4-7. 娘が心配だったから遠路はるばるやってきた(5/5)
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楽しんでもらえますと幸いです。
サラフェが二人に近付いていく。珍しくフリル付きの青色のワンピースを着た彼女はまるで水の妖精のようだった。
「サラフェ!」
「サラフェ!」
「お父様……どうして、ここまで来たのですか?」
サラフェはムツキとサラパパの間に割って入るようにしてから、サラパパの方を向いて優しい声で話しかける。
「あれがサラフェの父親か。優しそうな紳士という感じがするな」
「髪の色は似ているわね」
「でもパパさん、サラフェと違って、身長も高くて、大人っぽいよね」
「メイリ、焚きつけるようなこと言うなよ……聞こえたらどうするんだ……」
ナジュミネ、リゥパ、コイハ、メイリがぼそぼそと呟く。
「サラフェが心配だからに決まっている。いつの間にか、水の勇者を辞めていることに気付いた。何をしているかと思って調べさせてみれば、世界樹の樹海という人族として重要な攻略拠点で偏屈魔王や妖精族と暮らしていると分かったのだ。サラフェ、私は心配なのだ。サラフェがこのような場所にいて、危険な目に遭ってないか、これから遭わないのかと不安で仕方ないのだ……」
サラパパは立ち上がり、サラフェを真っ直ぐに見つめる。彼女もまた見つめ返す。
彼からは彼女を少しでも笑わせようとするいつもの少しふざけた雰囲気がなく、父親として心の底から心配して悩ましく困ったという感情が見えており、それを隠そうとしなかった。
「お父様……ふう……サラフェは……ムツキさんと添い遂げると自身に誓いました」
サラフェは深呼吸を1度した後、少し頬が赤くなるような感覚になりつつも、観念したかのように静かにその言葉を口にする。
その場にいた全員がそれぞれ驚きの表情をしていた。
「なっ……ぐっ……娘の口から直接聞くとすごく辛い……ううううううっ……」
サラパパは心臓を両手で押さえながら、涙が帯状に見えるほどに号泣する。
「お父様が……いえ、パパがサラフェのことを愛してくださっていることは承知しております。だからこそ、サラフェは愛することの大切さを知り、ムツキさんを愛していることに気付けたのです。ムツキさんはたしかにハーレムを作るような男ですが、サラフェのことも一人の女性としてきちんと愛することができる人です」
サラフェは静かに、しかし、力強くサラパパを説得しようとする。そこには、いつもの少し気だるげだったり、少し距離を置こうとしたりするような雰囲気がない。
「サラフェ……」
「きちんと帰省するべきときには帰省します。もちろん、今生の別れではありません。どうか、サラフェとムツキさんの結婚を、サラフェのワガママを認めてくれませんか?」
サラフェがすべてを言い切った後、キルバギリーが小さくガッツポーズを取る。彼女が懸念していたサラフェのムツキに対する想いを彼に間接的に伝えることができたためだ。
「ぐぐっ……」
サラパパはサラフェに手を伸ばそうとしたが、やがて、自分に言い聞かせるように首を横に振って、伸ばした手を引っ込めた。彼は折れた剣を拾い上げ、腰に提げた鞘にゆっくりと収める。
「……ムツキ殿」
「はい」
サラパパは踵を返し、ムツキやサラフェを見ない方向を向いてから話しかける。ムツキは静かに応える。
「サラフェがここまで言っているのだ……貴方のことを認めようじゃないかっ! ……うううううううっ……サラフェのことをよろしく頼む……」
サラパパの顔は従者から丸見えだった。その顔は泣き顔でひどく歪みつつ、どこかホッとしたような複雑怪奇な表情をしていた。
「はい! きちんと改めて挨拶にも伺います!」
「サラフェ……」
「はい……」
「よくここまで育ってくれた……パパは嬉しいぞ!」
「……はい!」
サラフェは今にして少し寂しく思ったのか、目尻に涙を浮かべていた。
「ふふっ……見た目は、パパ大好き、結婚すると言っていた頃から変わらずに、まったく成長していないのに、こうして寂しくなるほどに、心はきちんと立派に成長してくれていたのだね……」
サラパパは感極まってしまい、うっかり、サラフェの見た目のことを呟いてしまう。彼女は見た目が少し幼いのがコンプレックスであり、そこには誰もが触れていけない領域なのだった。
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「……【ロング】【ガイザー】!」
サラフェが水魔法【ガイザー】を唱えると、サラパパの下から間欠泉が噴き出し、そのまま彼を勢いよく遠くへと飛ばしてしまった。
「あづっ! どわあああああああああっ!」
「あー、領主様! 待ってくださーい!」
「あー、領主様! 待ってくださーい!」
従者がぺこりとお辞儀をした後、渋い声の悲鳴とともに空に消えたサラパパを追って走っていく。
「えー……お義父さん、すごい勢いで飛んでいったけど……」
「知りません!」
サラフェは頬を膨らませて怒っている。
「それと……気持ちを教えてくれて、ありがとうな……」
「……知りません!」
サラフェは頬を赤らめつつ膨らませて家へとすたすた歩いて戻っていった。
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