3-44. 敵も強いはずだが最強には敵わなかった(1/2)
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ムツキは立ち上がる。彼の瞳の色がいつもの黒から髪の毛と同じ紫へと変化し、ぼやっとした淡い光を放っていた。
彼は負の感情が高まると瞳がこうなる。ユウはこの状態の彼を見たら、どうにか宥めようとしていたくらいに危険な状態である。
「お前がアニミダックか……」
ムツキは怒りの感情を隠すことなく表情に映し出し、真っ直ぐアニミダックを睨み付ける。一方のアニミダックは気味が良いと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「そういうお前がムツキか。なるほど、俺に似て、美男子であることは間違いないな。だが、ユースアウィスは俺のものだ! 俺のいない間に勝手なことするんじゃ……」
その時、ムツキがアニミダックの言葉を遮るように言葉を放つ。
「だったら、なんで、ユウを眠らせたまんまなんだ……?」
「……あ?」
「お前は怖かったんだろう? ユウが自分の下から去っていくのが」
ムツキのその言葉に、アニミダックは怒りを露わにし、触手をできる限り生成する。
「っざけんな! お前が変な魅了なんてしなけりゃ、そんなことあるわけねえだろうが! お前のその厄介なスキルがなきゃ、俺はすぐにでもユースアウィスを起こす!」
「……なんで、リゥパとキルバギリーをさらったんだ……」
「ははっ! エルフとラブドールのことか。言うまでもねえことだが、ユースアウィスに似た女がお前の下にいるのが我慢ならない! 人のモノを勝手に掠め取った泥棒猫になんだかんだと言われる筋合いはねえ!」
「……なんで、メイリにここまでひどいことをした……」
「は? あぁ……そこのタヌキのことか? 俺を欺いてエルフになりすましたばかりか、ラブドールとユースアウィスを逃がしやがった! それに散々コケにしてくれたからな! そもそも、下等な半獣人族なんざ、生きている価値すらねえんだ! 駆逐するのが一番に決まっているだろうが!」
ムツキが我慢ならなくなり、地面を踏みつける。地面にいくつものヒビが入り、伝わった魔力で彼の周りに近付いていた触手が消滅する。
「さっきから、お前、自分のことばっかだな……」
「ああ?」
「ユウがどんな気持ちだとか、リゥパやキルバギリーがどんな気持ちになったとか、メイリがなんでそういう行動を取ったのかとか、お前は考えたか?」
アニミダックは笑う。彼は高らかに笑い、ムツキのことをバカにしたような目で見る。
「はーっはっはっはっは! あるわけないだろうが。だったら今度は俺から質問しよう。なんで、人のことなんざ、考えなきゃいけねえんだ? 自分が良ければ、自分の目的を達成できれば、それで十分だろうが! なにが誰々の気持ちだ! じゃあ、お前は俺の気持ちを考えたことがあるってのか!? 俺はお前にユースアウィスを取られて、散々な気持ちになったね! 俺の方がユースアウィスを愛しているのに、新参者のお前が来て、あまつさえ、ユースアウィスの身体や純潔も貪ったんだろうが! さあ、どうしてくれるってんだ! 俺の気持ちにお前はどう考えるっていうんだよ!」
アニミダックはムツキにただただ怒りをぶつける。どうにもならないことをまるで子どものように彼にぶつけているに過ぎない。
「そうか。お前はそうやって、ほかの誰かの気持ちを考えることもなく、それどころか、自分が、自分が、と自分の気持ちばかりを押し付けてくるんだな……。はあ……あのなあ……そんなやつが周りから気持ちを考えてもらえるわけないだろうがっ……」
ムツキはアニミダックの主張を簡単に切り捨てた。話し合いにならないといった様子で、更なる怒りが徐々に込み上げてくる。
「ああ!? それが俺に対するお前の答えか!? お前だって人のことなんざ考えてないじゃねえかよ!」
「……そもそも、俺に直接来ないで、俺の周りに八つ当たりして迷惑を掛けているような奴に同情の余地はない……今からお前を倒すから……覚悟しろ……」
ムツキはアニミダックを指差し、静かに宣言した。ムツキの周りの大気が震え、雰囲気が一瞬にして異様なほどに冷たく暗くなる。
「はーっはっはっはっは! 面白い! やれるもんならやってみやがれ!」
「……暗いな」
ムツキが手を上にかざした瞬間、部屋の天井が青くなった。
天井の色が変わったのではない。天井がなくなったのだ。
天井だった部分はムツキによって消し飛ばされて、真っ青な空が部屋を覗き込んでいる。つまり、山はまるで巨人に抉られたかのように頂上の部分がなくなってしまった。
彼が本気を出せば、世界が終わる。ユウの言葉は決して誇張でも間違いでもない。
「あ?」
アニミダックも思わず震えた。しかし、そんな様子は見せるわけにはいかないと再び高らかに笑った。
「はーっはっはっはっは! こりゃ傑作だ。山を一つ吹き飛ばして、力を見せつけているつもりか? 俺がビビるとでも?」
「いや? 暗いとよく見えないだけだ……」
「見えようが見えまいが関係あるわけねえだろう」
アニミダックの触手が徐々に増える中、ムツキはかざした手を下ろして、悠然と立ち構えていた。
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