4-6. 娘が心配だったから遠路はるばるやってきた(4/5)
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サラパパが先手必勝とばかりに紳士服に見合わない素早さであっという間にムツキの前に現れる。この速さにムツキが驚く。
「さっさとくたばれぃっ!」
「とても決闘の紳士の言葉とは思えない!」
サラパパの高速突きが繰り出されるもすべてがムツキの近距離攻撃無効によって、軌道が逸れていく。彼は軌道が逸れていくにも関わらず、まるで円を描くように絶えず攻撃を続けていた。
一方のムツキは、どうやって傷付けずに、かつ、結婚を認めてもらえるようにできるかを考えていた。彼が本気を出せば、おそらく一瞬で決着をつけられるが、サラフェの父親を傷付けたくなかったのだ。
「娘に寄りつく虫などその言葉で十分だっ! ふっ……そこだっ!」
サラパパはある一点を精密に突く。
すると、まるでムツキの近距離攻撃無効がなくなったかのように、レイピアの刃先がムツキの服装を掠め、少しばかり切り裂いた。
「えっ……マスターの攻撃無効や【バリア】をすり抜けた?」
このサラパパの攻撃には、ムツキだけではなくキルバギリーも驚いた。偶然はあり得ない。つまり、彼の攻撃は無効を無効にする必然性のある攻撃なのである。
「如何なる物も、娘を思う私の気持ちに貫けぬものなどないっ!」
サラパパの正確な高速突きにより、ムツキの服装がどんどん切り裂かれていく。
「……どういうことだ? あの剣に特殊な細工もなさそうだし、お義父さんの特殊な能力でもなさそうだが……」
「来ないのか? 舐められたものだなっ! では、こちらからさらにいくぞっ!」
サラパパの正確な連続突きを何度も見ているうちに、ムツキはあることに気付く。
「あ、的確に同じ所を突いてくる! まさか、穴があるのか!」
サラパパはニヤリと笑い、少し手を止めた。
「穴は少し違うぞ。どんな強力な魔法や能力でも、それが存在するものである限り、起点や終点が必ず存在する。基本的にその起点や終点が最も脆い部分なのだよ。つまり、起点もしくは終点さえ読めれば、たとえ、極小の点であろうと、その隙を突くことなど、剣の勇者ならば造作もない!」
サラパパは少しだけ解説を交える。
「そんな点なんてよく見つけ……手袋か……」
ムツキは先ほどの手袋がお花畑のように広がっていたことに少し違和感を覚えていた。手袋がほとんど重なることなく広がっていたということは跳ね返し方が異なっているということだからである。
「ほぅ! 虫の割に少しは察しがいいようだな。手袋をいくつか投げつけた際に受け流される流れが異なることに気付いた。あとは連続突きで範囲を絞ればよいだけだ。つまり、貴様の能力にも起点が存在するのだっ!」
「さすが領主様!」
「さすが領主様!」
サラパパの高速突きが再び繰り出される。
ムツキはそれまでロクに避けていなかったが、今回は大きく横に避けた。彼は小さく溜め息を吐く。
「なんでこう、お義父さんってのは最強を崩してくるような規格外の人たちばかりなんだ……」
ムツキは自身の規格外を棚に上げつつ、最強に迫らんとする自分の義父たちに尊敬と畏怖を覚える。
「これは意外でしたが、でも、マスターが有利なことは変わりありません。1か所ないし2か所しか攻撃できないのであれば、そこだけ注意していれば良いのですから」
キルバギリーは冷静に分析をし始める。
「ふっ……先ほどの種明かしをすれば、防ぐことは簡単……そう思うだろう?」
サラパパはムツキの無効を突き抜けた後に、剣から何かを放出する。ムツキはそれを受けて、顔を歪ませる。
「ぐっ……剣から魔力を発して攻撃してきた? でも、魔力なら……」
「魔力ではない。内緒だ。ただ、こういった芸当もできるとだけ教えてあげよう」
魔力であれば、ムツキの持つ膨大な魔力の前に打ち消される。しかし、サラパパのそれはムツキの魔力を意に介さずにムツキの身体へとダメージを与えていく。
「それでも、俺は負けるわけにはいかない! サラフェも大事な妻の一人なんだ!」
「サラフェを想う気持ちは誰にもっ! ……ん? 待ちたまえ……」
「え……?」
ムツキがいかにも熱意のある男のように叫びながらサラパパに突っ込んでいこうとする。その時、そのムツキの言葉にふと、サラパパは違和感を覚えて、思わず決闘中に彼を制止した。
「サラフェ……も……?」
「そういえば、説明していませんでしたね。マスターはサラフェや私も含めて、7人の妻がいます」
数秒ほど、再び場が静かになる。その後、サラパパから異常なほどの殺意が溢れ出てきた。
「な、な、な、なんだとぉっ! サラフェだけではないのか! というか、キルバギリー殿までかっ! ぜぇったぁいぃに許さんぞぉっ! サラフェだけに飽き足らず複数の女性を囲いおってぇっ!」
サラパパの怒りが殺意となってムツキに襲い掛かる。
しかし、それが仇になる。あまりの怒りで単調な攻撃になってしまい、容易に躱せるようになったのだ。
やがて、ムツキはサラパパのレイピアに横から衝撃を加えて叩き折る。
「くっ……しまった……剣が……折れてしまったか……」
「……ハーレムは俺の夢です! 可愛い子に囲まれてイチャイチャしたいんです!」
ムツキのその大胆な発言に、サラパパ、従者二人、キルバギリーまでコケる。
「貴様! それがハーレムを認めていない親に言うセリフかっ!」
「それでも! 俺は嘘が吐けません!」
ムツキの真っ直ぐな瞳に、サラパパは少し呆れつつも素直さに好感を持ってしまった。
「ふふっ……そこまで言うならば、私を倒して、認めさせてみろっ!」
「俺は傷つけたくありません!」
「領主様、降参してください!」
「領主様、降参してください!」
既に攻撃手段を持たないサラパパと、攻撃を手段としたくないムツキが見つめ合いながら対峙する。
ムツキは以前、ナジュミネの父親と漢の勝負をした際に熱くなりすぎて失敗をしたので、今回、冷静な決着を求めようとがんばっていた。
「うるさい! 降参などしないぞっ! まだ一撃ももらってない! それに降参など口が裂けても言えんっ!」
「そんなこと言わずにお義父さん、俺をもう認めてください!」
「まだまだ認められるかぁっ! 臆せず一撃当ててみろ!」
「お父様! ムツキさん! そこまでです!」
そこにはサラフェがいて、二人に向かって叫んでいた。
その後ろから、全員が先ほどまでの騒ぎで決闘の場所まで来ていたのだった。
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