4-4. 娘が心配だったから遠路はるばるやってきた(2/5)
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楽しんでもらえますと幸いです。
キルバギリーはムツキの後ろから現れたが、話しやすいように二人の間くらいに立って、説明を始める。
「まずマスターが状況をよく分かっていないようなので、なぜサラフェの父親である領主様がマスターのことを知ったのか、から説明して差し上げます」
キルバギリーは眼鏡を右手でクイクイっと上げる。その動きが楽しいのか、彼女は眼鏡を付けた時に眼鏡を上げる仕草をかなりの頻度で行う。
「えっ……サラフェがお義父さんに説明したんじゃないのか?」
「いえ、違います。話の流れはこうです」
キルバギリーが数回連続で眼鏡をクイクイっと上げると、急に彼女の眼鏡が光を出した。その後、眼鏡から出力された光によって、空中に大きなスクリーンが投影される。
「なんかハイテクだな……」
ムツキのこぼしたセリフの後、そのままキルバギリーの回想シーンに入る。
まず登場したのはサラフェであり、場所はサラフェの部屋だった。時間はもちろん、先日のサラフェが健康診断を受けるために帰省したとき、健康診断も終わって結果が返ってきて、再びムツキの家に戻ろうとする頃である。
サラフェは帰り支度をしているのか、既に身ぎれいな姿をしており、周りにキルバギリーしかいないからか、少しだけダラっとした様子でベッドの上で荷物を確認していた。
「さて、これで荷物は詰めましたね。まったく……お父様ったら、ちょっとしつこいのです……健康診断の結果が良好なのですから、少しは放っておいてくれないと困ります……」
サラフェは、サラパパの心配に言葉の上で辟易しているようにも見られるが、その少し口の端が崩れている表情を見ると嬉しそうにも見えるといった様子だった。
しかし、映像を見ているサラパパは言葉だけで判断したようで、その場で涙をポロポロと零しながら膝から崩れ落ちていた。
「……まったく素直じゃありませんね。マスターにもそういった態度ですし、いつか見限られてしまいますよ? いつまでもマスターが優しいとは限りませんからね?」
キルバギリーの視点のため、彼女は声以外だと手足が見られるくらいであるが、声色からして少しサラフェを諫めているようである。
「そんな! ……いえ、見限るくらいなら、最初から相手にしないでくださいと言いたいですね。まあ、ムツキさんは他の男とは……まあ、ちょっとだけ違うようですし、そんなことはしないと信じていますけど」
サラフェは一瞬焦るような表情を見せてから、ムツキを信頼しているような言葉を口にして自然と柔らかな笑みを浮かべている。
映像を見ているムツキはこのような彼女の表情や仕草を見たことがなく、思わずその可愛さにドキッとする。いつも彼女にはツンケンされていて、そのギャップに心を奪われたようである。
「ムツキとは誰だっ!」
ここで何故かサラパパが壁に穴を空けて登場し始めた。その隣には鍵も掛けられていない扉が開けられもせずに寂しく閉まったまま佇んでいる。
「お父様!?」
「領主様!?」
聞き耳を立てていたサラパパの突然の登場に、サラフェはドン引きした表情を見せる。
「ぬああああっ! てっきり、サラフェは、ゆ、勇者の任務だと※(☆一▢〇%一△”)が、最近、帰ってこないのはどこの§°±Δ男の所に入り浸っていたのか! さ、サラフェに、お、おと、おと、◎△$♪×¥●&%#!?」
興奮し切っているのか、言葉にしたくなくて濁しているのか、サラパパの言葉は聞き取れない所が多々あった。
「領主様、興奮し過ぎて、途中何を言っているのか分かりません」
「許さん……許さんぞぉ……嫁入り前の娘の純潔を犯した者は決して生かしておけぬ……」
サラパパは腰に携えていた細剣レイピアを瞬時に抜き放ち、どこからか取り出した藁人形のようなものを放り投げて高速で連続突きする。藁人形のようなものは凄まじい音とともに原形を留めることなく粉々に砕け散って床に散らばっていた。
「領主様、大丈夫です! 奥ゆかしいサラフェはまだ肌を許していません!」
「それは本当か! キルバギリー殿!」
サラパパはその事実に顔をほころばせて喜びを露わにする。
「ですが、婚姻関係にはあります」
「こ、婚姻!? け、kkkkkkkkkkっけkっけkっけkkkk、結婚!? サラフェが結婚! 私のかわいいかわいいサラフェが……見知らぬ男と……結婚……だとっ……」
先ほどの笑顔はどこへやら、サラパパは一瞬にして驚きで叫んでいるような表情へと変貌し、やがて、まるで棒きれが倒れるように直立して硬直したまま倒れてしまった。
彼は泡を吹いて目を回しているため、キルバギリーは彼に近付いて介抱をしているようだが、彼を見たサラフェはすぐさま荷物を持ち始めた。
「……説明も面倒ですから……このまま帰ってしまいましょう」
「サラフェ……それはなんでもひどすぎですよ……」
「いいですから……どうせいつも忙しいのですから、追ってこれないでしょう? 次の機会に説明しましょう」
「いえ、そういう問題では……」
サラフェは渋っているだろうキルバギリーを有無も言わせずに連れて行こうとする。
「うーん……サラフェ……パパを置いて行かないでくれ……」
結局、サラパパは目を回したままで起こされることもなく床に倒れたままでいた。
ここでキルバギリーの映像は途切れた。
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