3-47. 悪い奴だが不憫だった(2/2)
約2,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
「全隊止まれ! リゥパなのか?」
ナジュミネはモフモフ軍隊に号令を掛けた後、目の前にいたリゥパの姿をした人物に声を掛ける。リゥパはコクリと一度頷く。
「ええ……メイリゥパから、元のリゥパに戻ったわよ?」
「それは良かった……ところで、リゥパじゃなくても……サラフェでもいいのだが、遅れて来た妾にも分かるように、手短にこの状況を教えてもらえるか?」
ナジュミネの目の前には、天井のない部屋の奥の方で触手に捕まっているというよりも乗せられているユウ、リゥパの姿をしたメイリ、キルバギリーがおり、その手前には苦笑い気味のムツキと、真剣な眼差しをしたアニミダックがいた。
普通ならムツキの下へと加勢に入るべきだが、リゥパとサラフェが神妙な面持ちでただただ突っ立って眺めているので、ナジュミネには状況が理解できなかった。
「いえ、サラフェにはよく分かりません……」
「私もよく分からないんだけど、えーっと……リテイクとやら……らしいわ」
サラフェは答えるのも理解するのも諦めている様子で、リゥパは理解していないもののどうにか伝えようとしている。
「あー、その、リテイクとは何だ?」
「やり直し、って意味みたい」
「何を……だ?」
ナジュミネは何となく察しがついてきた。ユウが眠っているフリをして、薄目でチラチラとムツキとアニミダックを見ているからである。
「ムッちゃんがアニミダックをボコボコにして、ユウ様を助けてキスをする、らしいの」
「……は? 何をしているんだ?」
「さすがにそれを……私に聞かないでくれる?」
ナジュミネの当然の質問も、リゥパやサラフェにはもちろん答えることができなかった。
「い、いくぞ、アニミダック。えっと……ユウを眠らせ、あー、リゥパやキルバギリーを攫ったのは許さない……ぞ!」
「ははっ! ユースアウィスは俺のものだ! お前に指図される筋合いはねえんだよ!」
ムツキは先ほど覚えさせられたセリフを思い出しながら戦意を喪失している状態で喋る。一方のアニミダックは先ほど覚えたとは思えないほどの熱意を溢れさせながら失った戦意を取り戻したかのように言い放つ。
「えっと……ていっ……」
「このバカ野郎がっ!」
ムツキがアニミダックに近付き、小突くように頬に拳を当てる。すると、アニミダックが急に激昂する。
「えっ」
「ユースアウィスは、全力でお前が俺をボコボコにするって言っていただろうが! いいから、早くやれ!」
アニミダックは先ほどボコボコにされた恐怖を思い出しながらもムツキに全力で来いと説教をしていた。
ユウは満足そうに小さく肯いており、彼女以外の全員が「全くもって訳が分からない」といった状態である。
「アニミダック……」
「いいから早くやれ!」
アニミダックは足を震わせて涙さえ浮かべている。そんな彼を見て、ムツキは呆れを通り越して憐れみを覚え始めた。先ほど散々彼に痛めつけられたメイリさえも怒りよりも既に同情が上回っている。
「……なんだ、あれ。アニミダックは頭がおかしくなったのか?」
「たしかにここまできたら、頭がおかしいとは思うけど……まあ、惚れた弱みというのかしらね……。私もユウ様がこれの指導をしている時から見ていると、なんか……呆れを通り越して、不憫に思えてきちゃって……。で、アニミダックがあれだから、メイリもキルバギリーも付き合ってあげているのよ……ユウ様の作ったシナリオに……」
ムツキは仕方なく、少しだけ威力を強めて数回殴った。
「ぐああああああっ!」
アニミダックが壁へと吹き飛ばされ、そのまま壁にめり込む。ムツキは翻って、ユウの下へと小さな溜め息を吐きながら歩いていく。その後、キルバギリーとメイリが触手から降り立って、ムツキに近付いた。
「あー、ますたー、まだユウさんがねむったままですー」
「キルバギリーは演技がヘタですね」
「いや、付き合っているだけすごいだろう……」
サラフェが冷静にキルバギリーの演技力を評価している横で、ナジュミネは思わずツッコむ。
「こうなったらー! ムッちゃんが、きすしてめざめさせるしかないわー! おとぎばなしならそうだものー!」
「なんか、リゥパの演技がヘタに見える、というか、怒ってないか?」
「私じゃないわよ! っと、そうじゃなくて、メイリってば、アニミダックにボッコボコにやられてまでユウ様を助けたのよ? そのユウ様に、ヒロインの立場を取ってズルいって言われたらしいわ」
リゥパのその説明にナジュミネとコイハ、モフモフ軍隊までもがドン引きした。
「嘘だろ……さすがに……」
「そりゃないぜ……」
「にゃー……」
「わん……」
「ぶぅ……」
「本当らしいわよ……さすがのメイリも怒って付き合っているみたい」
「付き合っているだけでもすごいだろう……妾ならそんなこと言われた日には怒り狂うぞ」
「私もそう思うわ。でも、妹分ってことで自分なりに折り合いつけているんでしょうね」
「この状況は、誰もが不憫だな……」
ムツキはユウが大人の姿になっていることを確認し、彼女のキスをせがむ口に口づけをする。
「やったわ! ユウ様がおきたわー!」
「さすが、ますたー」
「ありがとう! ムツキ!」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああっ! ユースアウィスうううううううううううううううううううっ! あああああああああああああああああああああああああああああっ!」
大根役者たちの演技の横で、アニミダックが壁にめり込みながら悲痛な叫びを響かせている。誰もが彼に同情し、許すとか許さないとかそういう次元ではなくなっていた。
ムツキやメイリでさえも、どこかで彼が救われてほしいと思い始めている。
「ユウはとんだ悪女だな……」
「そうね。さすがにこの状況を見ると同意するわ……」
こうして、アニミダックとの闘いは彼の悲痛な叫びとともに幕を閉じたのだった。
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