4-8. 目立った変化だったからすぐに気付いた (1/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
とある朝。
ムツキの部屋のベッドには、ナジュミネと成人姿のユウが布団から顔を出しながらすやすやと眠っていた。このとき、部屋の主であるムツキの姿は見えないが、彼女たちの間に布団にもう1つ膨らみがある。
彼は1人で寝ることのできない呪いを持っていることもあって、ハーレムの女の子と順番に寝るほか、モフモフたちとの寝る日も設けている。むしろ、モフモフを優先しがちな彼に女の子たちは文句を言っていることもしばしばである。
「ん……旦那様……まだ寝ているのか……」
やがて、始めにナジュミネが目を覚ました。早朝訓練を欠かさない彼女が大概一番に起きるのだ。彼女は昨夜の流れから裸のままだったため、布団の中に紛れていた下着を手繰り寄せてから、布団の中で手足をもぞもぞとして着始める。
「……ふふっ」
下着を着終えたナジュミネは少しイタズラ心が芽生えたようで、昨夜の続きをねだるかのように布団の膨らみをまさぐり始めた。
その内に彼女は何かを見つけ当てたが、ほどなくして違和感を覚える。
「……ん? ん-? なんだ? なんか、今日は……やけに小さいような……」
ナジュミネがそれでも触り続けていたので、ムツキが布団から出てこないものの目を覚まして彼女に話しかける。
「うーん……おはよう……ナジュ……朝からか?」
「あ、おはよう、旦那様。ふふっ……いいじゃないか」
ナジュミネは手を離して、ムツキの頭をそっと抱き締める。
「ん? 旦那様、ちょっと頭が小さいような……」
「ん? ナジュ、ちょっと胸が大きくなったか?」
ナジュミネはその違和感を抱きつつも手を握りたくなって、ムツキの手を探し当てて握りしめる。
「ん? 旦那様、ちょっと手が小さいような……」
「ん? ナジュ、ちょっと手が大きくなったか?」
ナジュミネは違和感がどんどんと大きくなっていく。
「あと、声がいつもと違うぞ……」
「俺もちょっとなんか変って思ってきたぞ……」
ムツキはナジュミネからいったん離れ、上半身を起こして布団から顔を出す。
「ナジュ、俺……なんかおかしいか? いや、え、ええええっ! なんだこれ、俺、こんな……ええっ!? 」
ムツキは自分の手の小ささに驚き、ペタペタと自分の顔や髪の毛を触る。弾力のある肌、柔らかい髪の毛、いずれも大人らしさよりも子供らしさのあるものだった。
続いて、ナジュミネが彼を見て驚きの声をあげる。
「だ、旦那様が……小さくなっている!」
ムツキは10歳くらいの男の子になっていた。この見た目では、童顔で子どもっぽく見えてしまうサラフェやメイリよりも幼く見える。
「はっ! これは! えっと、なんだっけ……そうだ! 見た……あー、いや、こほん、身体は子ども、頭……は露骨か……、こほん、心は大人、必要なお世話は老人レベル! その名は、転生者ムツキ!」
前の世界での有名なフレーズを、ムツキはオマージュした上に自虐も入れてボケてみた。しかし、ナジュミネに元ネタが分かるわけもなく、さらに、この状況で彼女は彼のボケに笑みを浮かべる余裕もなかった。
「そんな唐突に訳の分からない自己紹介を言っている場合ではないぞ!」
しばらくして、ムツキが落ち着き始めたのか、小さく溜め息を吐き始めた。彼は焦りから、現状を笑いに変えたかったようだ。しかし、冗談ではない状況にうなだれる。
「だよな……だけど、これはどういうことだ? ユウじゃないんだから、急に幼い姿になることなんてあり得ないだろ? さすがの俺でも、変身や肉体の変化ができないんだ」
ムツキがうなだれたまま黙ってしまったため、ナジュミネが原因を考え始める。
「あ、メイリのイタズラか?」
「いや、メイリと俺の魔力差だと、俺がどうなっていても、メイリの【変化の術】は俺に効かないんだ……」
黒狸族のメイリは【変化の術】という種族固有の魔法を使える。これは相手をかく乱させるのに便利な魔法だが、自分以外を対象に魔法を掛けようとした場合、相手の魔力が大きすぎるとそれが抵抗力となって【変化の術】が効かないのである。
もちろん、相手が【変化の術】を許可したり、抵抗力が低い状態だったりすれば、彼女の【変化の術】も効かせられる。
しかし、ムツキ相手では、仮に許可をしても効かせられず、眠っているような抵抗力の低い状態でも彼と彼女ほどの魔力差だと効かせられないのだ。
「だとすると、この場では解決に至らないな……ほら、とりあえず、布を巻いて……」
ナジュミネはムツキの履いていた下着がぶかぶかで脱げてしまいそうなのに気付いて、ベッドから抜け出た後に布を持ってきて、彼の身体に巻き付ける。
それはまるで古代ギリシャの人々の服装のようだった。
「ありがとう……やっぱり頼れるのはナジュだな」
「っ……」
ムツキはナジュミネが真摯に寄り添ってくれることが嬉しくて、無邪気な笑顔で彼女を見る。
すると、彼女の心が大きく揺れた。
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