4-12. できる人が限られているからすぐに誰のしわざか分かった (3/3)
約2,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ナジュミネはムツキをひょいと持ち上げて、向かい合わせになるようにしてから改めて抱き着いた。
「旦那様……ありがとう……大好きだっ!」
「むぐっ……ナジュ……そのだっこは強いと息苦しい……」
ムツキはナジュミネの身体に押し付けられるように抱き締められたので、少し息がしづらくなる。
「ムツキさんは優しいというか、お人よしですよね……」
「僕がダーリンをだっこできるのはいつになるのかな……」
「ぷはっ……これじゃあ、どうしてこうなったのかとか、これからどうするかの話し合いができないじゃないか……」
サラフェやメイリがぼやいているのを聞いて、ムツキはナジュミネから少し身体を離すようにしてなんとか話し始める。
「ん? もう何となく分かっているよ? 原因も解決方法もね」
「ユウ、本当か!? ナジュミネ、さっきのだっこの仕方に戻してくれ!」
「残念だが、承知した」
ユウの言葉にムツキは嬉しそうに反応して、ナジュミネをなんとか説得して元の状態に戻った。
「ね? キルちゃん?」
「えぇ……そうですね。おそらく、それが一番可能性の高い推測だと思います」
「えっ。ユウだけじゃなくて、キルバギリーも分かるのか?」
「そうだと思うよ」
「そうですね」
「なんだよ……それ……」
ムツキは少し除け者にされたような気持ちになり、悔しさや悲しさ、恐怖が込み上げてくる。彼がその感情に気付いた時に気持ちを抑えようとしたが、制御し切れずにうっすらと涙を浮かべつつ、モヤモヤと怒りが止めどなく噴き出していた。
「なんだよ! 分かっているなら、もったいぶらずに言ってくれよ! それとも、俺が元に戻らなくてもいいって言うのか!」
ムツキの感情の発露は、部屋全体に掛かる強烈な威圧となって女の子たちに重く圧し掛かってきた。戦闘力の低いコイハやメイリ、かつて対峙して味わった恐怖を思い出してしまったサラフェは、足が竦んで腰が砕けている。ナジュミネは彼がこれ以上興奮しないように頭を軽く撫でていた。リゥパもまた、彼に寄り添うように膝立ちで彼の頬を優しく撫でる。
「うっ……旦那様……大丈夫だぞ……そんなことは誰もしない」
「そうよ、ムッちゃん……みんな、ムッちゃんの味方に決まっているじゃない」
「ムツキさん……怖い……でも……ムツキさんも怖いんですよね? 大丈夫ですから」
「っ……落ち着いてください、マスター。みんな、マスターとともに在ります」
「……ハビー、ほら、モフモフだぞ。落ち着いてくれ」
「……僕のモフモフもあるよ? だから、怒っちゃダメだよ?」
「ムツキ、お願いだから落ち着いて……。確認方法があるから、待ってほしいの」
やがて、女の子全員がムツキに寄り添うようにすると、彼は気持ちが落ち着いてきたのか、威圧することをやめられた。
彼は顔を合わせづらいのか、そのままシュンとした様子で自分からナジュミネの方を向いて顔を彼女の身体にうずめながら謝り始める。
「そ、そうか……ごめん……なんか子どもだと、上手く感情の調整ができなくて……中身は変わらないはずなんだけどな」
「身体が子どもになって、精神がギャップを持たないように身体に合わせて逆行しているのかも。だから、そんな悲しそうな顔をしないで。ムツキのせいじゃないよ」
「本当にきゃっきゃっと喜んでばかりもいられないわね……ユウ様がムッちゃんを大人になるまで神の住む領域とやらで特訓していた理由を分かった気がするわ……」
ムツキは赤ん坊の頃から17歳を迎える3年前まで、ユウと2人きりで神の住む領域というこの世界と少し異なる次元の狭間に住んでいた。
それは彼の身体を異世界に馴染ませるためという理由もあったが、主には彼に付与し過ぎた最強の力の制御やそれに伴う副作用とも呼ぶべき呪いへの対処法などについて、2人で経験を積み上げるためでもあった。
彼の年齢が逆行したことで、経験は残っているものの、年齢的な部分で少し不安定になっているようだ。もし、彼が制御不能に陥ると、この世界は彼の力によって崩壊してもおかしくないのである。
「ユウ様! アニミダックを連れてきたニャ!」
「にゃー」
「ばう」
「ぷぅ」
「ケトちん、ありがとう!」
少し沈痛な雰囲気になっているところに、元気よくケットと妖精たちがやってきたことで場が急に和んでくる。ムツキの気持ちがモフモフで幸せ状態になっていた。
モフモフは偉大である。
「よぉ、ムツキ。事情は少し聞いたぜ。すっかり小さくなっちまったな」
「アニミ! まさか、アニミが!?」
アニミダックは今まで掃除をしていたのか、三角頭巾に作業服を身に着け、モップとバケツを持ったまま現れた。
「あぁ? 俺を疑ってんのか? あのなあ、そんな器用なマネできるわけねぇだろ。できるんだったら、お前を倒そうとしたときにとっくにしてる」
「そうか……そうだよな」
「……その同意のされ方も腹が立つけどな……」
アニミダックも子ども相手に凄むことはせず、小さく悪態を吐く程度で収まった。
「じゃあ、アニミダック、よろしくね」
「任せろ! ユースアウィスの頼みならいくらでも!」
アニミダックが笑顔でユウに応じる。彼の彼女への愛情は崇拝に近いものがある。
「さて、いるんだろ? …………、…………、レブテメスプ……やっぱりな」
「どういうことだ?」
アニミダックが口を動かすと、途中で声が出なくなり、再び声が出てきた時に人族の始祖の1人、レブテメスプの名前を呼んだ。
ムツキが首を傾げると、アニミダックが説明を始める。
「ユースアウィスが俺たち4人、近くにいないと名前を呼べないようにしたんだよ」
「それは何でだ?」
「全員が、ついユースアウィスに他の3人の文句を陰口のように言うから、ユースアウィスが悪口なら面と向かってきちんと言いなさいってことで、近くにいないと名前もそいつの悪口も言えないようにしたんだよ……」
「なんてピンポイントなサーチ方法なんだ……って、レブテメスプって、たしか……」
ムツキが少し呆れた後、その聞き覚えのある名前からキルバギリーの方を向いた。
「はい、人族の始祖の1人であり、私の創造主です」
「ふっふっふ……バレてしまっては仕方ないなあ」
突如、部屋の中で少し残響のある声が響き渡った。
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