけど、いまだに座禅を組んでいる状態だからな……何かしてみるか?」
ムツキの言葉の後、口々に提案が飛び出る。
「押してみる?」
「逆さづりにしてみる?」
「引いてみる?」
「揺らしてみる?」
「振ってみる?」
「壊してみる?」
「今、2人くらい、さらっと恐ろしいことを言ったぞ……」
その言葉に反応したわけでは決してないが、試練くんが何かを閃いたように目を見開いて立ち上がり、最初に登場した時と同様にいろいろなポーズを決め始めた。
「あ、なんか動き始めたよ?」
「コレカラ、シレンヲ、アタエルゾイ」
試練くんの急な機械音での発声にムツキが目を輝かせた。
「おー! 喋った! 少しメカチックな喋り方だ! どうなっているのだろう」
キルバギリーの方が明らかに高性能であり誰もが気になるものと思われるが、少しばかりチープな試練くんの方がムツキの好奇心をそそるようだった。
「ムッちゃんが急に目をキラキラさせたわね……かわいいから直視できない!」
「人族の男の子は凝ったモノが好きですからね……あの顔は反則ですね……」
リゥパとサラフェがそっと顔をムツキから逸らす。ナジュミネは自分からと言われていたのでこの時を一番緊張して待ち構えており、聞き耳を立てていた。
「しっ! 皆、静かに!」
「コンカイノ、シレンハ、アカイカミノオンナガ、ウケルゾイ! シレンハ、コレゾイ!」
試練くんの口が開き、その口から出てきたとは思えないほどの大きさの巻物状の何かが現れる。
「急に試練くんの口から巻物みたいなものが出てきたぞ」
「……よし、妾が開こう」
ナジュミネは自分に降りかかる試練に胸を高鳴らせていた。彼女は高みに上ることを本望としている。つまり、経緯はともあれ、試練を受け、それを乗り越えたいと常々思っていたのだ。
「…………」
ナジュミネは試練の内容に絶句する。周りに共有することさえ忘れて、彼女はただ一人、与えられた試練に身体をこわばらせていた。周りもその雰囲気に呑まれ、しばらく、彼女の動きを見つめていた。
「……ナジュ?」
「…………」
その沈黙をムツキが破ろうとするも、ナジュミネは首を小さく横に振るばかりである。
「……なんて書いてあるんだ?」
「……旦那様……この試練……一朝一夕では無理かもしれん。数年、いや、一生かけても分からない……」
「えっ! そんな! どんな内容だ!」
「……これだ」
そこには大きく『父親を闘いで超えろ!』と記されていた。今もなお、鬼族最強であるナジュミネの父親、ナジュ父は彼女が易々と勝てる相手ではない。
過去に2人と闘ったことのあるムツキの見立てでは、正直な話、絶望的な力量差だった。
「……まずはお義父さんに相談してみよう」
しかし、諦めるわけにもいかないムツキは、ナジュミネ、ユウとともにナジュミネの故郷、鬼族の村へと早速足を運ぶのであった。
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