4-9. 目立った変化だったからすぐに気付いた (2/2)
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ムツキが難しそうな顔をしている横で、ナジュミネが少し俯き加減に自分自身を抱き締めていた。彼は彼女の様子の変化に気付いていない。
「うーん……みんなの知恵を借りるか……案外メイリとかが分かったりしてな」
「はぁっ……はぁっ……んうっ……旦那様……」
「え、えっと……ナジュ……ど、どうした?」
少し息の荒いナジュミネを見て、ムツキは少し身の危険を感じる。
「……何故だろう……うっ……妾は何故、今の旦那様に、その……んっ……」
しばらくして、ナジュミネの顔がまるで彼女の髪のように真っ赤になって、ぽーっと恍惚とした表情でムツキを眺め始める。彼女の葛藤が彼へと伸びる手に垣間見えるが、その葛藤も破れようとしていた。
「あ! まずい……そういえば、この頃の俺、友好度上昇とかの能力の制御が上手くできないんだった! ま、まさか……ナジュ、今の俺に……。ナジュ、や、やめてくれ! 今の姿だと……非常にまずい!」
子どもは1人で生きていけない。赤ん坊ならなおさらである。だからこそ、幼少の頃はそもそも多くの人に心理的に好かれやすい仕草や行動、表情に自然となりやすい。
ムツキはその好かれやすい状態に加えて、大人状態でも発揮されている友好度上昇というスキルがある。子どもの頃は自分で数々のスキルを制御できないこともあって、この友好度上昇がより高いレベルになっていた。
ここで問題は、ナジュミネの場合に彼の妻ということもあって、子どもへの母性的な愛情や養育欲求のほかに、パートナーとしての男女的な愛情も増幅されているということだ。
つまり、彼女の愛情が暴走しているのである。
「むぅ……無理だ……理性が働かん! 抗えない……許してくれ、旦那様!」
「ま、待て……落ち着くんだ、ナジュ……」
ナジュミネは17歳、一方のムツキは本来20歳だが、現在の姿は10歳程度に若返っている。そのため、このまま彼女の愛情が暴走すると、絵面が非常にまずいことになるのだ。しかし、彼の友好度上昇は彼女の愛情を常に刺激して増大させている。
「……ふふっ……逃がさぬぞ……さあ、ちっちゃい旦那様……ナジュミネお姉ちゃんといいことをしようね? さっき1回触っただろう? なら2回も3回も同じではないか」
ムツキはナジュミネに捕まらないように全神経を集中させている。
「ちょっと待て! さっきはお互いに知らなかったからだろ! それに見えてなかった!」
「見えなければよいのか? では、布団の中で……」
ムツキは先ほどのことを理由になし崩しに陥ってしまうことを避けるためにナジュミネの説得を試みるが、彼女が屁理屈のような解釈をして彼に迫ってくる。
「違う! 違うから! そうじゃない! ちょ、ちょっと……ま、まずい! 敵意がないからナジュが触れるのを回避できない!」
ナジュミネに捕まれたところでムツキが本気を出せば、彼は彼女の手を振り払って逃げ出すことも簡単にできる。しかし、それは同時に自分の力を上手く制御できない彼が彼女を傷付けてしまう可能性もある。
そのため、彼は捕まってしまうと為す術がなくなってしまう。
「ふふっ……捕まえた……大丈夫だ、お姉ちゃんが優しくしてあげるから……」
ナジュミネに押し倒されてしまい、為す術のなくなってきたムツキは賭けに出る。
「ユウ! 寝てないで助けてくれ! 絵面が……絵面が非常にまずいことになるーっ! ユウウウウウウウッ!」
ムツキのベッドでまだ寝ているユウを起こし始める。彼女は彼の呼びかけには必ず応じる。ただし、寝起きは機嫌が良い時と悪い時があり、悪い時はこの状況がさらに悪化することになる。
しかし、彼にはこれ以外の手段が考えられなかった。ナジュミネの手が彼と布の間に滑り込んでこないように身を必死によじったり手を抑えたりしている。
「ふわぁ……ムツキ、どうしたの? え、ムツキ、ちっちゃくなってる!? すごーい、どうしたの、それ? すごい懐かしいなー。この頃はね……」
ムツキは賭けに勝った。ユウの機嫌が良いので、今なら彼の言うことをきちんと聞いてくれる。
そのはずだった。
「言っている場合か! 助けてくれ!」
「えー、ムツキがナジュみんに嫌いって言えば、すぐに収まると思うよ? ナジュみん、ムツキに嫌われたくないだろうし」
ユウがそう提案するもムツキは間髪入れずに首を横に振った。
「ナジュのことを嫌いでもないのに、好きなのに、嫌いなんて嘘でも言えない! それに、自分の身や考えを守るためだけに誰かを傷付けることなんて言えない!」
「妾のことが好きなら、ね? いいことしよ?」
「うーん。というか、私も今のムツキと久々にしたいかもー。2人がかりにムツキは勝てるのかな?」
ユウが意地悪な笑みを浮かべる。彼女の心変わりによって、状況が悪化しかける。ムツキは恥ずかしさを押し殺して、大人じゃできない奥の手を出す。
「うっ……ううっ……こんなに頼んでるのに……ううっ……」
子どもの必殺技、泣き落としである。
ムツキは涙を振り絞って流し始める。感情の制御も上手くできないため、一度泣き始めると、ぼろぼろと涙が零れ落ちていく。
「あー! ご、ごめん! 冗談! 冗談だよ!? そう、冗談なの! 私、そんなムツキが泣くようなことしないから! ね? 分かったから泣かないで! あーん、泣いちゃダメー!」
「だ、旦那様……」
ムツキの涙の威力は絶大だった。ユウがナジュミネを止めようとするのはもちろんのこと、ナジュミネも彼の涙によって理性を取り戻し始めていたのだ。
ただし、ナジュミネに一度掛かってしまった高レベルの友好度上昇はしばらく解けない。彼女は暴走しないものの、着替え終わった後の彼を離そうとしなかった。
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